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第4話 私の居場所・4

「お父……さん……?」


 純亡が目を見開く。みなもも同じく、目の前の光景が信じられずに息を飲んだ。

 純亡の父が床に倒れた。

 周囲を歩いていた看護師の女性が悲鳴をあげた。点滴スタンドが倒れ、その中身が床に飛散する。

 純亡の父の背中には、果物ナイフが刺さっていた。

 そして、目の前に、両手を血に染めた純亡の母の姿があった。


「許さない……許さないわ……」


 母は呟くように言った。


「自分たちだけ、行こうなんて……そんなこと……」


 純亡の母の目の焦点は合っていない。


「あ……あ……あぁ……」


 純亡が顔をおおった。

 床にこぼれた点滴に、黒い影が浮かび上がった。魔女のような姿をした女である。


「純亡……。殺すのよ。母が憎いでしょう? あなたならできるわ、深海獣の力を、今こそ解放するのよ」

「わかったわ……シレーナ」


 純亡の身体がヒトデ深海獣のものへと変化する。

 看護師がそれを見て、床にこぼれた点滴の水たまりを踏みつけて逃げ出した。泡沫のシレーナの姿は消えた。


「純亡ちゃん……」


 みなもは息を飲む。


「許さない……」


 ヒトデ深海獣はゆっくりと立ち上がった。


「な、なによ……なんなの、純亡!」


 純亡の母は、突如異形と化した娘に、後ずさる。


「どうして……」


 とヒトデ深海獣は言った。


「どうしてこんなことをしたの!」


 そして純亡の母に向かって走り出す。


「みなもちゃん!」


 スクールバッグからイルが飛び出してきた。


「変身して、戦って!」


 みなもは頷く。


「わかってる!」


 みなもはアクア・コンパクトとアクア・チャームを取り出した。そして床を蹴り、チャームを掲げる。


「ドレスアップ!」


 コンパクトを開き、そこにチャームを差し込んだ。コンパクトから青い光がほとばしり、魔法少女サファイアマーメイドドレスのコスチュームが装着される。ポニーテールが解かれ、長い青髪が伸びる。それからみなもはコンパクトを二回叩いた。人魚の尾びれが光の粒子となって消滅し、そこから人間の両脚が伸びる。

 床に着地をすると、コンパクトを投げてみなもは叫んだ。


「響け! 碧海のメロディ! 魔法少女サファイア!」


 コンパクトが腰のポシェットに収まる。

 みなもは純亡の母に襲いかかろうとしているヒトデ深海獣に飛びかかり、彼女を後ろから羽交い締めにした。


「ひっ、ひぃっ!」


 純亡の母はよろめきながらもその場から逃げ出す。


「止めないで!」


 ヒトデ深海獣は言った。


「止めるよ! だって私、純亡ちゃんには人殺しになってほしくないもん!」

「でも、私のお母さんは人殺しよ! お父さんを殺した!」


 ヒトデ深海獣はみなもの身体を振り払った。そして走り出す。


「純亡ちゃん! どこへ!」

「戦うのよ! もっと広い場所で!」


 廊下の奥の窓を突き破って外に出た。

 みなももそれに続く。

 窓を突き破り外に出ると、そこは病院の中庭だった。

 みなもとヒトデ深海獣は睨み合う。

 みなもは右手にマイクセイバーを召喚し、セイバーモードにする。


「さぁ、決着をつけましょう」


 ヒトデ深海獣は言った。


「純亡ちゃん……」


 ヒトデ深海獣はみなもに突進してきた。

 みなもはその攻撃をかわす。


「今、わかったんだよ!」


 みなもは言った。


「やっぱり……純亡ちゃんは優しい子だって」

「何を言ってるの? 私は……」

「だって私との決着をつけるための場所に外を選んだ。アクア・ドームを展開しなかった。それって……病院にいる入院患者さんたちに被害を及ぼさないためでしょ?」

「なっ……」


 ヒトデ深海獣の動きが止まる。


「やっぱりね……。だから私、そんな純亡ちゃんが人殺しになるの、見たくなんかない」

「だったら……どうすればいいのよ」


 ヒトデ深海獣は震える声で言った。


「あんな……ことをされて……。お父さんは私のために勇気を振り絞ってあの女と戦ってくれた。でも……私はぎりぎりまで気づけなかった。お父さんが私のためにあそこまでできる人だったなんて……。これから……どうしたらいいの……私には、居場所なんてなくって……」

「居場所は、これから見つけていけばいいんだよ」


 みなもはマイクセイバーを逆手に持つと、青いスイッチを押した。剣の刃が収納されて、マイクセイバーはマイクモードへと変わる。


「これから……?」

「うん、今いるここが居場所じゃなかったとしても、この世界のどこかに純亡ちゃんの居場所は絶対にあるはずだから。顔を上げて、世界って、すっごく広いんだよ」

「世界は……広い……」


 ヒトデ深海獣はそう呟いた。

 みなもはマイクを構える。ポップス調の曲が流れ始めた。みなもは口を開き『碧海のレゾナンス』を歌い始める。


「な、なによ……この歌、私の心に……直接……響いて……」


 みなもは歌い続ける。曲がクライマックスに達した時、ヒトデ深海獣の胸元から黒い真珠玉が飛び出した。そして真珠玉は空中で砕け散る。

 ヒトデ深海獣の姿が純亡のものへと戻った。

 みなもは歌をやめる。

 そして、ポシェットからコンパクトを取り出すと、コンパクトからチャームを引き抜いて変身を解除した。

 みなもは純亡に歩み寄った。


「純亡ちゃん、行こう、もう、大丈夫だよ。深海の呪いは……解かれたから……」


 みなもは純亡に手を差し伸べた。純亡はその手をゆっくりと握った。


 数日後、みなもの姿は生徒会室にあった。生徒会室で、純亡は荷物をまとめている。


「純亡ちゃん……転校しちゃうんだね」


 みなもは視線を落として言った。


「えぇ、そうよ」


 純亡は言った。その瞳には希望の光ともとれる輝きがたたえられていた。


「父方のおじさんが引き取ってくれることになったのよ。ここから遠い街だけどね」

「寂しくなるな……あんなに、勉強を教えてくれたのに」

「でも、よかったじゃない、この前のテストでは赤点を回避できたんでしょ?」


 純亡は言う。


「純亡ちゃんのおかげだよ」

「それに……手紙くらいならいつでも送ってあげるわ」


 純亡はにこにこと笑って言った。


「この町を守る魔法少女さん」


 それから純亡はぱんぱんに膨れ上がったスクールバッグを担いだ。


「さ、私も私の新しい居場所に行かないと」

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