第15話 1日目 的当て
東の空がわずかに白み始めたばかりの、夜と朝の狭間。太陽が昇る前の訓練場は、どこか厳かな青い闇に沈んでいた。
立ち込める薄い朝靄の向こう、踏み固められた土の訓練場は、夜露を含んでしっとりと黒く濡れている。頻繁に使われないがゆえに、人の足跡が少ない。
冷たく張り詰めた空気を吸い込めば、肺の奥が痛むほどに澄んでいる。人の気配を拒むような静寂の中で、きれいに手入れされた木柵だけが、かすかな光を浴びてその輪郭をぼんやりと浮かび上がらせていた。
レイは訓練場の端に立ち、指先をそっと握った。
これから始まるのは、王都の魔法士による訓練だ。
雷属性を教えてくれる者など、ヴェイル領にはいない。
期待はしていた。けれど、それと同じくらい、不安もあった。
集まったのは、十二歳から三十歳ほどまでの男女十名ほどだった。
農家の次男、見習い兵、鍛冶場の若者、使用人筋の少年。皆、慣れない早朝の空気の中で、少し緊張した顔をしている。
エリオもいた。
兄は訓練場の中央近くに立ち、いつも通り背筋を伸ばしていた。領主家の後継ぎとしての覚悟があるからだろうか堂々としていた。
レイはその少し後ろに静かに立つ。
ザックは銀の杖を片手に、集まった者たちを見渡した。
「今日は初日です。まずは皆さんの魔力の扱い方を確認します。無理に強い魔法を使う必要はありません。大切なのは、魔力を乱さず、コントロールすることですから」
とても穏やかな声だ。 それだけで、集まっていた若者たちの肩から少し力が抜けた。
少し離れた場所では、アイが細身の剣を腰に下げたまま、腕を組んで立っていた。
「剣や護身の訓練は、私が見る。今日はまず、ザックの魔術確認を優先する」
短い言葉だったが、それだけで空気が引き締まった感じがした。
ザックは訓練場の奥に並べられた木の的を杖で示した。
「では、最初は的当てから始めましょう。火でも水でも土でも構いません。自分が扱える属性で、的に当てて見てください」
みんな横一列になり、的に目掛けて魔術を放つ準備をする。
(あの的まで雷が届くように気合いを入れないと)
ぱち、と指先で小さな紫電が弾ける。
「まずは、エリオ君からお願いできますか」
「はい」
エリオが一歩前に出る。
足元の湿った土が、わずかに震えた。
次の瞬間、エリオの隣から頑丈そうな土壁が競り上がる。
そして。
土壁の表面が、ぼこりと丸く盛り上がる。盛り上がった土は一瞬で硬く固まり、拳より小さな石礫へ変わった。
エリオが片足で軽く地面を一度、叩いた。
ぱん、と乾いた音がした。
次の瞬間、木の的の中央に穴が空いた。
遅れて、的の後ろの土に石がめり込む鈍い音が響く。
周りのみんなも驚いている。 ザックも関心している様子だ。
(すごい、兄さんの土魔法がここまですごいなんて)
ここ数年は父と石垣などを作ってる様子しか見てなかった。
「この年齢で正確に的を撃ち抜き」
「威力も申し分ない」
「次の領主として優秀ですね」
ザックにそう言われ、 兄はとても嬉しそうだった。
やっぱり兄は魔法も領地運営も才能がある。
(僕も負けていられない)
バチ 指先の紫雷が弾ける音とともに気合いが入った。
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