表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/26

第24話 4日目 水筒

結局、レイが立ち上がれたのは、昼前くらいだった。


カイとレンは、幽霊のような足取りで先に帰っていった。

レイは手の中の革の水筒に目を落とす。


(……返さないと)


訓練場を見渡すと、メルは隅のほうで荷物をまとめているところだった。あの後、風魔法なしで走り直しをさせられていたらしい。さすがに髪が少し乱れて、頬が赤くなっている。


レイはまだ重い足を引きずって、近づいた。


「あの……水筒、ありがとう」


メルは顔を上げた。

「ん。もう平気?」

「うん。だいぶ」


水筒を差し出すと、メルは受け取って、鞄にしまった。


「……さっきの、見てた?」

「え?」

「アイ先生の」

「あ……えっと」


見てた、とは言いにくかった。レイが言葉に詰まっていると、メルは小さくため息をついた。


「見てたんだ」

「ご、ごめん」

「別にいいけど」

メルは鞄を肩にかけて、立ち上がった。それから、少しだけ拗ねたような声で言った。


「だって身体強化、地味なんだもん」


(お姉さんっぽい人かと思ってたけど……)

案外、普通の子なのかもしれない。


「風魔法なら、ずっと使ってても疲れないのに。無属性って、なんか、しっくりこない」


メルは自分の足を見ながら、ぽつりとそう付け足した。


その言い方が少しだけ悔しそうに聞こえて、レイは意外に思った。あんなに涼しい顔で走っていたのに、苦手なものがあるらしい。


「でも、あの走り方はすごいと思う。風を纏ったまま、ずっと保ってるんでしょ? 僕、あんなの初めて見た」


レイが素直にそう言うと、メルは一瞬きょとんとして、それから少しだけ口元を緩めた。


「……ん。ありがと」


短くそう言って、メルは歩き出す。数歩行ったところで、振り返った。

「レイ君。魔力切れ、今日はもう使っちゃだめだからね」


「うん。分かってる」

「ならいい」


今度こそ、メルは帰っていった。

足音は、やっぱりほとんどしなかった。土を蹴っているはずなのに、体がふわりと流れるように遠ざかっていく。


(……あ。もう風魔法使ってる)

訓練はもう終わっている。だから使うのは自由だ。それにしても切り替えが早い。よほど風魔法が好きらしい。

ふと視線を感じて、レイは訓練場の中央を見た。


アイが、メルの帰っていった方向を見ていた。


腕を組んだまま、何も言わない。ただ、ふ、と小さく息を吐いたのが、遠目にも分かった。


(訓練が終わった瞬間にあれか、って顔だ)


禁止されているのは、あくまで身体強化の訓練中だけ。訓練の外で何を使おうと自由——なのだが、終わった途端に嬉々として使われると、指導した側としては複雑なのかもしれない。

レイは少しだけ笑って、自分も帰り支度を始めた。


ここまで読んで頂きありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ