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第6話 正義の鉄槌・3

「なんで……わかったんですか?」


 蒼太は恐る恐るそう尋ねる。


「だって……みんな気づいてないみたいだったけど、あの場に、あの怪物が現れた時に……スーパーのみんなが出てきてたのに、焼津さんだけはいませんでしたから。それにあの怪物……私のことを助けてくれました。見た目の割に、優しいんだなって思いました。それで今日は焼津さんがスーパーを無断欠勤している。だから私、確信したんです。昨日の怪物の正体は焼津さんなんだって。みんな……化け物だなんて言ってましたけど、焼津さん、本当はあの男から私を守ってくれたんですよね」

「どうだろうな」


 蒼太は言った。


「どうして今日、スーパーを無断で休んだりしたんですか? 別に……焼津さんは悪いことなんてなにひとつもしてないのに……」

「でも、俺はみんなを怖がらせてしまいましたから」


 蒼太は答えた。


「俺みたいな化け物は、日陰で生きていかなきゃいけないんです」

「お金、なくなっちゃいますよ?」


 真由己はドアポストに目を向けた。そこには無数の督促状が溜まっている。


「働かないと。色々、払ってないんでしょう?」

「俺はいつ死ぬともしれない人間ですからね。だからいいんですよ。こんな……」

「どうしてそんなに後ろ向きなんですか! せっかく……焼津さんにも素敵なところ、いっぱいあるのに……」

「でも、そんなものに価値なんてない。俺はわかったんですよ。ここまで生きてきて……何をやっても上手くいく人間もいれば、俺みたいにいつまで経っても運命が味方してくれない人間だっているって。俺が生み出すものは、たとえそれがどんなものであっても、価値なんてないんです」

「焼津さん……」


 それから真由己は部屋の奥に目を向けた。エレキギターが転がっている。


「ギター、弾くんですか?」

「まぁ、少し……」

「聞きたいです!」


 真由己は両手を合わせた。


「ここで音出ししたら……近所の人に怒られるけど……。まぁでも、平日の昼間だから平気かな」


 蒼太は部屋の奥に向かった。真由己はついてくる。

 蒼太はギターをアンプに繋ぎ、電源を入れた。


「じゃ……ちょっとだけ……」


 そして蒼太はギターを演奏し始める。『大海原のバラード』。それが曲名だった。蒼太がバンドをやっていた頃に、作詞作曲した曲だった。

 しばらくして、曲が終わると、真由己は拍手をした。


「凄い……凄いです! なんか……すごく心に響いてくる曲で……」

「あんまりロックっぽくないですけどね」


 蒼太は少し笑った。


「あの、この後、どこか出かけませんか? あんまり家の中に閉じこもってばっかりだと、鬱々としてきてしまいますよ」

「どっかって……どこに……」

「どこでもいいです。ただ……外の空気が吸える場所にです。外の新鮮な空気が。あ、それこそ海辺とか、どうですか? 海が好きって言ってましたよね?」

「え、えぇ……まぁ」

「じゃあ、行きましょう、行きましょう」


 それから二十分ほどして、蒼太と真由己の姿は浜辺にあった。浜辺に、波が寄せてくる。


「吉野さんは」


 と蒼太は言った。


「今は大学生ですけど……大学を卒業したら、何かやりたいこととかあるんですか?」

「それが……何もなくって。私、元々音楽をやりたかったんですけど、大学では仲間ができずに……。私って、昔から友達とか作るの、苦手なんですよね。あ、だから焼津さんの家にあったギターに、いち早く気がついたのかもしれません。……っていうか、焼津さんはバンドとか……組んでたことは?」

「昔、ありました。でも解散しちゃって……。そんなに仲良くなかったから……。元々数合わせのために集まったようなきらいがあったし……」

「でしたら、私たちで……やりません?」


 真由己が蒼太の顔を見つめた。


「どこまでいけるのかはわからないけど、でも……いけるところまで」

「いや……でも、俺がいると上手くいかないんですよ、何事も、そんなふうにできてるんです……」

「そんなのわからないじゃないですか! 上手くいかなかったらまた別の道を探せばいい! 別の道を探すことは、逃げとかじゃないですから!」

「そう……かもしれません。わかりました。じゃあ、一緒にバンドを組みましょう。ツーピースバンドっていうんですかね、こういうの……」


 真由己は蒼太の前で右手を広げた。


「なんですか?」

「やだなぁ、ハイタッチですよ! ほら!」


 蒼太は少し笑って、ハイタッチを返した。

 その時だった、遠くからサイレンの音が聞こえ始める。そして二台のパトカーが海岸に停車した。

 数人の刑事が降りてくる。


「焼津蒼太だな!」


 刑事が言った。

 蒼太は振り返る。

 真由己は怯えたように、海の方へと後ずさった。


「先日のコンビニ強盗事件に心当たりはあるな」


 刑事は言う。


「証拠品のナイフの購入ルートを辿ったところ、お前に行き着いた。署までご同行願おうか」

「嘘……ですよね」


 警察の方へと歩いていこうとする蒼太の袖口を真由己が捕まえた。


「焼津さんが、コンビニ強盗なんて、そんな……」

「いや、本当です。俺は確かに強盗をしようとした……」


 蒼太の肩を、刑事ふたりが両側から捕まえた。

 すると、そんな刑事たちに、真由己が組み着いた。


「嘘です! 誰よりも優しい焼津さんがそんなことするはずがありません! 私は信じません! 焼津さんがコンビニ強盗だなんて!」

「うわっ、なんだ! この女は……!」

「こいつも仲間かもしれない。公務執行妨害で捕まえてしまえ!」


 刑事たちが真由己を砂浜に取り押さえる。


「吉野さん!」


 蒼太は叫んだ。


「おい、暴れるな!」


 しかし蒼太は暴れる。


「吉野さんは悪くない! 無関係だ!」

「関係があるのかないのかは、こっちが決める。さぁ立て!」


 刑事たちは半ば無理やりに真由己を立ち上がらせた。


「強盗のくせに、女持ちとはな」


 刑事のひとりが吐き捨てるように言った。

 真由己の尊厳を傷つけるようなその言葉に、蒼太は怒りを覚えた。そして気がつくと、カブトガニ深海獣に変身していた。

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