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元最強女騎士はお人好し料理人に胃袋をつかまれる  作者: モーヒアス


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7/13

最初の町

 レオナさんと森の中を歩き始めてから、一時間ほどが過ぎた。

 木漏れ日が葉の隙間から差し込み、小鳥のさえずりが聞こえる。

 昨日なら、この景色を楽しむ余裕なんてなかった。

 魔物に追われないか、遭遇しないか……で、精一杯だったからだ。

 でも今日は違う。

 隣にはレオナさんがいる。

 それだけで、不思議と安心感があった。


「疲れていないか?」


 前を歩いていたレオナが振り返る。


「大丈夫です」

「無理はするな。森をナメると痛い目に遭う」

「はい」


 歩きながら、ケンジは周囲を見回す。

 見たことのない木々。

 色鮮やかな花。

 羽が青く輝く小鳥。

 本当に異世界なんだな、と改めて実感する。


「レオナさん」

「何だ?」

「この世界のこと、教えてもらえませんか?」


 昨日は生き延びるだけで必死だった。

 今日は落ち着いて話を聞ける。

 レオナは少し考え、頷いた。


「そうだな。知らないまま町へ入ると困るだろう」


 歩調を合わせながら話し始める。


「まず、この大陸には大きく四つの国がある」

「四つ」

「ここはアルディア王国だ」


 ケンジは頭の中で整理する。

 アルディア王国。

 まずはこの国の名前を覚えよう。


「王都を中心に、人間が暮らしている」

「じゃあ、他の三つも人間の国ですか?」

「いや」


 レオナは首を横に振った。


「西にはドワーフの鉱山国家。

 南には獣人たちの連邦。

 そして北。」


 そこで一度言葉を切る。


「魔族領だ」


 魔族。

 さすが異世界。やっぱりいるんだ。


「人間とは仲が悪いんですか?」

「悪い、の一言では済まない」


 レオナの表情が少しだけ険しくなる。


「何百年も戦争を続けている」


 その言葉には重みがあった。

 きっと歴史の教科書で何ページにも渡るような戦いが、ずっと続いてきたのだろう。


「でも……」


 ケンジは少し首を傾げる。


「魔族もご飯は食べますよね」

「……食べるだろうな」

「じゃあ、美味しい料理も好きなんでしょうか」

「……」


 レオナは返事に困った。

 そんなことを考えたこともなかった。

 敵は敵。

 倒す存在。

 それ以上でも、それ以下でもない。


「変なことを聞きました?」

「いや、想像したこともなかった。ただ……」

「ただ……?」


 レオナは苦笑する。


「お前らしいと思っただけだ」


 ケンジは照れ笑いを浮かべた。

 料理人だからだろうか。

 それとも性格なのだろうか。

 相手が誰であっても、最初に浮かぶのは『何を食べるんだろう』ということだった。



「国については一旦それで良いとして、次にお金だ」

「それはかなり助かります」

「この国ではリルという貨幣を使う」


 レオナは革袋から銀貨を一枚取り出した。


「これが銀貨」


 続いて銭貨。

 次に銅貨。

 そして金貨。


「一般的な食堂なら、一食五十リル前後だ」

「五十リル……」

「銅貨五枚だな。銅貨一枚で銭貨十枚。銀貨一枚で銅貨十枚。金貨一枚で銀貨百枚。その上に白金貨というのもあるが見ることは稀だろう。ちなみに一枚で金貨千枚だ」


 なるほど。

 一食五百円として一リルで十円か。

 だいたい感覚は日本と似ているのかもしれない。

 金貨一枚で十万円。白金貨一枚で……一億円。


「ちなみに昨日の魔石は?」

「あれぐらいなら銀貨五十枚にはなる」

「結構高いですね。でも持ってたら重そう……」

「魔物を倒すのは命懸けだからな。ギルドで保管しておけば別のギルドで引き出せる。もしくは収納袋に入れておけば大丈夫だ。少し値は張るが買っておいて損はないぞ?」


 ケンジは静かに頷いた。

 この世界では命を懸けて素材を持ち帰る。

 ちなみに収納袋は時間停止や容量によってまちまちだがレオナさんのもので金貨五枚だそうだ。


「料理人もいるんですか?」

「もちろんだ」

「よかった」


 思わず安心する。


「心配だったか?」

「僕だけだったら困りますから」

「そんな訳ないだろう。飯屋ぐらいどの町にでもある。でも良いのか?競争相手が多いと客が来ないぞ?」

「それでもいいんです」


 ケンジは笑う。


「料理人が多いってことは、美味しい料理が増えるってことですから」


 レオナはまた呆れたように笑った。


「本当に料理のことしか頭にないな」

「半分くらいです」

「残りの半分は?」

「もう半分は、食べる人です」


 その答えに、レオナは少しだけ目を見開いた。

 料理が好きなのではない。

 料理を食べる人の笑顔が好きなのだ。

 だから、この男は料理を作る。

 そんなことが少しだけ分かった気がした。

 森を抜ける風が心地よく吹く。

 やがて、木々の隙間から高い石壁が見え始めた。


「あれが」


 レオナが前を指差す。


「最寄りの町、リーベルだ」


 石造りの城壁。

 大きな木製の門。

 門の前では荷馬車が列を作り、兵士たちが一人ひとり確認をしている。

 異世界で初めて見る町。

 その光景に、ケンジの胸は自然と高鳴っていた。


「すごい……」


 思わず声が漏れる。

 ゲームや映画でしか見たことのない景色が、目の前に広がっている。

 レオナはそんなケンジを見て、小さく笑った。


「町へ入る前に一つだけ覚えておけ」

「はい」

「この世界では、自分の身は自分で守る」


 門を見つめながら続ける。


「力がある者は、それだけ責任も背負う」


 その横顔はどこか寂しげだった。

 騎士だった頃の自分を思い出しているのかもしれない。

 ケンジは何も聞かなかった。

 今はただ、この世界を知ることから始めよう。

 そう心に決めながら、二人は町の門へと歩みを進めた。

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