ミアの気遣い
兄さまが廃坑から帰ってきて、昼食を食べた後、珍しくお部屋で眠ってしまいました。
いつもと違う雰囲気を感じてはいましたが、そんな時、エマが話しかけてきました。
「今日、レイ様がとても疲れたご様子で、廃坑から帰ってきたんです。大丈夫でしょうか」
エマの声は、いつもより心配そうに聞こえました。
私はその場を見ていなかったので、何と答えていいか、すぐには分かりませんでした。
(兄さまは、いつも大丈夫だと言います。でも、その大丈夫を、私は信じたことがありません)
そこへ、ロウエンさんが通りかかりました。
エマが、同じことをロウエンさんにも伝えたところ——
「男の子ですし、心配なさらなくても大丈夫でしょう」
とのことでした。
でも、私には、ロウエンさんの目が、少しだけ揺れて見えました。
(ロウエンさんも、本当は心配しているんだ)
大人は、そうやって、心配を隠すことがある。兄さまも、きっと同じです。
これは、明日の朝食で、お父様に聞いていただくしかない。そう思いました。
言うべきか、迷いました。兄さまに、何か隠し事があるのだとしたら——それを、私が勝手に暴いてしまってもいいのだろうか、と。
けれど、隠したまま、また同じように疲れ果てて帰ってくる兄さまを見るほうが、もっと怖い気がしました。
なので、私は、思ったことを伝えることにしました。
「お父様に伝えるのは、どうでしょう?」
「言っても……大丈夫でしょうか」
エマの声が、少しだけ震えていました。
「大丈夫です。お父様のところに、一緒に行きましょう」
私が言うと、エマは、ほっとしたような、それでいてまだ迷っているような、複雑な顔をしました。
最初は困惑していましたが、やがて、覚悟を決めたようでした。
そして、二人でお父様のもとへ行き、エマの言葉を、そのままお伝えしました。
お父様は、笑いながら答えました。
「教えてくれて、ありがとう。明日、聞いてみるよ」
その笑顔を見て、少しだけ、安心しました。
⬜︎
そして、翌朝。
朝食の際、エマは終始、落ち着かない様子でした。ロウエンさん以外は気づかないかもしれませんが、私は気づきました。
お父様が、レイお兄様に昨日のことをお訊ねになっている時、エマの目が泳いでいました。
レイお兄様も気づいたらしく、エマを見ました。すると、エマは視線を逸らしてしまいました。
(もう、これはレイお兄様に、ばれてしまいましたね。でも、きっとレイお兄様は優しいので、怒らないでしょう……たぶん)
そんなことを考えているうちに、いつの間にか、お父様とエリオお兄様で、領地の話が始まってしまいました。
レイお兄様は、俯いてしまいます。
これは、いけません。エマのフォローをしなければ。
「エマが、すごく心配していたんですからね。気を付けてください」
——後で気がつきましたが、これでは、お父様に伝えたのがエマだと、伝えたも同然でした。
やってしまいました。これは、失敗です。
「……そういえば」
レイお兄様が、そう仰いました。何やら話題を変えられてしまいましたが、好都合です。
「なんだか、顔色が良さそうだね」
レイお兄様は、いつも私を気遣ってくださいます。とても、嬉しいです。
嬉しさのあまり、エマのことをすっかり忘れてしまったのは、内緒です。
「……ちょっと、寝すぎちゃったみたいで。まだ、ぼーっとしてます」
そんな声が聞こえました。これは、私がきちんと言ってあげなければ。
「兄さま、ちゃんとしてください」
レイお兄様、大丈夫でしょうか。
朝食の後、エマに会いました。
レイお兄様と、何かお話をされたらしく、いつものエマに戻っていました。
良かったです。レイお兄様は、優しいですから。
今回のことも、これで——一件落着、ということにしておきましょう。
そう思っていたのですが。
その後、お父様に「レイも十二歳だ。あまり、余計な詮索はしないように」と言われてしまいました。
……これは、エマには、絶対に言えません。
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