表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/28

第21話 4日目 身体強化

手の平の上に、薄く魔力を集める。

それだけなら、レイにもできた。手に意識を向けると、淡い紫の光がぼんやりと掌の上に浮かぶ。石を包む練習と要領は同じだ。


「上手にできてますね」


見回りに来たザックが頷いた。


「では次の段階です。その魔力を膜のように広げて、空間に固定してみてください。さっき私がやった防御術式の、ごく小さいものだと思ってもらえれば」


「空間に、固定……ですか」


レイは思わず聞き返した。

何もない空中に魔力を置く、という感覚がうまく理解できなかったからだ。


「難しく聞こえますよね。ちなみに私は空間に固定というのは空気の膜を作るイメージで行っています」


「空気の膜……」


「ええ。もっと簡単に言えば、見えない枠に薄い布を張るようなものです。魔力を固まりのまま押し出すのではなく、薄く伸ばして、端を空中に引っかける。真ん中だけを押しても、すぐに破れます。大事なのは、端です」


石を包む時とは違う。

包み込むのではなく、広げて張る。


レイは手を目の前に広げて掌の上の魔力を、ゆっくりと押し広げていく。

薄く。そしてそれを目の前の空気に置いていく。


掌より少し大きいくらいの、淡い紫の膜が空中に浮かんだ。

(できた——)

そう思った瞬間だった。


膜の端から、ほどけるように光が薄れていく。慌てて魔力を注ぎ足そうとしたが、注ぐそばから霧散していく。数秒ももたず、膜は空気に溶けて消えた。


同時に、身体の芯からすっと力が抜ける感覚。


魔力切れだ。


レイはその場に膝をつきそうになるのを、かろうじてこらえた。


(また、これか)


コントロールはできる。形も作れる。でも、維持できない。空間に固定するというのは、想像していたよりずっと魔力を食う作業だった。掌より少し大きいだけの膜で、これだ。


ザックの防御魔法は、木刀を折った。あれを支えるのにどれだけの魔力が要るのか、考えたくもなかった。


「レイ君」

顔を上げると、ザックがそばに立っていた。


「防御魔法は、魔力を体の外に出して維持する魔法です。体外に出た魔力は、常に少しずつ漏れていく。だから消耗が激しいんです」


「……はい」


「あなたの場合、コントロールは問題ありません。問題は燃費です。ですから——」


ザックは杖の先で、訓練場の端を指した。


「身体強化を先に覚えるといいかもしれません。あれは魔力を体の内側で巡らせる魔法です。体外への排出がほとんどない分、少ない魔力でも長く使えます」


(体の内側で巡らせる……)

外に出すから漏れる。なら、出さなければいいってことなのかな。


「アイさんのところで教わってきてください。身体強化は、私よりあの人のほうがずっと上手いので」


ザックは穏やかに笑って、そう付け足した。


レイは礼を言って、訓練場の端へ向かった。


——そして、足が止まった。

アイの前に、二人、転がっていた。

カイと、レンだ。

二人とも地面に仰向けになって、荒い息をしている。カイに至っては白目を剥きかけていた。レンは「む、無理……足が……」と呻きながら、芋虫のように転がっている。


アイは腕を組んだまま、その二人を無言で見下ろしていた。

レイは思わず後ずさった。

(……場所、間違えたかな)

振り返ってザックを見る。


ザックはにこやかに頷いた。

「そこです」

(そこなんだ……)

レイが恐る恐る近づくと、アイがこちらを見た。


「身体強化か」

「は、はい。ザックさんに、教わってこいと」

アイは転がっている二人を一瞥した。

「こいつらもそう言って来た」


カイが地面から片手だけ上げて、力なくひらひらと振った。何かを伝えようとしているようだったが、何を伝えたいのかよくわからなかった。


「身体強化は、感覚で覚えるしかない」

アイは短くそう言うと、レイの正面に立った。


「魔力を身体中に巡らせろ。血の流れに乗せるイメージだ。巡らせたまま、走れ。以上だ」


「……それだけ、ですか」


「それだけだ」

アイは訓練場の端から端を指差した。

「魔力が切れるまで往復しろ。切れたら休んで、回復したらまた走る。身体が勝手に覚える」


レイは転がっている二人を見た。カイとレンは、つまりこれを限界までやったということだ。


(なるほど、それでこうなるのか)

レイは息を吸って、身体の内側に意識を向けた。


魔力を、巡らせる。

石を包むのとは違う。外に出すんじゃない。内側で、巡らせ続ける。

胸の奥から指先へ、腰から足先へ。魔力が通った場所が、じん、と熱を持った。


「走れ」

アイの声と同時に、レイは地面を蹴った。


ここまで読んで頂きありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ