第22話 4日目 ダッシュ
一歩目は、思ったより前へ出た。
けれど、二歩目で膝が遅れた。
足裏に置いた魔力だけが先に走り、体の上がついてこない。視界がぐらりと傾く。
「っ」
レイは慌てて踏み直そうとしたが、足元の魔力が散った。勢いだけが残り、体が前へ投げ出される。
受け身を取る余裕もなく、レイは訓練場の地面に転がった。
土の味が口に入った。肘がじんと痛む。
顔を上げると、アイがこちらを見ていた。
「何回転んでもいい。端まで走れ」
それだけだった。
レイは立ち上がる。膝についた土を払う余裕もなく、もう一度魔力を巡らせた。
走る。
三歩目で、また転んだ。
今度は右足に魔力が偏った。蹴り出しだけが強すぎて、体が斜めに傾きバランスを崩してまた転倒。
立つ。巡らせる。走る。転ぶ。
(違う、流しすぎた)
立つ。巡らせる。走る。
転ぶ。
(今度は——)
何度目かの転倒で、掌の皮が擦り剥けた。土と汗が傷に染みる。それでも、転ぶたびに少しずつ分かってくることがあった。
強すぎれば体が置いていかれる。弱すぎれば意味がない。踏み込む足に流れを寄せて、着地の瞬間に反対の足へ切り替える。血の流れに乗せる、というアイの言葉の意味が、転がるたびに体に染みてくる。
七回目か、八回目か。
数えるのをやめた頃、レイはようやく転ばずに走れるようになっていた。
ぎこちない。それでも、転倒しないくらいのにはできるようになっていた。魔力の流れと足の運びが、かみ合い始めている。
(アイ先生の言った通りだ回数を重ねれば上達できるんだ!)
その感覚は、ほんの一瞬、気持ちよかった。
けれど同時に、身体の芯から何かが抜けていくのも分かった。魔力が、走るたびに削れていく。息が上がっている。肺や心臓といった臓器ではなく別の場所、もっと深いところが悲鳴をあげる。
端まで、あと少し。
視界の端がちかちかし始めた。足が重い。魔力の流れが、途切れそうになるのを必死で繋ぎ止める。
——届いた。
訓練場の端の木柵に、レイは手をついた。荒い息の合間に、口の中に鉄の味が広がっている。
(終わっ、た……)
「もう一往復」
アイの声が響いた。
レイは耳を疑った。柵についた手が、震えている。
(アイ先生が鬼に見える)
(でも、これが王都では普通なんだろう)
そう思うとなんだか負けてられない気がしてきた。
立ち上がり姿勢を整えて。改めて魔力を巡らせようとした。
魔力を、集め——
集まらなかった。
(あれ?)
何も出てこない。それでも無理に絞り出そうとした瞬間、胃の底からせり上がるものがあった。
レイはその場に膝をつき、おそらく朝食だろう物を吐いた。
視界が白く濁る。地面が近い。
倒れ込む寸前、隣に誰かがどさりと並んで転がる音がした。
「……おかえり」
カイの掠れた声だった。
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