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紫雷の魔法使い  作者: 黒猫
ヴェイル領 第二部
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第45話 鐘の音色

「見えてきた」

メルが、少し先を指さした。


道の先、古い石造りの建物が見えてくる。高い尖塔と、大きな窓硝子。屋根の形が、他の建物とは明らかに違っていた。


(学舎があるのは知ってたけど……こんなに近くで、ちゃんと見たことはなかったな)


近づくにつれ、その建物が、思っていたよりずっと大きいことが分かってきた。


町の中央へ近づくにつれて、通りの景色が少しずつ変わっていった。


商店や家々の間から、灰色の石壁が見えてくる。


それは、周囲の建物よりも明らかに背が高い。


古い礼拝堂を改修した学舎は、横へ広がるというより、細く長く、空へ伸びているように見える。


風雨にさらされた石の角は丸く削れていた。壁のところどころには色の違う石が混じっている。新しく積み直された部分なのだろう。古びてはいるが、崩れたまま放置されているわけではない。


急勾配の屋根の中央には、小さな尖塔が立っている。そこには、今も古い鐘が吊られていた。


——ごぉん。


ちょうどその時、鐘が鳴った。

低く、重い音だった。空気ごと震わせるような響きが、しばらく耳の奥に残る。

(……雷の音に、少し似てる)


そう思って、レイは少しだけおかしくなった。まさか、鐘の音を雷と間違えるなんて。


正面には、大きな木製の扉がある。

扉の表面には、何かの絵を刻んでいたらしい跡が残っていた。長い年月の間に擦り減り、今では線の一部しか分からない。新しい金具だけが妙に整っていて、古い建物を改修した後がはっきりとわかる。


レイは顔を上げた。


扉のさらに上、高い壁面には、円形のステンドグラスがはめ込まれていた。


赤、青、緑、黄色。色ガラスは細かな線で区切られ、朝の光を受けて淡く輝いている。何かを描いているようにも見えたが、はっきりした形は分からなかった。


ところどころ、ガラスが幾重にも重なっている場所があった。


光の角度が変わるたび、その重なりが、一瞬だけ、剣を持った人の姿に見えた。


けれど、瞬きをすると、また、ただの幾何学模様に戻ってしまう。


(……何の絵だったんだろう)


色は残っているのに、意味だけが失われている。


レイはしばらくその窓を見上げていた。


やがて雲の切れ間から差し込んだ光が、ステンドグラスを通り抜けた。高い壁と石の床に、赤や青の光が揺れる。


ある一点だけ、色ガラスが重なり合っている場所があった。そこを通った光だけが、紫色にも、金色にも見える、不思議な色で床を照らしていた。


(神秘的で綺麗だな。近くで見ないと、分からないことだらけだ)


やがて雲が動き、光は消えた。

床は、いつもの石の色に戻った。


レイが視線を下ろすと、建物の背後に木造の棟が続いているのが見えた。石造りの本体とは違い、壁も屋根も新しい。継ぎ目は隠されておらず、増築したものだと一目で分かる。


ここで、これから学ぶ。

そう思うと、だんだん緊張してきた。


建物の奥から、新入生や在校生の話し声や、笑い声が聞こえてくる。


かつて礼拝堂だった場所だと、聞いている。


何を祈るために使われていたのか、レイは知らない。


ただ、色とりどりの光が落ちる床を見ながら、ここは長い歴史を紡いできたのだろう。そう感じさせられた。


「入ろ」


メルが、先に扉へ向かう。


「うん」


メルと一緒に、重い扉に手をかけた。

古い蝶番が、低く軋む。


その音に背中を押されるように、学舎の中へ足を踏み入れた。


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