第80話 汗だく
カイが、ふと空を見上げて固まった。
「やべ、遅刻しちゃう」
二人は片付けもそこそこに、それぞれの家へ走った。
◇
家に戻って湯を浴びて、制服に着替えて、それからまた学舎へ。歩いていては、間に合うはずもない。
レイは全力で走った。
「セーフ……」
席に着くと、前の席のサクが振り返った。
「レイ、お前……」
背もたれ越しに、目を丸くしてこちらを見ている。
「なんか、汗すごくないか?」
「え」
言われて、初めて気づいた。
急いで走ってきたせいで、また汗をかいている。せっかく湯を浴びてきたのに、意味がなかった。
「朝練か?」
「うん。今日は、カイと打ち合いをしてて」
「打ち合い!?」
サクが、背もたれから身を乗り出した。
「何使って打ち合ったんだ?」
「木刀だよ。カイが、防具も持ってきてくれて」
「いいなー、俺もやってみたい」
それから、すぐに肩を落とす。
「……朝は、父ちゃんの手伝いがあるんだよなあ」
ガラガラガラ、教室の扉が開いた。
「元気かー」
マークが入ってくる。そして、レイを見て、少し眉を上げた。
「レイ。お前、なんでそんなに汗だくなんだ」
「あ、その……朝の鍛錬をしてから来たので」
額の汗を、手の甲で拭う。
マークの視線が、その手で止まった。
目つきが、すっと鋭くなる。
大股で、机の間をこちらへ歩いてくる。
「手、見せてみろ」
「え?」
言われるまま、両手を差し出す。
手のひらが、真っ赤に擦れていた。指の付け根のまめが、一つ潰れている。
(……いつの間に)
「打ち合いか」
「はい。カイと」
「鍛冶屋の息子か。さっき廊下を、同じ顔して走ってったぞ」
マークは、合点がいったようにつぶやいた。
「そういやー、レンやメルも時々、教室に駆け込む姿を見るな」
「はい!四人で鍛錬をしてます」
「お前ら、毎朝どこでやってる」
「町の外れの、訓練場です」
「で、そのあと家に戻って、また学舎に来てるのか」
「はい」
「効率が悪いな」
腕を組みながら答えた。
「裏の水場、使っていいぞ」
「いいんですか!?」
「朝、汗をかいてきたなら、あそこで流してから教室に入れ。井戸水だが、夏なら十分だろ」
「でも、どうして……」
「汗だくで座ってても、話なんか頭に入らんだろうが」
言いながら、マークは教壇へ戻っていく。
「授業に遅れなければ、好きに使え。遅れたら水場の使用禁止な。それだけだ」
それ以上の説明は、しなかった。もう、授業の準備を始めている。
(……いいんだ)
(ありがたく使わせてもらおう。後でみんなに報告しよう)
投稿することができました。
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