第31話 質問
最後の訓練が、終わった。
カイとレンとメルが帰っていく。明日の朝は、もう見送りだ。
レイは、自分の木刀を柵に立てかけて、道具を片付けるふりをしながら、残っていた。
訓練場の隅で、アイが木刀の手入れをしている。布で、丁寧に、何度も。この時間に二人になれるのは、今日しかない。
(……行こう)
足を動かすのに気合が必要だった。
「あの」
アイが、顔を上げる。
聞きたいことは決めてきた。なのに、口から出たのは別の質問だった。
「どうして、木刀をそんなに大事にしてるんですか」
アイは、少しだけ手を止めた。
「……すべては、木刀での素振りから始まったからか」
「アイ先生も、最初は素振りだったんですね」
「そうだ」
それだけだったけど、聞きたいことが少しだけ、聞きやすくなった。
「あの……聞きたいことが、あって」
「言え」
「練習が休みの日に……魔術を、木刀で切ってましたよね」
アイの手が、止まった。
「どうやったら、魔術を切れるんですか」
アイはしばらく黙っていた。それから、いつもの声で言った。
「光が出たところを、木刀で切ればいい」
「……切れば、いいですか?」
「そうだ」
レイは、その言葉を頭の中で何度か転がした。
出たところを、切る。それだけ。魔力の話は、出てこなかった。
いや、待て。ちゃんと確かめよう。聞けるのは、今日しかないんだから。
「魔力とかは……必要ないんですか」
「要らない。木刀があればいい」
(——っ)
レイは、息を深く吸った。聞くなら、聞けるところまで聞こう。
「ぼくでも……切れるようになりますか」
アイは、レイの目を見た。
それから、静かに言った。
「鍛錬を怠らなければ、必ず切れるようになる」
(——必ず)
諦めかけていた心の奥に火が灯る。魔力量が最低でも、目指す事ができる。
鍛錬の先に、あの景色がある。
アイ先生が、必ずと言った。
「ありがとう、ございました」
深く、頭を下げた。
アイは何も言わず、木刀の手入れに戻った——かに見えた。
「レイ」
呼ばれて、顔を上げる。
アイが立ち上がって、目の前に来た。柵に立てかけてあったレイの木刀を取り——無言で、握らせる。
「自分が納得するまで、続けろ」
それだけ言って、アイは自分の道具のところへ戻っていった。
レイは、木刀を握ったまま、しばらく動けなかった。
⬜︎
少年が帰っていく。
アイは、その背中が見えなくなってから、手を止めた。
(……楽しそうでしたね、と聞かれるかと思ったが)
あの質問が来たとき、思わず身構えてしまったが——考えすぎだったようだ。
的で遊んでいたのを見られた、あの夕方の釈明を、ずっと考えあぐねていた。
蓋を開ければ、聞かれたのは技術の話。
安堵している自分に気づいて、少し呆れた。子供が見ているのは、いつだって技術だ。
それから、ふと引っかかった。
(……少し、言葉が足りなかったか)
魔道具の仕組みのことを詳細に伝えるべきだったか。
(あんな魔道具、王都では誰でも練習に使っている)
珍しいものではない。
毎日振っていれば、あの大きさの的くらい、狙いを定めて切れるようになる。自分がそうだったように。
あの子は鍛錬を怠らないだろう。
だから、大丈夫だ。
——毎日振っていれば切れるようになる。それは、紛れもない事実だ。
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