第13話 治療院
レイは、ヴェイル領の魔法士について考えていた。
ヴェイル領にも、生活魔法や土属性の基礎を扱える者はいる。畑の土を整えたり、簡単な補修をしたり、領地を守るための最低限の魔法を使える者はいる。
けれど、強い魔法使いや、属性ごとの基礎を専門的に教えられる者はほとんどいない。
辺境で報酬や名声が少なく、王都からも遠い。魔法士にとって、出世や研究につながる場所でもない。
だから才能のある者は、王都や大きな街へ出て行ってしまう。
特に雷属性は、もともと珍しいと聞いたことがあった。
だから、雷属性を教えてもらえる機会など、滅多に訪れない。
(雷の使い方を教えてもらえれば、今よりはきっとできる事が増えるはず、頑張って教わるぞ)
(でも今日はまず、肩を治療士に診てもらいに行かないと)
次の日、領地にある小さな治療院を訪ねた。
治療院といっても、領地の端にある古い民家を改装したものだ。水属性を少し扱える老いた女性が一人で営んでいて、骨折や切り傷、熱の高い子どもを診るくらいが限界だと聞いている。
トントン
「どうぞ」
少し、しわがれた声が聞こえた。
レイは引き戸の取手に手をかけ開けると、薬草の乾いた匂いが漂ってきた。
ここに来たのはいつぶりだろうか?
随分と前のような気がする。
「レイ様とは珍しいどうされましたかい?」
老女は少し驚いた顔で聞いてきた。
なんだか凄く不気味な感じがする。
部屋を見渡しながらレイは思った。
薬のために薬草やら魔獣の骨みたいな物が所狭しと置いてあった。
「廃坑で動きすぎて転んでしまいまいました」
「そうでございましたか、若い時にたくさん動くことはとても良い事じゃ」
老女は歯が少ない口を大きく開きながら笑った。
肩と脇腹を診てもらいながら、レイは昨日のことを考えていた。あの顔の見えない剣士。ただ一言。
良い雷だ。
それだけだった。その直後、一撃で倒された。気づいたら前室の石畳の上に寝ていた。
褒められたのか、試されたのか、今でもよくわからない。
「痣になってますが、骨折はしてなさそうですじゃね」
それを聞いてレイはほっとした。
(でも、蹴られて吹っ飛ばされたと思ったけど)
「何を心配してるんですかい?」
「大丈夫、このくらい治せますじゃ」
あの剣士について考えていると老女の声で現実に戻された。
「あ、はい、ありがとうございます」
老女の手の手掌の中心から何かが溢れ始める。そして澄んだ水の膜のようなものに変わる。ついで掌全体にじわりと広がった。それをそのまま、打撲の上に、羽根が降りるよりも静かに当てる。
魔力が皮膚の下へ、薄い膜のように染み込んでゆく。滞った血の流れをほぐすように、細い水の指がそっと絡み、解き、また流す。治るのではなく、治ろうとする力を手伝っている——そんな感覚。
数分が経った。
青紫の色が、少しだけ、端から薄れていた。
「完全には無理ですじゃ」
彼女は掌を離し、小さな布包みを取り出した。中には薄い貼り薬が数枚。薬草の匂いがほんのりした。
「これ、今夜貼って寝れば、明日にはだいぶ楽になると思うのじゃが」
「痛みがだいぶ楽になりました」
「ありがとうございます」
「怪我したらまた来るのじゃぞ」
「はい!」
「これで王国の魔法士の指南に臨めそうです。」
「頑張るんじゃぞ、王国の鍛錬は多分、厳しいと思うが応援しとるぞ」
老女にお礼を言ってレイは治療院を後にした。
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