7買い物
そして、買い物に行く日。
「ごめん、ほんと……」
沖田に頭を下げられ、葵は手を振った。
「良いですって、そんなに謝られるとどうしたらいいか」
「なになに? どしたのー?」
藤堂が興味津々に近づいてきた。
「今日、買い物行こうねって言ってたんですけど総司さんに急用ができちゃって」
「そしたら僕一緒に行ったげるよ。荷物とか持つし、場所も知ってるから」
藤堂の提案に、沖田が顔色を変える。
「駄目」
「なんだよケチ!」
「ケチとかじゃなくて、あの家に葵以外入れたくない」
「同じじゃん。じゃあ先に見てるから後から来たら? すぐ済むんでしょ?」
藤堂に来てもらうのも申し訳ないと、葵は沖田を見上げた。
「総司さん、私買い物今度でいいです」
向こうで「早くしろ」と、土方が沖田を呼んでいる。
沖田は「行きます」と返事をしてため息をつく。
「錦市場のあたり見てて。藤堂、悪いけど葵をお願い。それから……」
沖田はくいっと、葵の女物の小袖を引き、声を潜めた。
「藤堂と行くなら袴で行って。後、斎藤も連れてって」
「……? わかりました」
意図を理解しないままにうなずいた。
沖田は、さっそく和気あいあいと藤堂と話し出した葵を見て眉を寄せた。
が、土方に再度呼ばれて、身を返して駆けて行った。
◇
そんなわけで男物の袴に着替え、斎藤と藤堂と買い物に出た葵。
錦市場のざわめきの中、二人の男は同時に口を開いた。
「まずは金物だ」「まずは調度品だよね」
斎藤はふっと口端を上げた。
「家を持ったら、まずは金物屋と相場は決まっているだろう」
藤堂はむうっと頬をふくらませる。
「斎藤家持ってないでしょ? ま、掛け軸とか部屋の雰囲気決めるものは、沖田が来てからのがいいか」
うむ、と一つ頷く斎藤に続き店に入った。
金物屋の中には、鍋や包丁などがところ狭しと並んでいる。
隣では、斎藤が鍋を耳に近づけ、底を軽く叩き、これとあれと……と、道具を木台へ並べ始めた。
そのまま決めそうな勢いに、藤堂が「葵ちゃんに選ばせてやれよ」と斎藤をたしなめる。
それから彼は、鍋を持ったままぼんやりしがちな葵に声をかけた。
「沖田、もう来ると思うよ」
そうですよね、と笑うと藤堂は鍋を引き取った。
「ちゃんと沖田に、一緒に行きたかったって言った?」
「それは……任務ですし」
「葵ちゃんのわがままなら、沖田も喜ぶよ。せっかく新婚なんだから、もっと甘く可愛く」
「わがまま、甘く、可愛く……」
唱えると、耳の奥に何度か反響した。
「そうだよー、私だけ見てて! って。任務と私どっちが大事なの! って」
「阿呆。そんな女を娶ったら剣に支障が出る。帰ったら静かに茶を差し出すくらいで十分だろう」
「お、珍しく斎藤が女の趣味を語ってる」
斎藤は葵に向いた。
「沖田の女の趣味は知らん。本人に聞け」
葵は頷いた。「選ばせてやれ」と言われたのに、斎藤は鍋と包丁をしかと抱えて会計へ向かった。
「え、斎藤さんお金」
「餞別だ」
「それを言うなら祝儀、でしょ」
割り込んだ声に、振り向いた。
「総司さん!」
藤堂が声をかける。
「沖田早かったじゃん。そんな汗かいてるとこ久々に見た」
「そりゃ、走りましたから」
葵はきゅんと胸がときめいた。
(汗かいてても、かっこいい。息切れしてるのもかっこいい……)
藤堂は「葵ちゃん、目が飛んでるよ」と首をすくめる。
斎藤が、購入した金物を沖田に押し付けた。
「では、我々は退散する」
「えー、もっと買い物したいぃ!」
藤堂が抵抗を見せる。
「ありがとう斎藤、藤堂。助かったよ」
沖田の笑顔で強制的に終了になり、藤堂達は、葵に何度もお礼を言われながら去っていった。
姿が見えなくなると、葵は懐から手ぬぐいを取り出した。
「汗、冷えるといけないので」
布を持った手を伸ばすと、沖田が身をかがめた。
そっと、押さえるように彼の額と首筋の汗を拭いた。
「ありがとう」
(……好き)
――駄目だ。浮かれてる。でも、総司さんに言ってみてもいいんじゃない?
と脳内会議をしている内に汗を拭き終えた。
「待たせてごめんね」
「いえ、全然――あの……好きです」
唐突に溢れた告白に、沖田は驚いてから頭にぽんと手を置いた。
「俺もだよ」
甘い笑顔に溶かされ、
その後葵は雲の国にいるようだった。
売っているものはどれも素敵に見えた。
「好きなのにしな」と言われ、葵はどきどきしつつも可愛い茶器を買った。
沖田が「これ良いんじゃない?」と選んでくれた夫婦茶わんと箸が宝石に思えた。
掛け軸を前に「どれも同じに見える」と悩む彼の顔をそのまま飾りたかった。
全てが眩しくて、目がやけそうなほどの幸せで、
「大体揃ったかな」
「はい!」
元気に返事をして、一緒に家に帰った。




