第77話 腹痛草は美味しい?
「よし、集合」
マークが笛を鳴らした。
戻ってきた各班が、採ってきた草を地面に広げていく。
マークは、一つ一つの班を回りながら、草を確認していった。
「これは正解だ」
「これは違うな。似てるが、薬効はない」
「ん、こっちは……よく見つけたな。珍しいぞ」
そして、レイたちの班の番になった。
マークは、しゃがみ込んで草を見分けていく。
「ふむ。ハナとスイが選んだのは、全部合ってるな」
(二人とも、さすがだ)
「サクとレイのは……お、これは違うぞ」
マークが、一本の草をつまみ上げた。
レイが採ったものだった。
「これは、毒草だ」
「同じように思えますけど……」
思わず、声が出た。
「見た目は似てるがな。葉脈の走り方が違う。ほら、こっちは真っ直ぐだが、こっちは途中で分かれてるだろ」
言われてみれば、確かに違う。でも、言われなければ絶対に気づかなかった。
「腹痛草だ。食えば、腹を下す。まぁ、死にはせんが」
マークは、その草を軽く食べる仕草をした。
「そのままでも食えるぞ。食ってみるか?」
(そういえば、入学式の時も毒キノコがどうとか言ってたっけ)
(これも、おいしいのかな)
レイは、その草を受け取った。
「あ、レイ待——」
サクが手を伸ばすより早く、レイは口に入れた。
「……え」
「ちょっ」
三人の声が同時に重なる。
マークの動きが、止まった。
「あ」
そして、青ざめた。
「おい、待て。今のは冗——」
もぐ、もぐ。
「……おいしい」
ほとんど無意識に食べてしまった。
サクが、口を開けたまま固まっている。ハナは目を丸くし、スイでさえ、いつもの眠たげな表情が消えていた。
マークは、額に手を当てて、深く息を吐いた。
「……お前な」
「はい?」
「冗談だ、冗談。普通は食わんだろうが」
「え、でも、食ってみろって」
「言葉のあやだ!」
マークが、珍しく大きな声を出した。
「……お前、初日の朝礼で言ったことを、実践してるのか?」
「え? いえ、おいしそうだったので」
マークは、額に手を当てたまま動かなくなった。
「あの、大丈夫です。ちょっと苦いけど、なんか爽やかな味で」
「感想はいらん」
◇
——三十分後。
レイは、木の根元にうずくまっていた。
「い、痛い……」
腹の底が、じくじくと痛む。冷や汗が背中を伝った。
「だから言っただろうが」
マークが、呆れた顔で水筒を差し出してくる。
「飲め。薄めれば、そのうち治まる」
「ありがとう、ございます……」
「……大丈夫?」
スイが、しゃがみ込んで顔を覗き込んできた。淡い青色の瞳が、心配そうに揺れている。
「うん、たぶん……」
「……無理しないで」
そう言って、スイは布袋から何かを取り出した。乾いた葉のようなものだ。
「……これ、噛んでると楽になる」
「え、いいの?」
「……うん」
受け取って、口に入れる。噛むとスーッとする爽快感があった。そして、少しだけ胃の痛みが和らいだ気がした。
「スイ、ガストロミントなんて持ってたんだ」
ハナが、感心したように言った。
「……緊張して、お腹が痛くなったとき用」
そう言いながら、ガストロミントをしまう。
(……ありがとう)
言葉にする余裕はなかったけれど、レイは心の中でそう思った。
「レイ君って、思い切りいいんだね」
ハナが、しゃがんだままこちらを見ていた。
「……そう、かな」
褒められたのかよくわからずレイは笑うしかなかった。
そして、うずくまったまま、ふと考える。
(でも……本当に、おいしかったな)
苦くて、それでいて爽やかで。腹は痛いけれど、あの味は嫌いじゃなかった。
(毒って、案外おいしいのかもしれない)
朝礼で、マーク先生が言っていた。
——味は、聞いた話ではうまいらしいな。
(本当だったんだ)
レイは、痛む腹を押さえながら、そんなことを考えていた。
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