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第12話 やる気 

 扉を軽くノックした音が聞こえた。


「入るぞ」


「はい」


 レイは反射的に背筋を伸ばそうとした。その時、少し肩が痛む。動かすには支障がない程度。


 ガルドは部屋に入ると、まずレイを見た。


 次に、机の上の薬草茶を見た。


 それから、木箱のそばに置かれた古剣へ視線を落とした。


 ガルドは何か言いたそうだったが、何も言わなかった。


「具合はどうだ?」


「動きすぎただけだと聞いたが……」


「怪我はしてないか?」


「……大丈夫です」


 レイは廃坑や影のことを言おうか躊躇したが、結局どこかぎこちなく答えることしかできなかった。


「そうか」


「それならいいんだが……」


 ガルドは深くは聞いてこなかった。


 互いの間に会話はなく、無言の気まずい雰囲気が流れる。


(父さんを前にすると、全然、言葉が出てこないや)


 レイはその場でどうすることもできず、ただガルドが去るのを待っていた。


 ガルドは窓の方へ視線を向けたまま、何か考えているようだった。


 そして、意を決したように言葉を紡ぐ。少し自信なさげに。


「一週間後、王都から魔法士が二人来る」


(え? どういうこと? 王都から視察に来るだけなら、わざわざ僕に伝えに来ないと思うし……父さんはいったい何を考えてるんだ)


「王都から、ですか」


「ああ。領地の防衛指南と、若い者への基礎訓練を兼ねている」


 ガルドの声は淡々としていた。


「中級魔法士だ。属性ごとの基礎も教えることができるらしい」


(確かに、領地防衛は大切だと思う。でも、それなら僕に話す理由は……)


 レイは次の言葉を待った。


 ガルドは、わずかに視線を彷徨わせた。まるで、その一言を口にするのを躊躇うように。


「雷属性についても、最低限は見ることができるそうだ」


 レイは思わず、膝の上の手を握った。


(父さんは、僕のために魔法士を呼んでくれたのかもしれない)


 そう思うと少し嬉しくなった。


(思い違いだったら、恥ずかしいけど)


 それでも、父が自分のことを気にかけてくれているのかもしれないと思うと、胸の奥が少し温かくなった。


 同時に、申し訳なさも込み上げてくる。


(魔法士の受講料は安くないはずだ。まして王都所属なら、移動費も多分、こちら持ちのはずだし)


 ガルドは去り際に一言だけ残した。


「怪我を治して、お前も見てもらえ」


 それだけ言うと、ガルドは部屋を出ていった。


 扉が閉まっても、レイはしばらくその場から動けなかった。


(雷魔法を教えてもらえる機会なんて、今までなかった)


 レイは両手を握りしめる。


(頑張らないと)


 胸の奥で、小さな熱が灯る。


(やってやる)


 その夜、食事は部屋で取ることになった。エマが黒パンと薄いスープ、少しの酸漬けの赤実を運んできてくれた。酸味を口に入れると、少しだけ傷の痛みが和らぐ気がした。


(魔法士が来るまでに、自分にできることをしないと)


 レイは古剣を膝の上に置き、刃にそっと指を添えた。


 そして、優しく紫雷を通す。


 バチ、バチ。


 けれど、長くは続かなかった。


 紫雷は刃を伝わっていく途中で霧散してしまう。


 難しい。


(でも僕にできることはこのくらいしか思い浮かばない、あの影の意図はわからないけど、練習しよう)


 古剣見ながらいつも思うことがある。

 やっぱり、古剣はぼろぼろだな。


(明日、ロウエンに刃の手入れ方法を聞いておこう)


 それから、肩に残る鈍い痛みに少し顔をしかめる。


(肩は……治療士に見てもらわないと)


 ふと、あの影が言っていたことを思い出す。


「撃つものではない」


 レイは古剣の刃を見つめた。


 なら、何なんだ。


 結局答えは出なかった。

ここまで読んで頂きありがとうございました。

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