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紫雷の魔法使い  作者: 黒猫
ヴェイル領 第二部
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第79話 朝練 打ち合い

10/10くらいまで忙しくてあまり投稿できないかもしれません。すみません。

落ち着いたらまた投稿させていただきます。

レイの物語を少しでも多くの人に読んで頂けたらと思います。

皆さんいつもありがとうございます!

「メルとレン、今日は休みだってさ」

先に来ていたカイが、背負っていた布包みを地面へ下ろした。


今日はレンもメルもお休みらしい。実家の手伝いだという。


(いつも忙しいのに、鍛錬に付き合ってくれてるんだよな)

(ありがたいな。みんな、ありがとう)


レイは、心の中で感謝した。


(……そういえば)

(カイは、なんで布包みなんて持ってきてるんだろう)


(家の手伝いの荷物かな。だとしたら——)

(家の手伝いを、優先してもらわなくちゃ)

そう言おうとした矢先、カイが包みの結び目を解きながら顔を上げた。


「なあレイ。今日は木刀の打ち合いをしようぜ」


「打ち合い?」

「……僕、打ち合いってやったことないよ。素振りだけで。どうやってやるの? 魔術を狙って切る練習とか?」


カイの手が止まった。

「……魔術を切る。そうきたか……」

言いながら、包みの中身をレイに見せる。


「そうじゃなくてさ。木刀の真ん中に目印をつけて、そこを狙って打ち合うんだ。相手の目印に当てたら一本。木刀を落としても負け。顔と首は狙わない。たまに、うちに来る客がやってる」


布の中から出てきたのは、木刀が二本と、木を削った防具だった。頭を覆う椀のようなものと、胴当てと、小手。厚い板を革紐でつないである。


「わ! すごい、使っていいの?」

レイは膝をついて覗き込んだ。伸ばしかけた手を、いったん引っ込める。

(でも、壊しちゃったら申し訳ないな)


カイが、先に口を開いた。

「いいも何も、そのために持ってきたんだからな」


「ありがとう」

レイは笑顔でそう答えた。


改めて、木刀と防具を丁寧に触りながら観察する。

板には無数の打ち傷が残っていた。革紐のほうは、何度か新しいものへ替えられている。


カイは炭を取り出すと、二本の刀身の中ほどを、指一本ほどの幅で黒く塗った。

「この印を狙うんだ」


受け取った防具を、レイは順に身につけていく。胴当ての紐は固く、椀は思ったよりも重かった。


「防具って、意外と重いんだね」


「まあな」

カイが自分の胴を叩く。乾いた音が響いた。


「いい素材が使えりゃ、軽くてもちゃんと体を守れるやつが作れるらしいけど。今の俺たちにそんな金はないだろ。これで十分だ」


支度が整って、レイは顔を上げた。椀の縁が眉のあたりまで下がり、視界の上が半分ほど見にくい。胴当ては肩の位置が合わず、動くたび左へ傾いた。


カイのほうも似たようなものだった。胴当ての裾は、腿の途中まで届いている。


どちらからともなく、笑いが漏れた。大人の背丈に合わせて作られたものを、二人で着ている。


木刀を握り、互いに腕を伸ばしても、切っ先がわずかに届かない距離で向いあった。


「構え方って、どうしたらいいのかな?」

「アイ先生と一緒に素振りをした構え方でいいんじゃないか? 俺も自己流だぞ?」


「うん」

レイは木刀を胸の前で構えた。


カイは右足を半歩引き、腰の前で木刀を斜めに構えた。剣先だけが、レイの胸元へ向いている。


(カイの構え、様になってる気がする)


「レイ、号令頼む」


レイは空気を吸い込み、号令をかけた。

「……始め」


 ◇


レイは、カイの木刀にある黒い目印だけを見て踏み込んだ。


頭上から、まっすぐ振り下ろす。

同時に、カイの木刀が腰元から斜めに跳ね上がった。

二本の刀身がぶつかる。


カッ、と乾いた音が響いた。


硬い衝撃が両手に返り、二人はつばぜり合いになった。ぶつかり合ったのは切っ先に近いところで、黒い目印にはどちらも当たっていない。


いったん、お互いに距離を取る。


(今度こそ)

レイはもう一度振りかぶった。


狙うのは、黒い目印。


けれど、振り下ろす直前にカイが木刀を手前へ引いた。レイの一撃は目印のあった場所を通り過ぎ、そのまま胴当ての肩口へ。


ゴッ、と鈍い音がした。

カイの体勢が、少しだけ崩れる。


「ごめん!」


顔を上げると、カイは笑って答えた。


「気にすんな。鍛錬なんてこういうもんだろっ」

答えを聞き終える前に、横から何かが来た。

カッ。


手のひらに鋭い衝撃が走る。指が開き、木刀が一度回って草の上へ落ちた。


「あ……」

崩れた体勢から腰をひねったのだと分かったのは、木刀が止まってからだった。


「木刀、落としたな。俺の勝ち」

カイが胸を張った。


(——これは、思っていたよりも悔しい)

その言葉が自分の中から出てきたことに、レイは驚いた。

何かを競って負ける機会が、これまでなかった。

いや、競うことから逃げていたのかもしれない。


まだ痺れの残る手で、土のついた柄を拾う。強く握り直した。


「もう一回」


「おう。受けて立つ」


        ◇


三本目。

今度は、待った。


カイが先に踏み込んでくる。腰の前から、斜めに跳ね上がる軌道。


(さっきと、同じ)

木刀を引く。空を切ったカイの切っ先が、目の前を通り過ぎていく。


その下に、黒い目印があった。

振り下ろす。


——カッ。


「……な!?」

カイの声だった。


自分の木刀にある目印を、まじまじと見ている。炭が、わずかに削れていた。


「今の、当たった?」


「……当たったな」


(当たるんだ)

手のひらに、まだ痺れが残っている。


「もう一回」

今度は、カイの方からだった。

        ◇

それから、何本やったのか覚えていない。

腕が重い。握りが甘くなっているのが、自分でも分かった。


カイの息も、荒くなっていた。前髪から、汗が地面へ落ちている。


言葉を交わす余裕は、もう、どちらにもなかった。

気づいた時には、二人とも汗だくだった。


椀を外すと、汗を吸った髪から湯気が立つ。カイの頭からも、同じものが上がっていた。


最後に、二本の木刀を並べてみる。

どちらの炭の目印にも、うっすらと擦り傷がついていた。


「レイ、何本取ったか覚えてるか?」


「え?」


「……覚えてないのかよ」

ここまで読んで頂きありがとうございました!

今日も投稿できました。

ありがとうございます!

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