第5話 渚とオルカ・4
みなもと渚は下校道を帰っていた。その時、遠くの方で悲鳴が聞こえる。
「何事!?」
渚が言った。そして駆け出す。みなももそれに続いた。
たどり着いた先はスーパーの駐車場だった。見ると、そこには深海獣の姿があった。深海獣はひとりの、金髪の男に襲いかかっている。そしてスーパーの店員たちはその様子を遠巻きに見ていた。
「ば、化け物だ!」
店長と思しき年配の男が叫んだ。
「誰か……誰か助けてくれ!」
「深海獣……? で、でも……!」
みなもは渚の方を見た。渚の前で正体をさらすわけにはいかなかった。私が魔法少女であるなんて……そんなこと……。こうなったら、生身で戦わないといけないのか!
「私、行ってくるね!」
みなもは走り出す。
「やぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
みなもは深海獣に向かって突進した。深海獣に体当たりをくらわせると、深海獣は男を離した。
「皆さん、逃げてください! ここは私が……!」
みなもは叫ぶ。
「わ、わかった!」
店長と思しき男は頷き、他の店員たちを伴って逃げ出した。近くで尻もちをついていた女の人も立ち上がって逃げ出した。深海獣に襲われていた男も逃げ出す。
しかしカブトガニのようなその深海獣はみなもを睨んだ。
そしてみなもの身体を突き飛ばした。
「邪魔をするなっ!」
カブトガニ深海獣は叫んだ。
「俺は……この力で……!」
大切な人を守るんだ! カブトガニ深海獣は心の中で叫んだ。
その時、バイクのエンジン音が聞こえてきた。みなもは顔を上げ、渚もその方向に顔を向ける。
オルカだった。
「そうか……まだ覚醒をしていなかったか」
オルカはそう言うと、渚に向かって貝殻型のアイテムとチャーム型のアイテムを投げた。
「君! これを使え! 君が人魚の血を引いているのなら、使い方は自ずとわかるはずだ! その力で君の友達を救ってみせろ!」
渚はアイテムを受け止めた。
「あれは……」
みなもは息を飲んだ。カブトガニ深海獣がゆっくりと迫ってくる。
「みなもちゃん、今、行くよ……。私、みなもちゃんのことを守りたい! だから……!」
渚はアクア・チャームを掲げた。サンゴの形をしたアクア・チャームだった。
「ドレスアップ!」
空中に飛び上がり、アクア・コンパクトを開き、そのピンク色の宝石部分にアクア・チャームを差し込む。アクア・コンパクトからピンク色の光が迸った。渚の身体に魔法少女のコスチュームが装着されていく。水色とピンク色の二色で構成されたコスチュームだった。髪色も、水色に染まる。下半身は人魚の尾びれになっている。渚はコンパクトを閉じると、その蓋を二回叩いた。尾びれが光の粒子となり、人間の脚が生成される。
渚は地面に着地をした。腰のポシェットにコンパクトが収まる。
「凍てつく海の静寂に誓う、魔法少女コーラル!」
渚は叫んだ。
「なんだお前は……!」
カブトガニ深海獣は渚に向かっていく。だが渚の両手に泡が集まってきて、それはやがてふたつの武器を生成した。右手には指揮棒型の短剣、コーラルタクト。そして左手にはサンゴの紋章が刻まれた盾、コーラルシールド。
「はぁっ!」
渚はコーラルタクトを振るった。クラシカルなメロディが流れ、空中に音符が生成される。音符はカブトガニ深海獣の動きを遮った。
「みなもちゃん! 逃げて!」
渚は言った。
「わ、わかったよ渚ちゃん!」
みなもは立ち上がる。
「で、でも……」
深海獣は人間が変化したもので……。普通に戦って倒してしまったら……。
「渚……っていうのか」
オルカが口を開いた。
「その深海獣は悪人が変身したものだ。だから躊躇はいらない、倒してしまえ!」
「わかりました、オルカさん!」
「え……?」
みなもが目を丸くする中、渚はタクトとシールドを構えて、深海獣に向かっていった。タクトの突きの攻撃が入り、深海獣は後退する。さらに渚は深海獣を盾で殴る。深海獣は地面を転がった。
「はぁ……はぁ……くそ……」
深海獣は立ち上がろうとする。だがそこで、渚がコーラルタクトを後部に引いて構えた。
「コーラルスティング!」
渚はコーラルタクトの持ち手にあるスイッチを二回押した。コーラルタクトが金色の発光を始める。そしてカブトガニ深海獣に向かって走り出した。
「たぁっ!」
カブトガニ深海獣に向かって突きの攻撃を放った。
「うっ、うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
カブトガニ深海獣は後方に転がり、そしてその場から逃げ出した。
渚はカブトガニ深海獣を追いかけようとするが、すぐに思いとどまり、みなもの方に走ってきた。
「みなもちゃん! 大丈夫!? 怪我とか、ない?」
渚はみなもの身体を触って、怪我がないかどうかを確かめる。
「うん、大丈夫だけど……」
「よかった。……って、びっくりしたよね、急に私が変身なんかして……。よくわかんないけど、これがみなもちゃんを守る力になるみたい。だから安心して。さっきみたいな怪物が現れても、私、何度だって撃退しちゃうからさ。倒さないで逃げられたのは……残念だけど……」
「でも、私も……」
私も同じ力を持っていて……。みなもは言おうとするが、そんなみなもの言葉を遮って、オルカが歩いてきた。オルカはヘルメットを外した。
「魔法少女の力だ。深海帝国アビサルが送り込む深海獣から人間を守るためのな」
「オルカさん、あなたは……」
と渚は口を開いた。
「何者なんですか」
「俺も本質的には君たちと同じだ。かつて絶滅した人魚族の血を引く人間……それが俺なんだ」
それからオルカはにやりと笑って付け加える。
「もっとも俺は変身なんてできない。魔法少女は十代の少女に限定される力みたいだからな」
「人魚族……」
渚はその言葉を繰り返した。
「詳しく、色々教えてください! 私……この力を使って友達を、みなもちゃんを守りたいんです!」
「いいだろう、これはふたりともに関わってくれる話だからな。俺のアジトに来るといい」
オルカはそう言うとバイクの方に向かい、バイクを押し始めた。




