第44話 学舎入学の朝
レイは朝食を食べた後、真新しい制服に着替えた。
ヴェイル領では、学生であることを意識づけるため、生徒全員に制服が配られる。
制服には夏用と冬用の二種類があった。今の季節は、もう夏用に切り替わっている。
夏用の制服は、男女ともに生成り色の立ち襟シャツと、濃い灰青色のベストを基本としていた。半袖のシャツに、薄手のベストを重ねる仕立てで、風通しの良さが考えられている。
ベストは胸元から腰までを覆う簡素な仕立てで、前面には鈍い金属色のボタンが並んでいる。縁には細い布地があしらわれているものの、家紋や飾りの類はなく、辺境の学舎らしい実用性が優先されていた。生地は厚すぎず、動きやすさを損なわない程度の丈夫さを備えている。
男子は同色の細身の長ズボンを合わせ、裾を折り返した革の編み上げ靴を履く。
女子は膝下まで届く、控えめなひだの入った濃灰色のスカートに、同色の長い靴下を合わせていた。
靴はいずれも飾り気のない茶色の革靴で、雨や泥の多いヴェイル領でも歩きやすいよう、底は厚く作られている。
家を出る際、みんな口々に制服姿を褒めてくれた。
「大きくなったな。母さんも、喜んでるぞ」
ガルドが、目を細めて言った。
「いいじゃないか。とっても似合ってる」
エリオも、笑って頷く。
「兄さま、素敵です」
ミアが、はにかむように言った。
「とても似合ってて——ちょっと、整えますね。よし、これで大丈夫です」
エマが、レイの襟元を軽く直しながら言う。
「たくましくなられましたな」
ロウエンが、静かに一言だけ付け足した。
レイは、みんなに褒められて、少し照れくさかった。
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家を出て空を見上げると空は夏模様だった。
森の匂いが、少しずつ土と草の匂いに変わっていく。屋敷から続く道を歩き、町の方角へ向かう。
十分ほど歩くと、見慣れた図書館の建物が見えてきた。
(あの日、ここでメルに雷の本のこと、教えてもらったな)
朝の光の中で見る図書館は、どこか誇らしげに見えた。長い年月を、静かに見守ってきた建物のように。
図書館の前を通り過ぎようとした、その時。
「レイ君」
声をかけられて振り返ると、メルが小走りで走ってきた。
制服姿の彼女を見るのは、これが初めてだ。
メルは、レイの前でくるりと一回転してみせた。
「どーお?」
夏用のベストに、灰色のスカート。いつもの私服とは違って、少し大人びて見える。スカートの裾が、回転につられてふわりと揺れた。
「……似合ってる、と思う」
「でしょ?」
メルは、満足げに頷いた。
二人で、並んで歩き出す。
外出は、これまでロウエンやエマの付き添いで、近場へ行く程度だった。
けれど、ザック先生やアイ先生による訓練が始まってから、少しずつ変わった。友達ができて、自分の足で図書館へ行き、鍛冶場を訪ねた。少しずつ、外の世界へ踏み出し始めていた。
それでも、こうして町の中心を歩くのは、なんだか緊張する。
町の中心に近づくほど、人通りが増えていく。露店の準備をする声、井戸端の話し声、荷馬車の車輪の音。
こんなに賑わっていたのかと、レイは思わず立ち止まりそうになった。
「人、凄く多いね」
思わずメルに聞いてしまった。
「普通だよ?」
メルが、くすりと笑った。
「レイ君、今まであんまり街で見かけたことなかったもんね。私なんて、毎日、通ってるよ」
「……そうか。メルにとっては、いつもの道なんだ」
(この町にも、こんなに人がいたんだ)
レイは、その賑わいに、ただ圧倒されていた。
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