第一章「接触」3
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毎回繰り返されるコントのようなやりとりを見て、マークは笑っていた。
狭い荷台でのたうち回っているマイケルに、「にゃーにゃー」と喚きながら文句を言う瑞樹。
「ふ〜! にゃーーーーっ!」
昔から瑞樹は、極度に興奮したりすると、喋り方が猫みたいになる。
マイケルはそれを面白がって、よく興奮させて遊んでいる。本物の猫と同じく、瑞樹も手を出してくるが、これがプロボクサー顔負けのパンチ力。意外と命がけだったりするのだ。
実際にマイケルの顔は、青アザだらけになっている。
「おいおい、瑞樹ちゃん。落ち着いて、仕事する前にマイケルが、再起不能になるよ」
「にゅあ! ……あ、マーク。失礼な、私は物凄く落ち着いているにゃ!」
未だ興奮冷めやらずの感じで、瑞樹はマークに顔を見せる。毛を逆立てて怒る猫よろしく、瑞樹の長い髪の毛は乱れていた。マークは苦笑しながら、それを横目で見ている。
ルームミラーで荷台を見ると、マイケルが傷の手当てをしてもらっていた。それにしても、見事に引っ掻かれたものだ。縦に横にと、マイケルの顔に傷が刻まれている。
ライアンは救急セットから、消毒薬やらを取り出して、マイケルの顔に塗りたくっていく。
当然、傷が染みたらしく、マイケルは呻く。まるで子供のように、手足をばたつかせながら。
「い、いてええぇぇ! もっと、優しくしろよ! すげぇ、染みるだろ!」
「ち、ちょっと、マイケルさん。動かないで下さいよぉ」
手当てをしようとするが、マイケルが動いて出来ない。ライアンは、それを必死に押さえ込もうとしていた。側にジョージも居たが、無視をするように本を読み続けている。
「傭兵なんだから、そんな傷で騒がないでよ。うるさくて、堪らないわ!」
「だ、誰のせいだと思ってるんだよ! これはお前が付けた傷だろうが! お嬢ちゃんよ!」
元はと言うと、マイケルがからかったのが元凶な気がするが。マークは思わず突っ込もうかとしたが、これ以上長引かせるのが嫌だったので、スルーを決め込んだ。
やっと瑞樹は落ち着いたようで、猫語を話さなくなった。相変わらず、マイケルは荷台の中を転がりながら、痛みに耐えていた。
仲が悪く見える二人だが、実際は凄く仲が良かったりする。
歳の離れた兄弟とも言うのか、なんだかんだマイケルは面倒見が良い。何かと瑞樹を気にしているが、恥ずかしいのだろう、照れ隠しにちょっかいを出してしまう。当の瑞樹は、それに気づかずに本気で怒っている。とは言え、お互いが本当に信頼しているから、こんなにも罵り合えるのだろう。
マークの場合は、マイケルより歳が上だから、妹と言うよりは娘という心境だった。
隊長のクラウスも含めて、瑞樹はこの傭兵隊全員のお姫様なのだ。
「だいたいね、マイケルは下品すぎるのよ! 新人訓練の時も、マラソンさせながら変な歌を歌わせてるし! 年頃の女の子が居るんだから、もっと気をつけなさいよ!」
いや……前言撤回、女王様と訂正しよう。と、マークは心の中で思うのだった。




