第18話 3日目 魔力のコントロール
今日は魔術の訓練だ。
ザックはすでに来ていた。いつもの杖を持ち、革張りの小さな鞄を足元に置いている。若者たちが集まると、ザックは鞄の口を開いた。
中から取り出したのは、手のひらに収まるくらいの石だった。
丸く磨かれた白い石で、表面にうっすらと紋様が刻まれている。何個かあるようで、ザックは一人一人に一つずつ配っていった。
「これは練習用の魔道具です」
レイは受け取った石を、指の腹で軽く撫でた。ひんやりしている。
「魔術を石の表面に沿わせて、全体を薄く包んでみてください。使う属性は何でも構いません。大切なのは均一に、丁寧に這わせること。ムラが出ないように」
みんなが顔を見合わせる。
火の属性を持つ者が先に試した。石の周囲に小さな炎が揺らめいたが、石全体を包む事はできず、散ってしまう。水の属性の者も試みたが、石の半分は水膜に覆われたのに、もう半分がどうしても薄くなってしまいムラが出る。
「この石には魔術で包むのを阻害する術式が組み込まれています。」
「魔術士は出力に頼った戦い方をしがちです。精密な魔力コントロールができるようになるとそれだけで戦い方の幅が広がり応用も効くようになります。」
「焦らなくていいです。感覚を掴むまで、何度でも」
ザックは穏やかに声をかけながら、一人一人を見て回る。
レイは石を左の掌の上に置いた。
指先に意識を集める。雷を細く長くするイメージで。
ぱち、と紫電が弾ける。
細い線を意識して、石の縁にそっと沿わせていく。側面を伝い、底面へ回り込み、上面まで薄く延ばす。
ゆっくり。ゆっくり。
思ったよりすんなりと、石全体が淡い紫の膜に包まれた。
「……お、おお」
隣で先程、火属性魔法で石を包もうとしていた子が小声で言った。
鍛冶屋のカイだ。
「どうやったらそんなに上手く全体を包み込めるんだ?」
「俺には全然できない」
レイ自身もなんで上手く行ったのかよくわかっていなかった。
(古剣に魔力を通す練習がよかったのかな?)
「えっと、魔力を細く這わせる感じ?」
「ちょっとやってみるな」
「…できないぞ…難しいな」
レイは苦笑いをすることしかできなかった。
ザックが足を止めた。
「レイ君、もう一度やってみてもらえますか」
「はい」
一度、魔力を引いて、また這わせる。今度はもう少しゆっくり、丁寧に。紫電の線が石の表面を静かに伝い、均一に広がっていく。
ザックはしばらく無言で見ていた。
「素晴らしい。ムラがありませんね」
みんなの視線がレイに集まる。エリオも少し驚いた顔でこちらを見ていた。
レイは少し照れながら、石を掌に乗せたまま魔力を維持した。
「普段から練習しているのですか?」
ザックがレイに尋ねた。
レイはどう答えたらいいのか迷いながら。
「家で少し」
ザックは片手を顎に当てながら少し考えてから「そうですか」
一言、言ってから頷いて、他の者への指導に戻っていく。
(古剣に感謝しないとあと、あの影の人?にもかな)
レイは再び魔力コントロールの練習に意識を向けた。
◽️
その背中を見ながら、ザックは心の中で静かに息を吐いた。
——魔力コントロールだけなら、この子には才能がある。
石を包む雷の膜は薄く、均一で、まったくブレがない。魔術の繊細な扱いという点では、今日集まった中で頭一つ抜けている。おそらく本人も気づいていない。
——だが、魔力の総量が、あまりにも少ない。
石一つを包む程度なら問題はない。だが実戦で求められるのは、最低でもそれを何十個、何百個と同時に魔力を流し続けられる魔力量が必要だ。今のレイの魔力量では、本格的な戦闘で使えるレベルには遠く及ばない。
コントロールの才と、魔力量は、別の話だ。
——惜しいですね。
ザックはそう思いながら、次の若者の石に視線を落とした。
訓練場には、それぞれの属性の光が、静かに灯り続けていた。
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