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第3話 夢の果てに・2

 彼女は星ヶ丘中学の制服を着ていた。そしてみなもは彼女の名前を知っていた。いや、うちの中学校の生徒なら誰もが知っていたことだろう。彼女の名前は加茂純亡かもじゅんな、うちの学校の生徒会長だ。


純亡じゅんなさん……」


 私は立ち上がる。


「うちの学校の生徒が騙されそうになってるから、思わず声をかけちゃった」


 純亡はそう言った。


 それからしばらくして、みなもと純亡は近くの喫茶店に入っていた。


「なるほど……みなもちゃんはただいま絶賛、勉強に苦戦中なのね」


 純亡は言った。


「う、うん……どうしても身に入らなくって……」


 頑張ろうと思う気持ちはあるんだけど、やっぱり私の中で何かが邪魔をしている気がして……。私が魔法少女だから? 最近、私の日常が変わってしまったから?


「よかったら、私が占ってあげよっか?」

「占い? でも、占いはさっき、バーナム効果がどうとかって……」

「それはあのインチキ占い師の話でしょ? 私ね、やっぱりこの世には科学では説明のつかないことがあると思ってるのよ。だから……」


 と、純亡はテーブルの上にカードを並べ始める。どこかメルヘンな絵の描かれたカードだ。確か……タロットカードっていうんだっけか。


「私は曖昧なことは言わない。本当の占い師を目指しているのよ。将来は、必要最低限の値段で、本当に占いを必要としている人間のために占いをする。そんな占い師になりたいわ。採算が取れるかどうかはわからないけどね」

「でも、素晴らしいことだと思うよ! 夢があるのってさ」

「みなもちゃんは夢とかないの?」

「水泳選手」


 みなもは答えた。


「でも、まだ具体的なイメージとかわかなくってさ」

「それでいいんじゃない。今必死こいて頑張ってれば、いずれイメージは後からついてくるって」

「そうなのかな……」

「ねぇ、もし良かったら占ってく? もちろん、お金は取らないわ。何について知りたい? 将来の夢? それとも……」


 うーん、夢について知るのは、なんとなく怖いような気がする。もっと手近なところから始めてみよっかな。


「それも気になるけどさ……」


 と私は言う。


「次のテストの答えとか……」

「ズルしない!」

「ごめんなさい……」

「でも、テストの結果がどうなるかとかは……見てみる?」

「えっ、できるの?」

「もちろん。私、小学校の頃から占いをやってきてるのよ。中でもタロット占いは十八番だわ」


 そして並べたカードをめくっていく。


「うんうん」


 純亡は頷いた。


「頑張れば……結果はついてくるわ。手助けが必要ともある。ねぇ、みなもちゃん、よかったら私が勉強を見てあげよっか? 一緒に勉強会、しましょう」


 *


「ねぇ、聞いてる?」


 渚は航太とふたりきりになった教室でそう言った。


「ん? あ、いや……ごめん」


 航太は頭を降った。


「やっぱり何を聞いてても、教わってても、頭に入ってこなくてさ」

「ほんっと、どうしたものかねぇ」


 渚は腰に手を当てる。


「みなもちゃんは熱があるみたいだし、航太くんは恋の病だなんて。しかも現実に存在しない女の子相手に」


 それから渚はふと思いついて言う。


「そうだっ! こう考えてみるのはどう? その人魚の女の子は航太くんのコンディションと共鳴しあってるの。だから、航太くんも不調だとその人魚の女の子も不調になって……あぁ、力が出なくて泳げないよぉってね。そしたら航太くんも人魚の女の子のために勉強、頑張れるんじゃない?」


 航太が勢いよく立ち上がった。


「な、何……?」

「そうだよ! それだよ! 渚! 僕、やっぱり勉強を頑張ってみるよ! じゃっ、勉強しなきゃだから、早く家に帰ってるねっ!」


 航太はスクールバッグを肩にかけると駆け出していった。


「ねぇ、なんかレベルが小学生相手に言う『勉強はゲームだと思え』と同じじゃない?」


 渚はひとり、首をかしげた。


 *


「うわぁ、なんだか大きな家だね」


 みなもは純亡の家に招待され、その玄関ホールを見回した。


「私の両親……お医者さんだから。だから夜遅くまで帰ってこないのよね。家にあるものは自由に使っていいわ」


 純亡はそう言ってくれた。


「でも、まずは純亡ちゃんのお部屋に行かないと。友達の家でお勉強会って、そういうものでしょ?」

「ま、まぁそうかもね……。ちょっと待ってて、準備してくるから」


 純亡は階段を駆け上がった。


 それから部屋に飛び込む。薄暗かった部屋のカーテンを開けた。なんとなくその場の流れでみなもちゃんを家に招待しちゃったけど、大丈夫だろうか。

 純亡の部屋には、占いの道具がたくさんある。そしてなぜか、水の入った洗面器やコップも置いてあった。


「え、えーっと」


 純亡は窓を開けると、洗面器の中身とコップの中身を捨てる。


「これでよし……と」


 純亡は部屋の電気をつけるとみなもを呼んだ。


「みなもちゃん! もう上がってきて大丈夫よ!」


「うわー、すっごい!」


 しばらくして、みなもは言った。


「純亡ちゃんの教え方、すごく上手いよ! 私、なんか純亡ちゃんの話にすごい集中できるっていうかさ。うん、勉強が革命的にわかりやすいかも」

「ありがとう」


 純亡は笑顔を見せた。


「まぁ、人を惹きつけて話す力は、占い師でも必須だからね」


 純亡は部屋を見回す。部屋の中には色々な占い道具が置かれていた。


「ねぇ、純亡ちゃん。今度テストが終わったらさ、占いのこと、色々教えてよ。私、俄然興味が湧いてきちゃって……」

「いいわよ、私たち……なんだか気が合いそうね」


 純亡は笑って答えた。


「さ、そろそろ私の両親が帰ってくる時間だから……」


 外を見ると、空の明かりはオレンジ色に染まり始めている。


「あ、そうだね。じゃあ私、帰らないと」


 みなもは立ち上がった。


「でも私、また来るからね!」


 そしてみなもは部屋を出ていく。

 みなもがいなくなると、純亡は少し、表情を固くした。


 しばらくして、両親が帰ってきた。階段を上がる足音が聞こえてくる。部屋に入ってきたのは母親だった。

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