第56話 呼び名
前回と同じように、古剣を使用して扉を開ける。
(なんで、魔獣がいないんだろう)
前回と同じ道を通る。
影がいるであろう扉の前についた。
(壊れないように、置いとかないと)
赤い実の小さな壺を置く。
「これでよし」
古剣を溝に入れる。
——雷が産声を上げたような、低い音がした。
扉が、開いた。
黒い床の空間は、継ぎ目のない、鏡のような黒。天井は高く、光源も分からないのに、ぼんやりと明るい。
(やっぱり、不気味だ)
「こんにちは」
誰もいない空間に声をかける。
すると、どこからともなく影が現れた。
「なんだ」
「修行を、お願いします」
「あいわかった。あそこの台座に剣を」
(あ、今しか聞けるタイミングはないっ)
レイは、軽く息を吸ってから言った。
「あなたのことは、なんて呼べばいいですか?」
「…………」
「好きに呼べ」
影は、少し困ったように遠くを見てから、そう答えた。
(先生は、ちょっと違うし)
影をよく見る。
(あ、これなら)
「師匠、というのはどうでしょうか?」
「ん?」
(よし、と。良いみたいだ)
「どう——」
「今日もよろしくお願いします、師匠!」
「…………」
(何か、まずいこと言ったかな)
さっき何かを言いかけていた気がするけれど、緊張でよく分からなかった。
「……よかろう」
「では、準備しますね」
台座に剣を突き立てる。
どこからともなく、杖を持った影が現れる。
(今度は、位置をしっかり確認できた)
影の声が響いた。
「避けよ」
修行が始まった。
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