第73話 ギルド
レイはレンと教室の前で別れ、午後の授業に遅刻することなく間に合った。
「こんにちは。今日から、ギルド、王都の文化、周辺諸国などについて、社会学を担当します。クレマといいます。よろしくお願いします」
教壇に立っていたのは、若い女性だった。
腰まで届く、深い紫紺の髪。真っ直ぐに切り揃えられた前髪の下から覗く瞳は、髪より明るい紫色をしている。灰紫色の襟高の上衣に、丈の短い焦げ茶色の革外套。腰の帯には、銀色の徽章が下げられていた。
教室が、少しざわついた。
「わ……」
「きれいな人だ」
カイが小声でつぶやいた。
クレマは、そんな声には気づいていない様子で、手元の紙を確認している。
「えっと、私は今年、王都のギルドに就職しました。この学舎には、研修の一環で来ています」
そう言って、ぺこりと頭を下げた。
「至らない点も多いと思いますが、よろしくお願いします」
(就職したばかりで、王都から離れたヴェイル領に研修で来るなんて、大変そう)
レイはクレマを見ながら、そんなことを考えていた。
そしてふと、カイが言っていた「可哀そう」という一言が、頭をよぎる。
(どういうことだろう?)
「では、まず——ギルドとは何か、というところから始めますね」
クレマは、手元の紙を見ながら話し始めた。
「ギルドは、冒険者の登録と管理を行う組織です。依頼の仲介、実績の記録、それから等級の認定などを担当しています」
すらすらと言葉が出てくる。
(全部覚えてきたのかな)
「冒険者は、ギルドを通して仕事を受けます。魔物や魔獣の討伐、素材の採取、護衛、それから困っている人の手助けなどもします。簡単に言うと、何でも屋みたいな感じですね」
そこで、クレマは顔を上げた。
「ここまでで、何か質問がある人はいますか?」
「はい」
サクが、手を挙げた。
「じゃあ、サク君」
(もしかして、初日なのにみんなの名前を覚えてきてる?)
「冒険者って、誰でもなれるんですか?」
「はい。登録すれば、誰でもなれます。ただし、等級——実力に応じて受けられる依頼が変わるので、最初は簡単なものから始めて、等級が上がればより難しい依頼を受けられるようになりますよ」
「じゃあ、僕でもなれますか?」
「え? ……あの、年齢制限が」
クレマが、手元の紙をめくり始めた。
「確か、十五歳から……いえ、地域によって違ったような……」
指が、紙の上を行ったり来たりする。
「すみません。少し、確認させてください」
(あ)
レイは、その様子を見て、なんとなく察した。
(レンが言ってたのは、これか)
(でも、就職したばかりで全部覚えられる人なんていないよね)
「よし」
クレマが、顔を上げた。
「基本的には十五歳からですが、実力がギルドマスターに認められた人は、十五歳でなくても冒険者になれますよ。そんな人はごく稀ですが、たまにあるのは、元々傭兵をしていて、団が壊滅したとか、らしいですけど……詳細は、そのギルドマスターに聞いてもらうしかないですね」
(傭兵って何だろう。というか、知らない単語ばかりで理解できない)
レイは、すでに頭を抱えていた。
「サク君、これで答えになってますか?」
「はい。ありがとうございます」
サクは、なんだかすごく嬉しそうだった。
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