5話 調合試験
フォルは、いつものような優しい口調で「どうしたの? 」とエレに聞いてくれる。エレは、しばらく間を置いてから、口を開けた。
「……チェイシェア、ヨージェアナ、オルベル、ゼーシェリオンジェロー、それに……エレシェフィール。用意できる? 」
神聖と魔聖のみんなの事じゃないの。みんなのお名前とおんなじお花。世界じゃ見た事がない。繁殖方法、生息地、何もわからないお花。
エレなら、採ってくる時点で一日なんて余裕で過ぎる。でも、フォルなら……
エレの淡い期待の眼差し。その返答は
「いいよ。それらの素材はあげる。時間ギリギリまで試行錯誤するといいよ」
……ああ、そっか。フォルは……
という事は、少なくとも……
まぁ、それを今気にする必要はないのかな。
エレはフォルから素材をいっぱいもらえたの。それで、早速調合部屋……エレの趣味部屋に行く。
特別にみんなご案内。フォルには秘密部屋さえバレないようにすればいいから。真面目な部分しか見せてなかったら、何も疑わないかも。
「クーム、エレの調合部屋に案内するよ。きっと気にいると思うんだ」
「それは楽しみです」
うんうん。楽しみ楽しみ。クームがどんな反応するのか楽しみ。
エレ達は、趣味部屋へ歩いていくの。
エルグにぃとルーにぃが何かお話している。エレ達というか、エレに関する事のような気がするけど、よく聞こえないから気にしない。なんかね、管理者がどうとか言ってる事だけ聞こえる。
「アディ……あの……あのね……イヴィ、その……」
エレも聞きたい事あるから、アディに聞いてみる。その……イヴィって、エレが関わるとなんかおかしくなっちゃうでしょ? だからね、だからね、エレって呼んで、イヴィもって言いづらくて。でも……
アディはきっとイヴィと昨日一緒にいたと思うの。だから、どうしているのかなぁって。
「普通だったから安心しろ。エレって呼ぶくらいじゃ、なんともねぇらしいな」
そっか。あからさまにほっと肩を下ろす。またおかしくなって、アディまで困らせてなかったんだ。
「ところでエレ、どこ行こうとしてんだ? 」
「ふぇ? 」
「師匠、エレなら、趣味部屋だけどって思ってますよ」
「で、自分は迷子になっていないって思うとこまでが、エレだね」
アディは何を言っているんだろう。って言おうとしたの。でも違う。ギューもフォルも何言ってるんだろう。行こうと思っているじゃなくて行ってるじゃん。迷子じゃないもん。
「……エレ、こっちだ」
「ふぇ」
……ギューの手は、おっきくてぽかぽか。連れてってくれる。
エレの趣味部屋。なぜかすぐについたの。いつもなら、いっぱい時間かかるのに。
……あれ? エレ……き、気のせい! ギューに子供と思われてなんていないから!
うん。今からいいところを見せて名誉挽回してやるの。
「クーム、調合するの」
気合い充分。ギューにはお礼に特等席エレのお隣で見せてあげる。
ふっふっふ、エレは調合得意。なんていっても、調合は表家業。エレはシェフィが裏家業している分、表家業いっぱいしてきたの。という事で、ここはエレの独占場。
「ふっふっふ」
見ていろなの。まずは、お試しで作ってみる。全てを同等の量入れてみようかな。後で調整をすればいいから。
成分の抽出さえ先にしておけば、時間も間に合うと思う。
「クーム、抽出手伝って」
「はい……あの、一応知識はあるんですが」
「大丈夫なの。エレの方法は誰でもできるから」
「エレ以外は」
聞こえているんだけど。後ろで見学中のフォル。エレは……できない部分あるけど、みんなお手伝いしてくれる。今だってクームが補ってくれるの。
とりあえず、力仕事全部任せる。抽出の多くが力仕事だから。
エレは、木の実を擦り潰すの。シェフィに聞いたけど忘れた、擦り潰すための道具使って。
「……」
あれ?
「……」
ふにゃ?
「……」
なんで?
硬い。硬くて何もできない。
「……ギュー、手伝ってやりな。エレに関しては今回知識だけを見ているから。できない部分は手伝ってやって」
「……ぐす……」
いいところ見せる作戦失敗なの。
「……そういや、調合、あんまやった事ねぇなぁ」
ふぇ?
「な、なら、エレがいっぱい教えてあげるの。エレは知識だけはあるんだから、任せて! 」
調合なら、よく初心者に教えていたの。ヴィーの生まれ変わり前もエレ教えてあげていたんだよ。何も覚えてくれなかったけど。エレが麗しいとか言っていて。
ギューは、覚えが早そう。それにね、エレのお手伝いが慣れているご様子。
クームの方も見ないと。クームは布を使って、ぎゅぅって絞ってる。ぽたぽたと出てくる薄青色の液体。器の十分の一くらい溜まっている。
二人に任せていたら、成分抽出の段階は予定の半分くらいの時間。
「……フォル、これ本当に出来んのか? 」
「どうだろ? あと少しの段階まではきてるんだけど……最後の一押しがね」
アディとフォルが何かお話している。聞き取れているけど、この後の事考えないといけないから。
全部少しは抽出できてる。エレは調合に移らないと。えっと……全部均等に……
小瓶三個。冷やすのと温めるのと常温。でまずはいいかな。白色の液体。匂いは……無臭。なんでだろう。
普通なら、その病を患っている被験体が必要。でもね、エレは必要ないの。置いてある魔法具。上には小さなお皿。その下に成分表示と指定の効果が出ているかの表示。フィルに制作依頼した特別な魔法具。エレが設計と、自分が欲しい情報が出るように設定したの。
常温は……ただの浄化薬。強めの。これは……失敗。
あっためるのはどうしよう……みゃ⁉︎ 今回は、知識なの! エレは小瓶をアディのところに持っていく。
「アディ、あっためて」
「どんぐらいだ? 」
「エレがぎりぎり触れる温度……は低いから、蒸発しない程度に」
赤い光。お手伝いいっぱいいて助かるの。
「こんぐらいでいいか? 」
「うん。ありがと」
エレは持てないから、アディが魔法具の場所まで運んでくれる。魔法具……エレ専用なんだから、エレだけのお名前つける。
どうしよう……調査君二号機にしよっと。
調査君二号機の反応は……ただのあったかい浄化薬。チェイシェアのお花から摂れる成分少なくした方がいいかも。
また溜まっている。瓶二つ分は余裕くらい。今度は、浄化成分少なめにしてみる。
一応、冷やしたのも試してみよっと。瞬間冷却魔法具に入れておく。後で見るの。
新しく一瓶作った。それも確認。ぽたん——薄茶色の液体を小さなお皿に垂らす。あっ、あのね、成分検出したら自動で洗われているから。そのきれいなお皿に垂らした液体の匂いを嗅いでみる。今回は……くさい。普通にくさい。
反応は……これも失敗。なんかごちゃごちゃしたの生まれた。身体に悪そう。
ギューの魔力拒絶症を治したのは、生命系。だから、今度はオルベルのお花から摂れる成分を増やしてみる。
今度はね、銀色の液体。これは多分飲み物じゃありませんね。でも、お薬って時に毒のような色になる事だってきっとあると思うのですよ。と言うわけで、調査調査。
「……ふぇ? 」
なんか、とっても惜しい感じにはなってきているかも。まだ何か足りないみたいだけど。今の状態だと、魔力の制御のお手伝いができそう。
これ以上変えても何もなさそう。あと一押し、残りの一押しに何かあればいいんだけど……
……ここから先は、闇雲に調合し続ける場面じゃないかな。レシピ帳とメモ帳。これで、何かを見つける。
「……生命系……でも……伝説の薬……」
エレの視界に入ったのは、未だ調合成功者が存在しないと言われている薬のレシピ。全てどこか不完全。そう……最後の一押しが見つからないんだ。
「……ねぇ、みんなお部屋出てってくれる? 明日の朝まで入ってこないで」
「いいよ。明日の朝、結果を聞かせてもらう」
フォルはエレのお願い理解してくれたみたい。みんなお部屋からいなくなる。これでもう、誰にも甘えられない。
「……」
すぅ——ふぅ——深呼吸をして、シェフィが施した封印を解く。濃藍と銀。シェフィと違う、エレの色。
「はじめるの」
外部の音を断つ。全てを絶たないと、エレは、自分の中にある答えを見つけられないから。




