第48話 毒キノコ
「…………」
誰も、答えられなかった。
隣でカイが「え」と小さく声を漏らした。レンは口を開けたまま固まっている。メルだけが、少し首をかしげて、じっと男を見ていた。
(毒キノコ……? 好き、って……?)
レイも、意味が分からなかった。
男は、答えを待つように、しばらく黙っていた。それから、右手で腰に下げた布袋を外し軽く持ち上げて見せる。
「今朝、森で採ってきた」
そう言って、布袋の口を開けた。
中には、白い傘のキノコが、いくつも入っていた。
「これは、テングタケの仲間だ」
マークは、袋の中から白いキノコを一つ、無造作に摘み上げた。
細い柄の先に、真っ白な傘が広がっている。表面には、小さな白い斑点が散っていた。
「知っている者は?」
数人が、おそるおそる手を挙げた。
「毒キノコです。食べたら死にます」
誰かが、はっきりと答える。
「正解だ」
マークは頷いた。
「これで、大人一人が死ぬ。煮ても焼いても毒は消えん。味は——聞いた話では、うまいらしいな」
(うまい、って……)
レイは、思わず一歩下がりそうになった。
「ではもう一つ」
マークは、袋から別のキノコを取り出した。
さっきのものと、ほとんど見分けがつかない。細い柄、白い傘、小さな斑点。
「これも、テングタケの仲間だ。だが、こっちは食える。焼くとうまい」
「え——」
誰かが、小さく声を上げた。
二つのキノコが、マークの左右の手に並んでいる。
同じ白さ。同じ形。同じ大きさ。
(……どっちが、どっち?)
見分けがつかなかった。
さっきまで持っていた方が毒だったのか、それとも今取り出した方だったのか。もう、レイには分からなくなっていた。
「同じ名前の仲間でも、一方は毒、一方は食料だ。名前だけ覚えても、意味はない」
マークは、二つのキノコを袋に戻した。
「これが、この土地で生きるということだ。森は食料庫だ。しかし、間違えれば墓場になる。今のは例だが、外の世界は広い、何が起こるかわからない」
そう言って、片眼鏡の奥の目を、少しだけ細める。
「俺はマーク。校長だ。ここで学ぶのは、生き延びる方法だ」
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