第20話 4日目 無属性魔法
「今日は実践を交えて説明しましょう」
「では、少し見ていてください」
ザックがみんなにそう告げて、訓練時の中心まで歩いて距離を取った。
視線の先には、アイが腕を組んだまま立っている。
「アイさん、お願いできますか」
「ああ」
短い返事だった。
ザックは杖を軽く構える。次の瞬間、杖の先に小さな火の球が生まれた。初級魔法のファイアーボール。大きさは握り拳ほど。それがアイに向かって真っ直ぐ飛んだ。
速い、とレイは思った。
けれどアイはもっと速かった。
ほとんど動いたように見えなかった。それなのに、火の球が通り過ぎた場所にアイはもういなかった。足が地面を蹴る音すら聞こえなかった。
「これが身体強化です」
ザックがみんなに向けて静かに言った。
「魔力を身体に纏わせることで、反応速度と筋力を底上げできます。無属性魔法の基本の一つです」
アイはすでに木刀を抜いていた。
間合いを詰める。踏み込みが鋭い。木刀がザックの首筋めがけて一直線に走った。
誰かが息を呑んだ。
レイも思わず半歩引いた。
——ぎん、と硬い音がした。
木刀が、何かに当たって止まっていた。ザックの首の手前、薄く光る膜のようなものに弾かれていた。
次の瞬間、木刀にひびが入り、折れた。
折れた木刀の欠片が、地面に落ちる。
しばらく、誰も声を出せなかった。
「防御魔法です」
ザックが言った。
「魔力そのものを膜にして、攻撃を受け止める。無属性魔法の中でも、最も基本的な使い方の一つですね」
カイが「木刀が折れた……」と小声で呟いた。みんな目を丸くしている。
「魔法の使い方に、決まった形はありません」
ザックは折れた木刀の欠片を拾い上げ、若者たちの前に立った。
「火は攻撃だけのものでも、水は流すためだけのものではなく色々、応用する事ができます。特に無属性魔法は形を持たない分、使い手の発想次第でいくらでも応用が利きます」
レイは膜が張られていた空間をじっと見た。何も残っていない。元の空間があるだけ。
(あの薄い膜で、木刀を折った)
「一つ聞いてもいいですか」
声を出したのは、ヴェイル領防衛隊員の息子の少年、レンだ。
「魔力って、増やせるんですか」
ザックは少し間を置いてから答えた。
「増やせます。毎日使い続けることで、少しずつ器が広がっていく感覚があります。筋肉と似たようなものですね」
それを聞いて、
(僕でも鍛えればいいんだっ)
レイは嬉しさのあまりジャンプしそうになった。
「ただ」
ザックは続けた。
「生まれ持って魔力量が大きい子は、それだけで大きなアドバンテージがあります。訓練で追いつける差もありますが、正直に言えば、どうしても埋まらない部分もある」
誰も何も言わなかったが、レイの心は沈んだ。
「私自身も、魔力量は多い方ではありません」ザックは杖を軽く持ち直した。「アイさんも同じです。それでも、今こうして戦える形を持っています。量だけが魔法の全てではないということです」
アイは何も言わなかった。ただ、折れた木刀の残りを静かに置いた。
レイは自分の指先を見た。さっき石を包もうとして、すぐ尽きた魔力のことを思う。
量は少ない。それは変わらない事実だ。
でも、増やせる。
今はそれだけでいい。
「では、次の練習に移りましょう」
ザックが若者たちを見渡した。
「無属性魔法です。属性魔法を使う前の、魔力そのものを扱う練習をしてみましょう。まずは手の平の上に、薄く魔力を集めるところから始めます」
訓練場はやる気と緊張に包まれていた。
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