28話 等級
休み明けの訓練は、早めに切り上げになった。
「休みの日の後は、軽めのフォーミングアップで終わらせるのがいいですよ」
そう言って、ザックは訓練場の隅の切り株に腰を下ろした。みんなも、思い思いの場所に座り込む。水を飲む者、寝転がる者。ゆるんだ空気の中、レイはカイとレンと並んで柵にもたれていた。
「なあ、先生。前に、魔力量は多くないって言ってたろ?」
カイが、ふと思いついたように声を上げた。
「それで実際、先生たちって王都だとどのくらい強いんだ? 等級とか、あるんだろ」
レイは、水筒に口をつけたまま止まった。
それは、ずっと聞きたかったことだった。
「ああ、等級ですか。ありますよ。下級から始まって、中級、上級——」
「先生たちは?」
「私たちですか? 私たちは——」
「関係ない」
アイの声が、ザックの言葉を切った。
いつの間にか、切り株の横に立っていた。木刀の手入れをしながら、視線は手元に落としたまま。
「等級を知って、明日の素振りの数が変わるのか」
「……いや、変わんねえけど」
カイが首をすくめた。
「なら、要らない話だ」
それきり、アイは何も言わなかった。ザックは苦笑いを浮かべて、肩をすくめる。
「——だ、そうです」
(……気になる)
言われてみれば、その通りだ。等級を知ったところで、明日やることは変わらない。変わらないけど。
(気になるものは、気になる)
「じゃあさ、一般論でいいよ。上級って、どのくらい強いんだ?」
レンが食い下がった。聞き方を変えるあたり、防衛隊の息子はしたたかだ。
「一般論なら、いいでしょう」
ザックは楽しそうに頷いた。それから、いつもの調子で言った。
「王都の上級ともなると、一人で砦を落とせる、と言われていますね」
「はあ!?」
カイが素っ頓狂な声を上げた。
「まあ、あくまで例え話ですが。実際、上級の方々の戦いは、私たちとは見えている世界が違います。剣も魔術も、もう別の次元と呼んだほうがいい」
(一人で、砦を……)
想像できない。
「その上には、宮廷魔法士や、剣聖と呼ばれる方々がいます。私は遠目に一度見たきりですが——あれはもう、人の域ではありませんでした」
ザックは、どこか遠くを見るように言った。
(人の域では、ない……)
レイの中で、世界の認識がさらに変わった。
外の世界。自分が行きたいと願っている場所。そこには、砦を落とす上級がいて、その上に、人の域を超えた誰かがいる。
(じゃあ、先生たちは……)
夕暮れの訓練場が、頭の中に蘇る。漂う光。走る木刀。揺れた先で、すでに裂かれていた光の球。ファイアーボールを躱した、あの身のこなし。木刀を一撃で折った、防御術式。
あの二人の等級はどのくらいなんだろう。
「なあ」
帰り道、カイが小声で言った。
「先生たち、絶対上級だよな」
「だよな。あの強さだもんな」
レンが即答する。
「下手したら、もっと上かも。ほら、剣聖ってやつ」
「いや、それは盛りすぎだろ」
二人は勝手に盛り上がっている。
レイは、少し後ろを歩きながら、黙って考えていた。
(……分からない)
上級なのか、もっと上なのか。結局、教えてもらえなかった。
分かっているのは、一つだけ。
(あの背中に、まだ全然、届かない)
等級なんて知らなくても、それだけは分かる。
(アイ先生の言う通りだ。明日やることは、変わらない)
明日も、鍛錬頑張ろう
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