表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/32

第6話 正義の鉄槌・2

「やっほー、人魚廃人さん」


 入ってきたのは渚だった。


「なんだ……渚か」

「なんだって何? 私じゃ悪かったわけ?」

「いや、人魚かなーって思って。あの時の人魚が、僕のところに会いに来てくれたり……」

「はぁ……」


 渚は頭を抱えた。


「ずっと恋の病を引きずっているわけ? この前のテストの結果も悪かったっていうし……」

「だって彼女……僕のことを助けてくれた。それだけじゃない、渚のことだって助けてくれたんだぞ」

「それは覚えてないから知らないけど……そんな航太くんに朗報があって」


 渚は言う。


「朗報って?」

「人魚は実在する! ……かもしれなくって……」

「本当かい!? それは……」


 航太は勢いよく椅子から立ち上がった。


「うん! って、相変わらず下手くそな絵だねー」


 渚は言う。


「いいから! いいから教えてくれよ! その話を詳しく……!」


 航太は渚の肩を掴んだ。


「うん……えっとね……人魚って昔は本当に存在してたんだけど……昔は絶滅しちゃったって話……。でもね、もしかしたらその生き残りがいたんじゃないかって私、思ってて……そう考えれば、辻褄が合うでしょ? 航太くんが見たのはその生き残りだったんだよ!」

「うん、だいたい言わんとしていることはわかったけど……君はどっちかっていうと人魚否定派だっただろ? どうして急にその立ち位置を入れ替えたのさ」

「ふふーん、それはね」


 渚は腰に手を当てて、得意げに言った。


「私、人魚の血を引いてるってわかったから。人魚の血を引いてると魔法少女に変身できるから」

「はぁ……」


 航太はため息をついて椅子に座った。


「あ、あれ……?」

「僕をからかいに来たのか、渚は。悪いけど僕はそこまで非現実的に落ちぶれちゃいないよ。僕は実際に目で見たものを信じて、人魚の実在を証明しようとしてるんだ」

「え、信じないの?」

「信じないよ。もう帰って」

「むぅ……」


 渚は口を尖らせた。そして、理科室から出ていく。


「馬鹿っ、私の言葉くらい信じてよ」


 理科室の扉の前で、渚はそう言った。


 *


 学校の、屋内プールの飛び込み台から、みなもはプールに飛び込んだ。そして泳ぎ始める。悩み事がある時は泳ぐに限る。みなもはそう思った。みなもは水と一体になった。

 渚ちゃんは私を守るために変身してくれた。それは、友達として嬉しいことだった。でも、なんだろう、素直に喜べないこの気持ちは。渚ちゃんが私のために傷つくのは見たくないから? いや、それだけじゃないだろう。渚ちゃんの信じる「正しさ」と私の信じる「正しさ」はそれぞれに違っていて……。どうして? 私たちは友達なのに。友達なのにどうしてこんなに胸が苦しくならなくちゃいけないの?


「おーい、みなも!」


 そんな声が聞こえた。

 みなもはプールの中程で泳ぐのをやめて顔をあげる。見ると、プールサイドに制服姿の航太が立っていた。


「航太くん……」


 人魚に執着するスランプからは解放されたのだろうか。みなもは航太の方に泳いでいく。


「どうしたの……?」


 水の中からみなもは問う。


「ちょっと……渚ちゃんのことが気になったんだ。彼女、自分が人魚の魔法少女だとかなんだとか、そんな嘘をつくんだよ。それがちょっと気になってね」


 それ、嘘じゃないけど……。とみなもは言いかけた。でも、航太くんにもそんなこと言うんだ。


「僕を元気づけようとしてくれるにしても、あまりにもやり方がおかしいからさ。ちょっと気になって……。みなもちゃんならわかるかなって。みなもちゃん、渚ちゃんに最近……何か変わったこととか起こらなかったかな?」


 みなもは水から上がり、プールサイドに腰を下ろした。


「変わったことっていうか……」


 みなもは慎重に言葉を選ぶ。


「渚ちゃんって、本当にいい子だよね。頭いいし、それでいてまっすぐだし……。だから私、渚ちゃんのこと、本当に誇りに思ってる。でもちょっとだけ……渚ちゃんのまっすぐさが怖くなることがあってさ。私……渚ちゃんの友達としてやっていって、いいのかなって……。うん、渚ちゃんのこと、好きなのは事実なんだけど……」

「うーん……みなもちゃんの言ってること、なんだか僕には全部理解することは出来ないみたいだけどさ」


 と航太は言う。


「友達って……全部が全部一緒だったらつまらないじゃないか。同じところがあったと思えば、違うところもある。だから一緒にいて面白いと僕は思うんだけどな」

「そう……かもね」


 みなもは言った。


「あれ、なんだか僕の方が相談しに来たのに、いつのまにか僕がみなもちゃんの相談を受けてる?」

「ん? あれ? ごめんね、でも私、今、悩み中だったからさ」


 みなもはそれから少し笑った。


「でも航太くんの言う通りかもしれないな。渚ちゃんと私は違う、でも違うからこそ面白いのかも」


 だから……とみなもは心の中で付け加える。渚ちゃんが魔法少女としての力で私を守ろうとするように、私だって私なりのやり方で、渚ちゃんを守ろう。


 *


 蒼太は昼間から、酒を飲んでいた。今日はバイトを無断欠勤してしまった。なぜなら、あの深海獣としての醜い姿を晒してしまったから……。バイト先のみんなは、深海獣になった蒼太のことを「化け物」と呼んだ。きっと僕はよっぽど酷い見た目をしていたに違いない。僕はこの世にいちゃいけない化け物なのかも……。


「荒んでいるな」


 シンクに溜まった水たまりに映ったギガロがそう言った。


「そう見えるか?」

「あぁ。そこまで荒んでいるのなら、その力でこの町を滅ぼしたらどうだ? アクア・ドームを展開し、この町を深海に沈めてしまえば……」

「興味ないね」


 それから蒼太はギターを手に取った。


「沈んでいくのは俺ひとりで十分なんだよ。この町の水底に、たったひとり、沈んでいくのは……」


 その時、部屋のインターフォンが鳴った。

 慌ててギターを畳の上に置いて扉を開けると、そこには真由己が立っていた。ギガロの姿が消える。


「焼津さん……」


 真由己は言った。


「あの怪物は……焼津さんですよね」


 気づかれていたか……しかも、いちばん気づいて欲しくなかった人に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ