6話 可愛い可愛い黄色い子
「お疲れ様」
何も見えない。エレを落ち着かせてくれる声。エレは、ペンを置いて背後を確認する。ペンを……ふぇ……エレは調合はしていなかった。
フォルがエレのメモ帳を手に取る。じっくりと読まれていると、逃げ出したくなる。
エレは最後の一押しを見つけるのに失敗したからなおさら。
俯いたエレに告げられる言葉は……
「……へぇ、これがあったか。ありがと。おかげで作れそうだよ」
……作れそう? エレ、成功段階までいかなかったよ? エレ、本職としていっぱい学んできたのに……フォルに教わったあとも、めちゃくちゃ実践で鍛えてきたのに……
なんか自信無くしてくる。
「ありがと。僕だけじゃ、これは浮かばなかったよ」
声がうれしそう。エレが思いついたのは、水の中で数日間保管。別に水じゃなくてもいいの。必要なのは魔力に漬け込む事。どうして思いついたのかは覚えていないけど。
「エレ、君の手柄だ。名前は君が決めなよ」
ほとんどフォルなのに。フォルは、すでにもう一歩の段階まで来ていたんだから。エレの手柄じゃないのに。
「……魔力らぶちゃん」
「……まぁ、君がそれでいいなら。相変わらず独特な名付けだよね」
エレに決めさせるからそうなるの。
フォルがメモ帳返してくれた。全部暗記しているんだと思う。
「エレ、次の試験していいかな? 今回は君は休めると思うから」
「うん」
「じゃあ、今回の場所に移動するよ」
エレが何か言うよりも先に、フォルは転移魔法を使った。白い光に包まれる中、エレは右手を動かした。フォルの左手に触れる。
もう光は出ていた。止める事なんてできず、高級感溢れるお部屋に……ううん。違う。これは、観光地の別荘。そんな雰囲気のお部屋なの。
黄色みがあるソファ。背もたれにかけられている青色の布。
クッションも青。
エレはフォルの手を握ったままソファに移動する。
「……エレ、前から言おうと思ってたんだけど……転移魔法くらいならなんの負担にもならないよ? 」
「そうなの? 」
「うん。だから、そんな泣きそうな顔しなくていいから」
フォルがぎゅぅってエレを抱き寄せた。エレは、そんなつもりないの。泣きたいとか悲しいとは思っていなかったはずなの。
「フォル、試験の説明」
「うん。そうだね」
説明するのに、どうしてギューはエレのお隣座っているんだろう。これってあれですの? エレは、二人に甘えるのを許されているという事ですの? 試験中なのに。
それとも……
「次の試験は、最近この辺を騒がせている連中を調べる事。捕獲まではしなくていいよ」
捕獲? 言い方、なんか引っかかる。でも、今回はエレを見るわけじゃないらしいから。エレは、サポートしてればいいだけ。何も考えないの。
……目の前に細い棒状のお菓子が……ぱくっ——ふにゃぁぁぁ⁉︎ とってもあま。あのねあのね、しつこくない甘さ。それに、サクサク。
なんかギューはエレを餌付けしているかもしれないけど、楽しそうだからいいの。エレのお口もあまあまでご機嫌は快晴だから。
「……あの、もしかして、そこにいる子ですか? 」
そこ? クームが見ている方を見る。エレには右前。なんだろう。若草色でふかふかふかふか……一言で言うよ。かわいい。
大きさだって、にゃんさんサイズだよ。ちょっとぽちゃっとしているにゃんさんだよ。
あの子飼いたい。そのくらいかわいい。つぶらな瞳も愛らしい。エレの瞳はハートになっているの。
「……ああ、エレがいるからか。試験変更。失敗すれば僕らがどうにかする。だから、捕獲して」
エレは、小動物とかに好かれやすいって聞いた事ある気がする。呼んじゃったのかな? ギューがエレの髪を触っている。試験管だって事を忘れているんじゃないかな。
クームは、ゆっくりとかわいい子に近づいている。捕獲できたらエレにも触らせてくれないかな。
「ふにゃ? 」
ぴかぁって、エレの髪が光った。エレの髪がシェフィ似の色に戻った。シェフィにしかできないと思ってたのに。もしできたとしても、神聖だけ。
「エレの本当の魅力は、誰にでも見せるもんじゃねぇだろ」
そういうものなのかな。エレにはわかんないよ。
それよりも、クームがどうしているのか観察しておかないと。
追いかけてるのかな。このままだと離れちゃう。エレも追いかけようと立ち上がる。
立ち上がった時には、もうクームの姿は見えない。ついでにフォルとアディもいない。
泣こうかなって考えていると、ギューがエレの左手を握った。
「いいの? エレをおとなしくさせておきたいんじゃないの? 」
「もしかしたら、師匠の術が間近で見れるかもだろ? そんな機会逃せねぇからな」
それはちょっと理解できちゃった。エレとしては連れてってもらえるならなんでもいいんだけど。
でも、不思議。どうしてこんなにも慕っているのに、何も話そうとはしないんだろう。
……ちゃんとお話してほしい。っていうのは、エレのわがまま、だよね。
ギューはエレの走る速さに合わせてくれる。クームの姿が見えてきた。
……なんで? どうしてエレがかわいいとか、楽しいって思うものは、いつもいつもこうなの。エレの夢を返してほしいの。
その場で崩れる。ギューが手を離して、エレの肩にぽんっと右手を置いた。
でもね、エレの視界に映る姿を変わらないの。黄色いかわいい子が、かわいくない姿になってる。おでこには大きなツノ。つぶらな瞳は、凛々しい瞳。愛らしいお口には、牙。小さな足は、大きく鋭い爪。エレの知っている子違うの。
「……ふぇ……ふぇ……」
「エレ……」
なんか、ギューに慰められてる。わざわざしゃがんで、エレに寄り添ってくれるの。
エレは、見たくなくても前を向いたの。
クームは実戦慣れしていない。そういうお話は聞いた事ある。能力は高いはずなんだけど、それを発揮できていないみたい。焦るから魔法は弱くて掠りもしない。
「……」
見ていたら、冷静になってきた。もっと冷静に対処しないと。エレもできるとは言えないけど。反撃には、防御魔法で対処している。
向こうの方が体力多そうだから、長期戦は不利だと思うの。
「あれじゃ駄目だな。威力より先に制御を覚えねぇと」
「うん。でも、エレも制御覚えてないよ? 」
「……エレ、人がいる前で一人で弓使うなよ」
なんだろう。忘れたい記憶が蘇ってくるの。エレよりも、フォルとギューの方が忘れたいんだろうけど。もしかしたら、シェフィとフィルかも。
「……的に当てらんねぇなら、的を近づける方法もあるが……エレはやんなよ」
「やんないよ。一人にならない限り。さすがにエレもそのくらいお控えできます〜。エレがそんな方法とったら、フォルに叱られちゃうもん」
……魔力切れ。小さな水しか出てきていない。でも、よくよく考えれば、これきっと初の一人での実戦だよね? クームは護衛にずっと守られているんだから。冷静に対処できる方が謎なのかもしれない。
今回は、エレの当然が当然じゃなかったの。
「……ふぇ」
クームが攻撃できないと知ると、真っ先にエレの方向かってきた。咄嗟にそばに落ちてる木の棒を拾う。両手で持って前方に突き出す。
「ゼレ・ゼーシェレス! 」
……あっ、やらかした。空色の光が目の前で照らされる。焦って、攻撃系の術じゃなくて、導きの術にしちゃった。
防御魔法使うのも間に合わない。じっと前を見ている。赤い光。赤と青の炎。いつ見ても美しく鮮やかな炎が、エレと黄色い子の間に広がる。
ボォォォ——炎の音。不思議と熱を感じない。ザッザッ——草の中を歩く音。
ゾワッ……なんだろう。背筋が凍りつくような寒気を感じた。
「ねぇ、誰が僕のお姫様を攻撃しろと命令した? 勝手に出てきたのは、多めに見てやるつもりだったけど、これはやりすぎだ」
いつも以上に低い声。炎で姿が見れないのは、残念なのか安心なのか。もうわかんないよ。
神魔聖の一部ですら恐怖を感じるというのに、隣にいるギューは平然としている。というか、どこかうれし……楽しそう? エレを抱き寄せながら。抱き寄せる理由は……この距離なら、エレの事守れるって判断したのかな。周囲に魔物の気配感じる。
その魔物すら近付いていないんだけど。
「少し、お仕置きが必要そうだ」
炎消えた。すごい。黄色い子が土下座してる。動物の土下座なんて初めて見た。どうなるんだろう。




