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第17話 2日目 素振り

翌朝、まだ眠りから覚めきらない、春の淡い薄明はくめいの中、訓練場所に足を踏み入れる。

足元の草木にはたっぷりと朝露が降りていて、触れれば指先が凍りつきそうなほど冷たい。かすかに湿り気を含んだ清らかな空気が、静かに満ちている。まだ太陽が昇りきらない時間ならではの、凛として瑞々しい冷気が心地よい。


昨日よりも早い時間に訓練場へ来るよう、アイから言われていた。「魔術の前に、まず身体を作れ」

一言そう言われた。


レイが訓練場に着くと、すでにアイが木刀を腰に下げたまま、中央に立っていた。若者たちが三々五々集まってくる中、アイは誰とも喋らず、ただそこに立っている。すごく話しかけにくい雰囲気を纏っている。



全員が揃ったのを確認すると、アイは腰から木刀を抜いた。


「素振りをやったことがある者は」


ヴェイル領では自己防衛のために簡単な素振りや剣術などを学んでいる人が多い。


レイも剣術は軽く学んでいるが、実践で使えるレベルには遠く及ばない。


「そうか、ではまず見ていろ」


アイは自然体で立位を保つ。そして剣が静かに振り上がり、一瞬で振り下ろされた。


空気を切り裂く音と同時に剣風が巻き起こる。


(え、何が…)


レイには何が起きたのかよく分からなかった。その場のいる全員が同じ事を思ったのではないだろうか。


「剣は力で振るものではない。軸を崩さず、足裏から生まれた重心移動を木刀の先端まで逃がさず振る」


アイはもう一度、今度はゆっくりと、同じ動きをやって見せた。


足で床を押し、その力を腰・体幹・腕へ順に伝える。上半身だけで振らず、体の正面は崩さない。


肩は上げず、肘が自然に落ちるように振る。力むほど木刀は遅く重くなる。


握るのは最後の一瞬だけ。振る途中は軽く持ち、当たる直前に小指・薬指を締めて刃筋に体重を乗せる。


「真似しなくていい。まず自分で百回振れ。身体に叩き込め」


木剣が配られた。


レイは受け取った木剣が古剣よりも軽いなと思った。


素振りを開始する。

振り上げる。振り下ろす。


100回ほどで、肩が重くなってきた。隣で兄は黙々と続けているが、額には汗が滲んでいた。


200回を過ぎたあたりで、レイの腕がぶれ始めた。


「手を止めろ」


アイの声が轟いた。全員が動きを止める。


アイはレイの前に立つと、無言で木剣の柄を持ち直させた。指の位置を一本ずつ、正確に置き直す。


「そこで握ると、肩に来る。ここで持て」


「……はい」


「振れ」


レイは言われた通り、もう一度振った。


さっきより、すこしだけ木刀に重心を乗せて振れるようになった気がした。


アイはそれ以上何も言わず、次の者へ移った。


千回を終えた頃、レイの腕は震えていた。木剣を持つ指が、言うことを聞かなくなってきている。それでも周りを見ると、同じように腕を抑えている者が何人もいた。


エリオだけが、振るたび風を切る音がまだ聞こえていた。


(やっぱり、身体の基礎が違う)


「終わり」


アイが短く言って、剣を鞘に収めた。


「今日はここまで。明日も同じ時間に来い。千回が苦にならなくなるまで、これだけを続ける」


若者たちの間から、小さなため息が漏れた。アイはそれを聞き流した。


レイは木剣を返しながら、右手の指を開いたり閉じたりした。掌が赤くなっている。


身体中の筋肉が悲鳴を上げていた。

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