第八話 『孤独のランチ+彡⌒ミまた髪の話してる+アニマルストーカー月子ちゃん』
西暦2082年5月19日 火曜日 午後12時43分
4時間目の授業が終わり、昼休みになった。周りの生徒は鞄からお弁当を取り出したり、購買部の目当ての昼食を売り切れる前に買おうと急ぎ気味で教室を出ていく生徒もいる。
お腹もいい感じに空いてきたし、母さんは今日何を作ってくれたかな?とワクワクしながら僕はお弁当の蓋を開けた。
今日のお弁当の中身はご飯、きんぴらごぼう、ハンバーグ、ミニオムレツ、ぶどうのゼリーだ。
僕は手を合わせて「いただきます」と呟き、ご飯を食べ始めた。
(まずはご飯を一口っと……うん、美味しい。やっぱり新潟のお米は美味しい。去年の修学旅行で行った奈良県のご飯はあんまり美味しくなかったからなぁ……さて、ここできんぴらごぼうを……うん、この味だ。母さん分かってる。醤油と砂糖のこの味が好きなんだ。ゴボウさんのシャキシャキした感じとニンジンさんのシナっしたコンビが奏でる味のハーモニーは最高だよ。ハンバーグを一口っと……お?中に卵が入ってる。いいねぇ、うん。あ、でもミニオムレツで卵がダブってるなぁ……まぁ美味しいからいいか。ミニオムレツは……っと。中は挽肉と玉葱か、ケチャップがいい味出してる。オムレツにはケチャップだよな……うん、ここでご飯を……)
「ご馳走様でした」
お弁当を食べ終わった僕は空のお弁当箱を巾着袋に入れて鞄に入れる。
お腹が膨らみ眠くなる……けど、今はやる事がある。
右斜め前に視線を向けた。五十嵐さんとカリンさんが一緒に机を合わせてお弁当を食べているのが見える。
先週の一件から、五十嵐さんとカリンさんは仲が良くなったようだ。あの二人は席が近い事もあり、よく話しているところを見かける。話というかカリンさんが五十嵐さんに一方的にちょっかいをかけているだけかもしれないけど、五十嵐さんの表情を見る限り、迷惑とかではなさそうだ。
(本当にあの二人を勧誘していいのだろうか?)
昨日、川島部長に言われた事を思い出す。
~回想~
「で、だ。高橋君。君にお願いがあるんだが」
どうやら川島部長の中では僕の入部は決まったらしい。
(まぁ他にやりたい部活もないし、別にいいか)
仰向けの状態から起き上がり、僕の方に体を向ける川島部長。
「僕にお願い、ですか?」
なんだろう? 川島部長とはさっき会ったばかりだし、想像もつかない。
「ああ、実に重要なお願いだ」
川島部長は急に真顔になり、僕の方にゆっくり歩き始める。
(何だか真面目な雰囲気だ……重要なお願いとは、一体……?)
川島部長が僕の目の前で足を止める。僕は今椅子に座っているので、川島先輩の顔を見るには結構見上げないと駄目なので首が痛い。
一体何をお願いされるんだろうと少し不安で心臓がドキドキしてる。そして川島部長が両手合わせて叫ぶように言った
「すまん! 顧問と部員集めを手伝って欲しい!!」
~回想終了~
川島部長が言うにはまだ遺物研究同好会は顧問の先生と部員がいなくて、まだ非公認の同好会なんだそうだ。
川島部長も杉崎先輩も勧誘を頑張っているけど、遺物に興味がある先生と生徒なんておらず、困っているらしい。
顧問の先生と部員が五人、これが同好会設立の条件だ。遺物研究同好会の現在のメンバーは川島部長、杉崎先輩、そして僕。
(あと顧問の先生と部員が二人、か……)
お弁当を食べ終わったのか、五十嵐さんとカリンさんが片付けている。
(少なくとも、あの二人なら遺物にマイナスなイメージは持ってないはず。話だけでもしてみよう)
そう思った僕は席を立って、二人に近付いた。
「ようこそ、遺物研究同好会、略していぶけんへ! 五十嵐君とエドワーズ君だね、歓迎する!!」
放課後、五十嵐さんとカリンさんを連れて部室を訪れた。既に部室に来ていた川島部長と杉崎先輩にこの二人の自己紹介と入部したいと言う旨を伝えると、川島部長は両腕を広げて嬉しそうにそう言った。
昼休みに五十嵐さんとカリンさんを屋上への扉の前に連れて行き、遺物研究同好会の話をしたら、カリンさんは予想通りというか二つ返事どころか一つ返事で「オッケー!!」と叫んで入部する事を決めた。
意外だったのは五十嵐さんだ。てっきり遺物研究同好会に興味がなくて断られるんじゃないかと思ったけど、あっさり「分かった、入部しよう」と言い、入部を決めてしまった。
「いやぁ、流石高橋君だな! 一日で部員を二人も勧誘してくるとは!」
川島部長が笑いながら僕に近付き、僕に抱きつこうとしたのか、それとも肩を叩こうとしたのか…右手を上げて、何故かそのままの状態で固まった。なにやら殺気を感じる。その殺気を無言で川島部長と一緒に辿ると、目付きが非常に悪い杉崎先輩がいた。僕と川島部長は目を合わせアイコンタクトで意思疎通をする。
(まずい、杉崎が超見てる!なでなではお預けだ高橋君!!)
(え、なでなでだったんですか? っていうか無理にベタベタしなくていいですよ)
(男同士の友情ってやつだ、普通するだろう!)
僕と川島部長のアイコンタクトの意味を理解したのかしてないのか……コホン、っと杉崎先輩が咳払いをする。さっさと話を進めたいのだろう。四つの視線が杉崎先輩に集まる。
「さて、部員は五人揃いましたが……顧問の先生がまだ決まってません。以前、私と川島部長でほとんどの先生に声を掛けてみましたが、結果は惨敗。話すら聞いて貰えませんでした」
「そうだな、こうなると正攻法じゃ無理かもしれん」
腕を組み真剣な表情で答える川島部長。
遺物の同好会を作るんです、なんて話を聞いて貰えなくて当然だろう。ガラクタを扱う同好会を作るんです、って言ってるようなものだ。
(正攻法じゃ無理って事は、もしかして……)
何だか嫌な予感がする。
「ええ、正攻法じゃ無理よ。だから汚い手を使うわよ」
杉崎先輩の口元がニヤリと歪んだ。嫌な予感が当たり、僕の中の杉崎先輩のイメージがどんどん崩れていく。昨日初めて会った時は、優しそうな人だと思ったのに……。
「オー! ダーティナ手段ハ上等ネ!! 忍者ミタイ! ナニスルヨ!?」
カリンさんが嬉しそうに目を輝かせる。
「誰でもいいから先生の弱みを見つけて、それをダシにして脅すってのはどうかしら?」
杉崎先輩が唇の端を吊り上げ、魔王のような邪悪な笑みで答えた。
「ワァオ! ダーティ! 流石アヤノッチダーティ!!」
「おう、面白そうだな!」
「ふむ」
僕意外、概ね好評な意見らしい。僕が何か言える雰囲気ではなく、方針は決まった。
「さて、まずはこの中で先生の弱みを知っている方はいるかしら?」
場の流れで杉崎先輩が司会になったようだ。杉崎先輩は立ったまま、椅子に座っている僕らを見渡し訊ねる。
「オーウ! アルアル!!」
カリンさんがシュビッ!っと手を挙げ、皆がカリンさんに注目する。「ではカリンさん、どうぞ」と杉崎先輩が促す。
「タケダ先生、髪薄イ!! キット髪ノ毛ガ弱点!!」
竹田 天使先生。近代現史の先生だ。確かに頭髪が薄い。
「止めろ、死にたいのか!?」
川島部長が突然叫び、皆ビクッとして川島部長を見る。
「死にたくないなら、竹田先生に髪の話をするな! いいか、去年俺のクラスでこんな事件があったんだ……!」
川島部長は竹田先生の事件を語り出す……。
去年、1年2組のある日の近代現史の授業中の時の事である。
この日の近代現史の授業は少し分かり辛いので、生徒に分かりやすいよう竹田先生が自作したプリントを生徒に配った。事件はその時に起こった。
「みんな、ちゃんと行き届きましたね?」
「せんせー」
ある列の最後尾の男子が手を上げて立ち上がる。
「先生、紙ないです」
「……は?」
竹田先生が目をパチクリさせて、その生徒に尋ねる。
「今……何と言いましたか?」
「だから、紙がないんですってば」
竹田先生の顔が赤くなりプルプル震えている。
生徒が竹田先生の異常を察してか、教室の中が静かになる。
「もう一度、訊きましょう。何がないんですか?」
怒気を孕んだ静かな声で、竹田先生が訊く。
「紙だって! 先生、紙!!」
突然、ドゴォッッ!! っと大地が割れるような音が教室……いや、もしかしたら学校中かも知れない。1年2組を中心にそんな音が響いた。
1年2組の生徒は訳が分からなかっただろう、何せ温厚な竹田先生が突然木製の教卓を素手で叩き割って真っ二つにしたんだから。
竹田先生は血が滴る右手を握り締め、最後尾の立っている男子を泣きながら睨みつけて怒鳴る。
「髪! 髪! 髪って!! ええ、ないですよ髪!!髪の話しやがって!!フサフサがそんなに偉いのかこの野郎!! ありのままの姿で何が悪い!! 毟るぞこのガキがァァァッ!!」
ドスンドスンと大きな足音を立ててその最後尾の立っている男子生徒に泣きながら近付いていく。
その男子生徒は泣きながら悪鬼のような表情で近付いてくる竹田先生が怖くて、固まっていた。だけど脳味噌をフル回転させてこの窮地を切り抜ける術を探す。
ふと、男子生徒が気付くと自分の足が宙に浮いていた。竹田先生が胸倉を掴んで持ち上げたのだ。目の前には悪鬼のような竹田先生の顔が……やばい、毟られる。
そのような状況で最後列の男子生徒は切り抜ける術を見つけた。もしかして、竹田先生は紙を髪だと勘違いしているんじゃないかと。胸倉を掴まれて息苦しいが、髪を守る為に言うしかない。
「せ、先生……プリント……ここ、一枚……ない……で……ふ……」
誤解に気付いた竹田先生は「すみませんね、歳を取るとどうも怒りっぽくて」と笑顔で謝りながら授業を再開した。
「って事があった。いいか、竹田先生に髪の話は止めろ」
「弱点ジャナクテ、ムシロパワーアップネ。残念……」
本当に残念なのか、しょんぼりするカリンさん。っていうか竹田先生の薄い頭髪をどうやってダシにするつもりだ。みんな知っているし。
もしかしたら、頭髪の事をからかわれた竹田先生がからかった生徒を半殺しにして髪を毟った噂も本当なのかもしれない。
「竹田先生は駄目みたいね。他に何かないかしら?」
杉崎先輩が皆に訊くが、辺りは静まりかえる。そう簡単に先生の弱みなんてあるわけないよな……なんて思っていたら意外な人物が手を挙げた。
「私に心辺りがある」
上げた手を下ろし、五十嵐さんが無表情で静かに言う。
「長谷部先生は、身長にコンプレックスがある」
今度は五十嵐さんが語り出す……。
五十嵐 月子が茂団高校に入学して、一週間ぐらい経ったある日の放課後の事である。
(さて、帰りのホームルームは終わった……これから何をしよう?)
机の中の筆記道具や教科書を鞄に詰め込みながら考える。
(そうだ、久しぶりに動物観察をしよう)
説明しよう、動物観察とは何か?
名の通り、動物を観察する事だ。五十嵐 月子の趣味である。
ただし、五十嵐 月子の動物観察は観察と呼べるレベルでなはく、ストーキングのレベルに達しているから注意が必要だ。本人は頑なに観察だと思っているが。
五十嵐 月子は可愛い動物が大好きだ。けど、動物に近付くと絶対その動物に逃げられてしまう。
(175cmと女性にしては高い身長と、つり気味な目が動物さん達を怖がらせるに違いない)
そう思った彼女は動物に近付くのを止めて、離れて観察をするようになった。
だが、やっぱり観察するなら近くで見たいのが人の心理であろう。
動物に近付きバレそうになったら死んだ振りをし、時にはダンボールを被り動物に接近し、更には迷彩服を着て顔に迷彩のペイントを施した時もあるし、猫の着ぐるみを着て猫の集会に乱入した事もあった。
犬、猫、狸……カエル、カタツムリやモグラ、更にはどこかの動物園から抜け出したのかアルパカまで、彼女が暇な日にはいつも動物をストーキングをしていた。
過去に可愛い猫のストーキングに夢中になりすぎて、長野県に行った事がある。なぜ歩いて長野県に行けたのか、途中で気付かなかったのか、よくそこまで体力が持った等、謎過ぎて五十嵐 月子本人は既に考えるのを止めていた。
帰る支度が済み、鞄を持って教室を出る。
「待ってー、五十嵐さーん!」
廊下を歩いていたら後ろから声を掛けられた。月子は足を止めて振り向くと、誰もいない……のではなく、視界の下の方に何かある。首を下に向けると担任の長谷部先生が立っている。
「何ですか?」
「あのね、五十嵐さんに訊きたい事があるの!!」
「何でしょう?」
長谷部先生が月子の腰に抱きつき、キラキラと輝いている目を見上げて尋ねた。
「どうやったらそんなおっきくなれるの?!」
(どうやったらと訊かれても……困った)
何か特別な事をしてこんな身長になった訳ではない。返答に困り、とりあえず質問の意図を訊いてみる事にする。
「先生は大きくなりたいのですか?」
「うん!」
「どうしてですか?」
「あのね、生徒達によくからかわれるの。小学生みたい、とか言われるの」
長谷部先生はさっきまでのキラキラと輝いている目はどこにいったのか、悲しそうに俯きながら言った。更に続ける。
「電気バスを大人料金で払ったら運転手さんに変な顔されるし、デパートで買い物してたら迷子と勘違いされるし、夜歩いているとおまわりさんに補導されるの。だからおっきくなりたい」
長谷部先生の背丈をよく見てみる。恐らく身長が140cmもないだろう。
(……どう答えればいいんだ?)
これだけ頭を悩ませたのは久しぶりだ。去年の夏に入院中の美雪がテレビで赤ちゃんを見て「赤ちゃんってどうやって作るの?」と訊かれて以来だ。
選択肢1
「先生の身長はこれ以上伸びません」
事実だが多分泣かれるだろう。
選択肢2
「先生ならきっとまだ伸びます」
希望的観測過ぎる。この案は無責任すぎて却下。
選択肢3
「そんな事より動物観察しようぜ!!」
なんか長谷部先生だと勢いに流されて一緒に動物観察してしまいそうだ。
この場は誤魔化せても後日再び問い詰められるだろう。
選択肢4
「身長なんて伸びてもいい事なんてないですよ」
月子の場合、この身長とつり気味な目のおかげで女子と男子、それと大好きな動物から怖がられてきた。役に立つと言えば高いところにある物を取る時ぐらいだ。月子と長谷部先生じゃケースが極端過ぎる気がしないでもないが、効果はあるだろう。
悩んだ結果、月子は選択肢4を選んで詳しく説明した。
長谷部先生は思った以上に信じやすい性格なのか、小さくてもいいんだ、と納得していた。
月子は先生に別れの挨拶をし、動物観察をする為に足を急がせた。
「……っと、こんなところだ。一度は小さくてもいいんだ、と納得した長谷部先生だが、最近また身長の事を訊かれて困っている。適当に誤魔化しているが」
五十嵐さんの意外な一面……というか、意外すぎる一面が分かり、正直困惑した。なんだ、動物観察って。いやでも、可愛い動物が好きなんだ。女の子らしくて可愛いじゃないか。っと思い頭の中で壁に隠れながらこっそり犬を観察している五十嵐さんを想像してみる。
(これは……良いかもしれない)
なんというか、いつもクールな感じの五十嵐さんとのギャップがあり過ぎて逆に可愛らしいと思う。これがギャップ萌えか、心がキュンキュンする。
「つまり、コンプレックスである身長の低さをうまく使えば、長谷部先生を顧問にできるかもしれないわね」
杉崎先輩の声で我に返る。今は大事な作戦会議の途中だ、キュンキュンしてる場合ではない。キュンキュンするなら帰宅した後、いっぱいキュンキュンしよう。
「ほう……身長か。なら、俺に良い考えがある」
川島部長が何故か失敗を彷彿させるような事を言い、作戦を説明する。
川島部長「長谷部先生、いぶけんの顧問になって貰いたい」
長谷部先生「超嫌じゃん」
川島部長「あぁぁ、残念だなー。身長が伸びる遺物が見つかったら、長谷部先生に真っ先に使って貰うのになー(チラッ)」
長谷部先生「それマジじゃん?」
川島部長「長谷部先生なら遺物を使えばボンキュバッな誰もが振り返る大人のレディになれるのになー、でも嫌ならしょうがないなー(チラッチラッ)」
長谷部先生「顧問やるじゃん」
川島部長「よく言ったじゃん!」
一人二役で川島部長が作戦を説明した。っていうか長谷部先生の台詞の部分は川島部長が頑張って裏声を使ってたので、若干気持ち悪かった。
「ワァオ! ブチョー、ナイス演技力!! アカデミー賞並ミネ!!」
カリンさんがパチパチと拍手をしながら褒める。いや、アカデミー賞は流石に無理だろう。っていうか今は演技の感想より作戦の感想を言うべきだと思う。
「これなら上手くいきそうね」
「ああ」
杉崎先輩と五十嵐さんはこの作戦に同意のようだ。
これなら成功しそうだと僕は思ったけど……身長が伸びる遺物なんてそう簡単に見つからないだろうし、何だか長谷部先生を騙しているようで、罪悪感を覚える。
僕は「あ、あの……」と小さい声で言い、恐る恐る右手を挙げた。
「ああ、高橋君。何か意見か?」
川島部長が僕に気付き、この場にいる全員が僕に注目する。
「川島部長の作戦は良いと思います。だけど、背を伸ばす遺物が見つかるか分かりませんし、別の案を考えた方が良いんじゃないんでしょうか?」
「そうだな、背を伸ばす遺物が見つからなくて、長谷部先生がキレたら大変な事になる。『507脚立ハリケーン事件』みたいな事件をもう起こしたくはない」
「ソウネ……アノ時ノマコッチ、メッチャ怖カッタネー。少シチビッタヨ」
五十嵐さんとカリンさんが僕の意見に肯定してくれて安心した。
「『507脚立ハリケーン事件』、それはとても恐ろしい事件だったと聞いている。確かにまたあの悲劇は起こしたくはないな……別の案、何かあるだろうか?」
川島部長が顎に手を当て考え始めたので、皆も部長に続き考え始める。
(長谷部先生は何歳か分からないけど、少なくても成人はしているはずだし……今から背を伸ばすなんて絶対難しいよな……って、あれ?)
何かが引っ掛かるので、五十嵐さんの話をよく思い出してみる。
(長谷部先生は子どもに見られるのが嫌だから、背を伸ばしたいんだ。って事は、別に背を伸ばさなくても大人に見られるようになれば、それでいいんじゃ……)
いやでも、背を伸ばさなくて大人に見られる方法があるんだろうか? 脳味噌をフル動員させて、考えを巡らし……「キュピィィィィン!」と、僕の脳が突然閃いた。
(そうだ、アレがあった……!!)
反射的にカリンさんを見る。カリンさんは顔の前で手を組み、真面目に考えてる…と思いきや、こっくりこっくりと頭を繰り返し前に傾けている。どうやら眠いようだ。
僕は皆を見渡し、カリンさんのアレを使った作戦の意見を訊いてみた。
僕自身その作戦には自信がなかったけど、皆からは何故か好評だった。
次の日、カリンさんは例のアレ……ひらがなで大きく『おとな』と縦に書かれた白いTシャツを持ってきて、このおとなTシャツをを上げる代わりに長谷部先生に遺物研究同好会の顧問の先生をやるようにと、取引を持ち込んだ。
長谷部先生はあっさりこの取引に応じて、茂団高校に遺物研究同好会が設立された。
長谷部先生はおとなTシャツを超気に入り、休日の普段着として着てるらしい。
「これなら誰がどう見ても大人だわ、うふふ!」と、満面の笑みで喜んでいた。
これはこれで何か騙しているような気がするので、早く背を伸ばす遺物を見つけて長谷部先生に真っ先に使って貰いたいと思う。
っていうか背を伸ばす遺物があるなら僕が先に使いたい。割と本気で。




