第3話 夢の果てに・1
「うあぁぁぁーっ!」
みなもは自身の部屋で、勉強机の上に突っ伏した。
「どうしたの? そんなオタリアの断末魔みたいな声を出しちゃってさ」
イルがみなものすぐそばに飛んでくる。
「わかんないわかんないわかんないよーっ! この問題、さっきから考えてるけど、全然わかんないよーっ! よし、こういう時は掃除をして!」
みなもは部屋の掃除を始めた。
「それから机周りの整理整頓をして!」
掃除を終えると机の周りを片付け始める。
「最後に最後に、スマホで動画を見て!」
みなもはベッドに仰向けに寝転がると、動画を見始めた。水泳の動画だった。
「って、駄目でしょ! テスト期間なんだからテスト勉強をしないと!」
イルが言う。
「何、イル。私を現実に引き戻したいわけ? 言っておくけど私は現実には引き戻されませーん。だって現実逃避の方が楽しいんだもーん」
「はぁ……」
イルはため息をついた。
「これが世界を救う魔法少女の変身者なのかねぇ」
「たっ、助けてよぉ!」
翌日、みなもが教室で泣きついたのは、渚だった。
「昨日ね、私ね、勉強しようとしたんだよ」
「えっ、嘘!? 偉い!」
「でもね、全然続かなかったのぉ……」
「あぁー、やっぱりぃ」
床に崩れ落ちたみなもを見て、渚は言った。
「でも、どうして急にやる気を出したの? 今までのみなもってば『中学校は義務教育なんだから、落第とかはないわけだし、赤点とってもへっちゃらちゃらだよ』とかって言ってなかったっけ?」
「そうだけど、そうだけどぉ!」
だって私一応魔法少女だもん。魔法少女が赤点ばっかりだったら示しがつかないでしょ? 特にあの深海帝国アビサルのやつらは、どこで見てるかわからないんだから……。私が赤点をとったのを見て、精神攻撃をしてきたりして……。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」
「本当に……何があったの?」
渚は首を傾げる。
「てことで渚ちゃん、勉強、教えて」
みなもは顔を上げた。
「うーん、わかったよ。じゃあ、放課後は勉強会ね」
放課後になった。教室の隅に、みなもたちは集まる。
「じゃ、勉強会、始めよっか」
「おー! ……って、なんで航太くんもいるの?」
みなもは隣に座る航太に尋ねた。
「いや、僕も最近……なんだか、勉強に身が入らなくってさ」
「え? 嘘! あの航太くんが!? 隣のクラスで一位をとったこともあるあの航太くんが!?」
「うん……」
みなもは航太の額に手を当てた。
「熱はなし」
それから手首に手を当てる。
「脈拍に異常なし」
みなもは机の上に崩れ落ちた。
「って脈拍には異常あってよ! 私がこんなにそばに居るんだからもっとドキドキしてよ! うわぁぁぁぁん!」
「みなもちゃん、情緒不安定?」
渚が言う。
「脈拍……か」
航太は胸に手を当てた。
「え? どうしたの?」
みなもが顔を上げる。
「そういえば……ある人のことを考えると、僕の心拍数がほんの少しだけ上昇する気がするんだ」
「ある人……?」
もしかして浮気! 浮気をしているっていうのかい! こんの浮気者がァーッ! あ、でもまだ私たちは付き合っていないから浮気にはならない? あれっ?
「誰なの?」
渚が尋ねる。
これはまずいと渚も考えていた。航太くんの不調の原因が、恋の病で、なおかつその原因がみなもちゃんではなく別の女だとすると……。
「人魚……」
航太はぼそっと呟いた。
渚が机の上に崩れ落ちた。
みなもの顔が真っ赤に染まった。私です、それ、私です。でも、私の正体は航太くんにはバレていなくって……。航太くんは変身後の私のことが気になっていて……。
渚が顔を上げた。
「航太くん、いい? 人魚っていうのは絵本の中だけの存在なの。現実にはいないの。航太くんが見たっていうそれも、きっと何かの見間違いだよ。だからそんなもの忘れて、もっと現実を見て。現実世界にはもっと魅力的な女の子、いっぱいいるでしょ?」
すると航太は勢いよく立ち上がった。
「いや、人魚はいるよ!」
「そ、そう……」
渚は航太に気圧されたようだった。
「って、みなもちゃん! なんか顔赤いよ!」
渚はみなもの額に手を当てる。
「うわっ! すごく顔熱いし! 熱あるんじゃない!? 今日はお勉強会なんてやらなくて早く帰った方がいいよ!」
こうして、みなもは教室から追い出されてしまった。帰り道を歩きながら、みなもはイルと話す。
「イル……。私今、すっごく複雑な気持ちなんだけど……航太くんは私のこと、なんとも思ってないのに……人魚である私のことは好きなわけで……ねぇ、これからどうすればいいと思う? もう、勉強どころじゃないよね」
「また勉強をサボる理由を探してる……」
イルがため息をついた。
その時、みなもはあるものを見つけて立ち止まる。
「イル、隠れてて!」
みなもはイルをスクールバッグに隠した。
見つけたのは、怪しげな風貌の露店だった。上には「水晶玉占いやってます」と書かれている。
「水晶玉占い……」
みなもは言う。
「私、占ってもらおうかなー」
「やめといた方がいいと思うよ」
バッグの中から声が聞こえる。
「どうせインチキで、高いお金をいっぱい取られて、終わりなんだからさ」
「でも、私知りたいもん! 私と航太くんの未来がどうなるのか!」
そして露店の前に座る。
「おや……若いお嬢さんだね。一体どんな未来を見てもらいたいんだい?」
向こう側に座っているいかにも怪しげな風貌の老婆はそう言った。彼女の前に大きな水晶玉が置かれている。
「す、好きな人と……」
「やめておきなさい!」
そんな声が聞こえた。
「あなた、うちの学校の生徒よね。やめておいた方がいいわ。とても中学生に払える額じゃないもの。それに、バーナム効果って知ってるかしら? 占いっていうのはね、誰にでも当てはまりそうなことを言って、さも的中しているかのように勘違いさせるのよ。それでお金を取れるんだからいい商売してるわよね」
振り返ると、背の高い眼鏡をかけた少女が立っていた。




