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紫雷の魔法使い  作者: 黒猫
ヴェイル領 第二部
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心の声 (レン視点)

「じゃあ……どんどん、いくよー」

メルの声で、訓練が再開された。


僕は、手をかざして風球を生成する。

一つ。


隣を見ると、カイがまだ苦戦していた。額に汗を浮かべて、必死に手をかざしている。火が得意なぶん、風は苦手なのだろう。


そして、反対側を見て——固まった。

(え)

メルの周りに、風球が三つ浮かんでいた。

(三つ? 同時に?)

僕も水と土は使えるし、風だってそれなりに扱える。二つ同時なら、時間をかければできるかもしれない。

でも、三つは無理だ。


しかも——

(生成が、速すぎる)

僕が一つ作る間に、メルは三つ作っている。それも、どれも整った形をしていた。


(風魔法が得意って言ってたけど)

(これ、得意の範囲内なのかな)


そこで、ふと不安になった。

(レイは、この数を避けられるのか?)


三人分だけでも毎回、避けるのは大変だと思う。

さらにメルが三つ同時に撃つとなると、数が跳ね上がる。


(大丈夫かな)

けれど、すぐに思い直した。

(——僕らは、決めたんだ)

レイの思いに、全力で答えると。


「いっくよー」

メルの声と同時に、僕らは風球を放った。

(——え)

飛んでいく風球を見て、僕は息を呑んだ。

メルの風球が、さっきより明らかに速い。

(それ、まずいんじゃ……)


心配は、杞憂に終わった。

レイが、動いた。

——全て躱した。


動きは見えている。でも、目で追うのに苦労した。


レイの動きを再現しろと言われたらできない。

風球が全部、レイの横をすり抜けていったように見えた。


「……うそでしょ」

メルが、小さく呟いた。

その声で分かった。彼女も、一つくらいは当たると思っていたらしい。


⬜︎

それから、僕らは撃ち続けた。

メルの風球は、どんどん速くなっていく。生成の間隔も短くなり、僕とカイは、それについていくので精一杯だった。

一つ作る。撃つ。また作る。

その繰り返しで、魔力がどんどん削られていく。

(もう、指先が痺れてきた)

どれくらい経っただろう。


「——すまん」

先に膝をついたのは、カイだった。

「もう、魔力が……」

肩で息をしながら、地面に手をつく。


(僕も、そろそろ……)

指先に力が入らない。風球を作ろうとしても、途中で形が崩れる。

視界が、少しずつ白んでいく。

(あ、まずい)

膝が、勝手に折れた。


僕は、カイの近くに倒れ込んだ。

土の匂いがした。


(……情けないな)

地面に横たわったまま、僕は二人を見た。

その視界の端で、まだ二人が動いている。


メルは、僕らの穴を埋めるように、風球を撃ち続けていた。息は上がっているのに、手が止まらない。

そして、レイは。

まだ、避け続けていた。


(……すごい)

メルもすごい。でも、それを全部躱し続けているレイも。


二人とも、僕らのいる場所より、ずっと先にいる。

(追いつけない)

そう思ったけれど、悔しさよりも、別の感情が強かった。

(——この光景が今でよかった)

これが一年、まして三年後だったらきっと僕は自分を許せないかもしれない。

(今は遠くても必ず追いついて見せるっ)


⬜︎

「……ここまでにしよ」

やがて、メルが両手を下ろした。

その一言で、朝練は終わった。


レイが、こちらへ駆け寄ってくる。

「みんな、ありがとう! 今日、すごく助かった」

汗だくの顔で、そう言った。

「本当に、ありがとう」


(……ほら)

やっぱり、言った。

謝る必要なんてない、という顔で。むしろ、感謝までしてくる。


「気にすんな」

カイが、倒れたまま片手を上げた。


「……うん」

僕は、それだけしか言えなかった。


情けないやら、恥ずかしいやら。


僕は心の中で呟いた

(僕の方こそ、ありがとう)

心の声は誰にも聞こえなかった。

ここまで読んで頂きありがとうございました!

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