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紫雷の魔法使い  作者: 黒猫
ヴェイル領 第二部
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第64話 三人の魔法

(……本当に、ありがたいな)


頼まれた側からすれば、気の進まない話のはずだ。友達に魔法を撃つなんて、誰だって嫌だろう。

それでも、三人は頷いてくれた。


(応援してくれるみんなのためにも、僕のためにも、頑張るぞ)


そこで、ふと気づいた。


(そういえば、みんなの風魔法を見るのは初めてだな)


メルは風魔法が得意な事は知っている。図書館でも風が好きだと言っていた。


でも、風魔法そのものを、しっかり見たことはなかった。


(どんな風の動きをするんだろう)


そんなことを考えながら、距離を開ける。

二百歩ほど。


朝の訓練場に、まだ涼しい風が渡っていた。夏の日差しは、まだ木々の向こうに低く、地面には長い影が伸びている。


三人が、横に並んだ。

「じゃあ、行くよー」

メルの周りに、風球が一つ生成される。


透明な球体の周りで、朝露に濡れた草が、細かく震えた。整った、綺麗な球だった。


「メル、はやっ」

カイの声が聞こえた。


「風だもん」

こともなげに言う。


続いて、レンが手をかざした。少し時間はかかったが、しっかりとした形の風球が浮かぶ。


「お、いい感じじゃん」

カイが感心したようにレンを見る


「まあ、水と土の方が慣れてるけどね」


最後に、カイ。

手をかざしたまま、動かない。


「……」

「……カイ?」

「待て。今、集中してる」

「もう二人終わってるよ」

「うるせー!」

しばらくして、ようやく風球が浮かんだ。

——ただし、少しいびつに歪んでいる。


「よし! できた!」

「……それ、球?」

「球だよ!」

「ちょっと潰れてない?」

「くっそ、なんでこんな難しいんだよ! 火ならもっと綺麗にできるのに!」


「火だと危ないからね」

メルが、あっさりと言った。


「だから今、風なんでしょ」

「うぐ……」

レイは、思わず笑ってしまった。

(……なんか、いつも通りだ)


これから魔法を撃たれるというのに、緊張が少しだけ緩んだ。


三つの風球が、朝の光の中に浮かんでいる。

(——来る)


レイは、腰を落とした。

そして、新しい朝練が始まった。


ここまで読んで頂きありがとうございました!

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