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第7話 恩師へ……・2

「へぇ、みなもちゃんの才能はそうやって発見されたんだ」

「先生は自分のことみたいに喜んでくれてね。それから私のお母さんを学校に呼んで、この子は水泳の才能があるみたいだから、町民プールでやってる水泳教室にぜひ参加させてやってくださいって。本人も、水泳の授業だけはすごく真面目に受けているからって」

「逆に水泳以外全部だめなところは、変わらなかったんだねぇ、みなもちゃん」

「私のこと、馬鹿にしてる?」

「してないよ、続けて」

「それで私はスイミングスクールに通い始めた。私の水泳の腕はどんどん上達していった。私、それでようやく初めて自分の人生に楽しさを見出したんだ。今まで色がなかった世界にようやく色がついたような、そんな気分だった。舞鶴先生は、私のためにわざわざ時間をさいて、何度も町民プールに足を運んでくれた。私のことを応援してくれた。そのおかげで、練習は大変なこともあったけど、私は頑張ることができた。それにね、水泳が上手くなると、私も少しずつ自信をつけ始めたんだと思う。ほかのクラスメイトにも話しかけられるようになってきて……それで、そんなにいっぱいではないけれど、友達もできた。渚ちゃんや航太くんと出会ったのもその頃だよ。私たち、その頃からの仲でさ」

「じゃ、その舞鶴先生って人は、みなもちゃんの人生にすっごく大きな影響をあたえた人ってわけだ」

「うん、だから恩師なんだよ」


 それからみなもは電気の紐に手を伸ばした。


「じゃ、寝るよ、イル。明日も学校なんだからさ」


 *


 夜の小学校だった。校門の前には「星ヶ丘小学校」と書かれたパネルが取り付けられている。

 その校門の前に、ひとりの男が現れた。舞鶴先生だった。

 舞鶴先生は呟く。


「みんな……すまない……」


 *


 翌日、学校でのみなもと渚は相変わらず微妙な雰囲気だった。渚はいつもの通りみなもに話しかけるのだが、みなもの反応はどこかぎこちない。


「うーん」


 悩んだ挙句、渚は理科室へと向かった。


「どうしたの?」


 今日の航太は、黒板に人魚の絵を描いていた。


「相変わらず人魚……」


 渚はため息をつく。


「ねぇ、航太くん、最近渚ちゃんがどうもおかしくって……」

「おかしいってどんな風に? たとえば急に人魚に興味を持ち始めたとか」

「それはあんたでしょ? ってか、相変わらず下手な絵」

「ちょっと傷つくからやめてくれないかな、そういうの。僕はこれでも上手いつもりなんだ」

「一回、美術の日高ひだか先生に教えを乞いてきたら? なんだか私には、その絵、呪われそうな絵にしか見えないからさ」

「酷いなぁ、僕だって人の心はあるんだよ」


 航太はそう言いながら黒板消しで自分の描いた絵を消し始めた。


「で? なんだって? みなもの様子がおかしいって?」

「私、なんとなく避けられてるような気がするんだよね」

「自分が人魚だとか、そんなような妄言を吐くからじゃないか?」

「いや、それはないと思うな」


 だってみなもちゃんも私が魔法少女であることは受け入れてるみたいだし、第一、私が変身するところを見ているわけだし……。


「じゃあ、直接問いただしてみたら?」

「え?」

「だから、どうして自分を避けているのかって。それとも、もう本当のことを言い合えないほどに、君たちの仲は冷えきってしまったのかい?」

「そんなことはないと思うけど……」

「じゃ、決まりだね。僕はここで人魚の研究をしながら応援してみることにするよ」

「もう、他人事だと思って……」


 渚の姿が見えなくなると、航太はふたたびチョークを手に持ち、黒板に人魚の絵を描き始めた。


「今度こそ誰にも邪魔されず、僕の人魚の絵の最高傑作を描いてやるぞ」


 航太はそう宣言をした。


 *


 みなもが水泳部の活動を終えて、屋内プールから出てきた。渚はそんなみなもに声をかける。


「みなもちゃん、やっほー」

「渚ちゃん」


 みなもは顔を上げた。


「相変わらず心ここに在らずって感じ? 本当に最近どうしちゃったの? なんか私のこと、避けてるみたいだしさ」

「そんなことは……」

「あ、もしかして深海獣のこと? たしかにあんな怪物がこよ星ヶ丘の町で暗躍しているっていうのはショックだよね。でも大丈夫、全部私が倒してあげるから。本当だよ。私はみなもちゃんを守るために魔法少女になったんだからさ」

「そんなんじゃなくって……」


 とみなもは言う。


「あのさ、渚ちゃんは殺人についてどう思う?」

「殺人? それって……人殺しのこと?」

「うん、そう」

「それは……絶対にやってはいけない罪だと思うけど。どんな理由があろうとね」

「本当にそう思ってる?」

「どういうこと?」

「たとえば、殺された相手が、何十人も人を殺しているような殺人鬼だった場合は? あるいは、罪もない人々を虐殺した独裁者だった場合は?」

「それは……自分や誰かを守るためだったら正当防衛になるけど、そうじゃなかったら、やっぱり……」

「私がしてるのはそういう、法律みたいな難しい話じゃないよ」

「じゃあ……何?」

「深海獣を倒すことは、殺人と変わりないんじゃないの?」


 そう言うとみなもは渚のそばを通り抜けた。


「ごめんね、渚ちゃん、私、もう、帰るから」


 みなもが校門を出ると、そこには、舞鶴先生が立っていた。


「舞鶴先生?」


 みなもは立ち止まった。


「やっぱり……星ヶ丘中学だったか。ヤマカンで来たけど、どっかの私立中学とかに入ってなくてよかったよ」


 舞鶴先生は言った。


「先生は……私の成績、ご存知でしょう? そんな、私立に入るなんて……」

「いや、俺がいなくなったのはみなもが小学校三年生の時だろう? あれから、何があったものかわかったもんじゃないからな。急にみなもが勉強に目覚めていたらと期待していたのだが……」

「私……いつも赤点を回避するのに必死で……」


 みなもは正直に答えた。


「それは変わらないな」


 舞鶴先生は笑った。


「で、どうして、私に会いに?」

「いや……昨日はみなもの悩みとやらを聞きそびれちゃったからな。今日こそ、みなもの力になってあげられたらと思って……」

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