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紫雷の魔法使い  作者: 黒猫
ヴェイル領 第一部
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帰路

馬車が、街道を北へ進んでいく。


「団長に呼ばれなければ、もう少し滞在してもよかったですね」


ザックが、窓の外を眺めながら言った。


「居心地は、悪くなかったな」


アイは目を閉じたまま答えた。それから、ふと聞いた。


「誰か、気になる子がいたのか」


「おや、珍しい。アイさんからその質問ですか」


ザックは少し笑って、腕を組んだ。


「そうですね……やはりエリオ君は才能があります。魔力量も、魔術の使い方も、父親譲りでしょう。来年、王都の学校に来れば伸びますよ」


「レイは、どうだ」


「——やっぱり、気になります?」


アイは答えなかった。ザックは苦笑して、続けた。


「そうですね。現時点では——惜しい、とでも言いましょうか」


「ほう」


「魔力制御は、たぶん才能があります。あの歳であの精度は、王都でもそうは見ない。しかし、魔力量が少なすぎる。それに、使える属性が雷だけというのが……残酷ですね。他の属性なら応用次第で戦えますが」


ザックはそこで、首をかしげた。


「なんで、雷属性だけなんでしょうね」


「知らん」


「ですよね」


ザックは笑って——それから、少しだけ声を落とした。


「……雷属性を、教えてあげたかったんですけどね。私自身、普段ほとんど使いませんし、教えられるほどの技量もない。——いえ、言い訳ですね。正直、反省です」


少し間を置いて、ザックは付け足した。


「私も、鍛錬不足ですね」


アイはただ、目を閉じたまま、聞いていた。


「ただまあ、真面目で一生懸命ですし、案外——いや、まあ、難しいですかね……。エリオ君が次期当主ですから、レイ君は自由にどこへでも行ける。それが彼にとって、一番、恵まれている、と言ったところでしょうか」


言ってから、ザックは少しだけ黙った。外の世界に行きたい、と言ったあの真っ直ぐな目を思い出していた。


「ところで、アイさんはどうです?」


「鍛錬を、続けるかどうかだ」

アイは目を開けた。


「レイは続けそうだ。あの友達も、ついていきそうだが——剣術については、我流では難しいだろうな」


「そうですか。……結局、楽な道ではありませんね」


車輪が石にでも躓いたのか、馬車が、がたんと跳ねた。


「おっと。——何はともあれ、もう会うことはないかもしれませんね」


「かもな」


「来年はエリオ君が王都に来ますし、機会があったら様子でも聞いてみましょうか」


「そうだな」


馬車は、王都に向かって静かに進んでいく。


街道の脇に、赤い実をつけた木が、たくさん見えた。


「のどかで、いいですねえ」

ザックが、伸びをしながら言った。

「……なんだか、王都に戻りたくないんですが」


「働け」

アイは、呆れながらそう言った。

ここまで読んで頂きありがとうございました!

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