4話 完治症例一件の病
次の試験の前に、お昼休憩。クームはお勉強している。邪魔しない方がいいから、エレは一人でおとなしくする。白いソファに座って。オルはいなくなってる。
試験、だめだったらどうしよう……
せっかくチャンスもらえているのに。今までは絶対に何がなんでも入れないって言っていた。なのに試験してくれるって言ってくれた。このチャンスを絶対にものにしないといけないのに。
ぎゅっとクッションを握る。薄桃色のクッション。
フォルはギューと一緒に試験のお話しているみたい。
「……」
ぽんっ——何かが目の前に置かれた。クレープ。エレは右を向く。フォルからの差し入れみたい。
「そんなに気負わないで大丈夫だよ。試験は基本的に得意不得意を見るだけ。管理者の方は、だけど」
「……こんなに失敗してるのに? それでも、大丈夫なの? 」
「そうだよ。エレ、管理者のみんなは、君のように文字が書けた? 今は多少書けるようになっている子もいるよ。でも、初めの頃は違う。それでも、ずっとあそこで働いているんだ」
知っているよ。だって、管理者は、フォルが直接見つけてきた人達。行き場をなくした人達。だから、教養なんてなく、多くの仕事を任せる事ができない状態から面倒見ている。知っているよ。
だからって
「……ふぇ」
アディがノートをエレに見せる。目の前に見えているページは間違いだらけ。魔法学のお勉強ノートみたいだけど……なんでこうなるって感じなのばかり。
魔法を使う方法。魔法は、体内の魔力を集めたあとどうするか。
回答、そもそもそんな事する必要ない。
完全に、自分の感想書いているの。全部がそんな感じ。しかもこれって、ゼロの文字だよね? きれいでちょっと丸い。ゼロの字はかわいい。
「……エレ、これでも堂々としているんだよ。しかも、エレを管理者にするなら自分も入れろ。試験はやらなくていいだろ。なんて本気で言うんだ」
「やらないの? 」
「やろうとしたら逃げるんだよ。だからもう諦めた。まぁ、ゼロの能力ならよく知ってるからね。必要もないんだ」
必要ない。なら、どうしてエレは試験をやらせているんだろう。穏やかな笑顔を見せるフォルは、エレを理解しているはずなのに。
「エレは」
「君の場合、成長を見ておかないとだから。エレ、以前の君に報告書を書けと言っていたらどう返ってきていた? 」
……白紙かな? もしかしたら、絵だけだったかも。書き方わかんなくて、わかんないって書いたかも。
「今回、君は僕が最初からずっとつきっきりで教えてなくても、ここまで書けた。初めからできるゼロは、その成長を見る必要ないけどね、君は違う。その意味、理解できたかな? 」
エレは頷いたの。フォルがエレの頭を撫でてくれる。
「アディ、ありがと。でも、どうしてゼロのノート」
「俺様が勉強見てんの知ってっか? ゼロがノート忘れたから貸してくれつってな」
「ほんと警戒心足りないよね。そんな事すれば即広められるのに」
神聖と魔聖。口が軽いの。面白いお話に関して。本当に大切な秘密なら教えないんだけど、お勉強ノートとか、隠せない。エレも隠せなかった。それを知らないゼロの自業自得。見たエレは悪くない。アディも悪くない。
フォル楽しそう。
「さて、エレがクレープ食べたら休憩終わろっか」
「うん」
さっきまではいっぱい悩んでいたけど、もうお悩みないの。ゼロにはひっそりと感謝をしておく。
クレープは、果物が甘々。クリームはくどくなかった。
休憩が終わると、エレはクームと手を繋いだ。手を繋いだように見せかけて、あるものを渡したの。丸くて、個包装されているあれ。とても甘いもの。クームもきっとお疲れだと思うから。
渡したらね「ありがとうございます。」ってお礼言われた。
「じゃあ、次の試験の説明をするよ。クームが飴舐めていても大丈夫な内容だから」
「ふぇ⁉︎ 」
ば、バレてた。せっかく、内緒で渡していたのに。フォルは鋭い。
「バレない方がおかしいでしょ……って、それはいいから試験内容言うね。今回の試験は、調合」
エレの得意分野。
「なんでもいいと言うわけじゃないよ。僕が今から言う症状に合うものを作ってもらう」
それは難易度だいぶ高い。一応、そういうお勉強もしてきているけど。
「魔力拒絶症の症状を抑える薬」
ふぇ……それ、魔法具で魔力を吸収しないようにして、周囲に結界を張る。魔力遮断以外に症状を抑える方法ないって言われているんだけど。しかも、かなり稀な症例。研究も進んでいない。
新しい薬を生み出せって言われているんだけど。
「期限は半日。明日の朝までに作ってくれればいいよ。可哀想だからヒントだけあげるよ。僕も聞いた話だけど、ギューは一度魔力拒絶症を患った事があるらしい」
「まぁな。あん時は、フォルが治してくれたんだ」
という事は生命系……だけでわかれば苦労しないの!
「えっと……体内の魔力が本来は起こり得ない拒絶反応を見せる。だったよね? 宿主を攻撃するようになる」
「らしいな。オレもフォルから聞いた話でしか知らねぇんだ。高熱に激しい痛みが主な症状。奇跡的に治っても、多くが手足の痺れや麻痺等の後遺症を患うんだってよ」
本来なら治らない。それに、ギューがフォルから聞いた。自分は知らない。記憶があって、当時の事を身体も覚えていたとしても当然だと思う。エレもお話だけだけど、意識を保てている人なんていないらしいから。
「……で、ほんとはどこまで覚えてたの? 」
ふぇ?
「……せめてエレがいねぇ時に聞けよ」
「別にいいでしょ……ああ、エレが治るまでずぅっと、ぎゅぅってしてくれてたとか? それとも、看病と称して」
「してねぇよ! フォルがずっとつきっきりで看病してくれてたんだからな! 研究中薬でどうにかしようって話だったが、オレが薬飲む事できな……」
フォル、とっても楽しんでる。ずっとにこにこだもん。途中で何かに気づいたギューが言うのやめたの。かわいい。なんかわかったけど、かわいい。フォルってだいぶ独占欲強いから。自分の隣に居させたい人にはそういう事平気でするんだよね。
「……フォル」
「あまり時間取らせるの悪いよね。頑張ってね二人とも」
……フォルがお話中断させた。かなり強引なやり方で。ギューはもう呆れモード。エレ達は、試験があるから。
早速、どんなお薬がいいのか調べる。素材は全てフォルが用意してくれるはずだから、とにかく調べて作ってを繰り返さないと。
「……ふにゅ……魔力拒絶症は特効薬なんて存在しない。それどころか、症状を抑えるお薬も存在しない。おそらく初の完治症例が、生命系の術によるもの……」
その術に関してもっと詳しく知る事ができればいいけど、もう質問受け付けないんじゃないかな。とりあえず、エレは隣のクームに両手を伸ばす。
「ユグベーズ手記見せてください」
「魔原書を見せていただけるなら」
交換条件。いいの。リプセグに聞いても、エレには理解できないヒントしか与えてくれないから。エレは収納魔法から魔原書を取り出す。クームの質問に答えてあげるように頼んでから渡した。
クームは、ユグベーズ手記の魔力拒絶症に関する内容を全て連絡魔法具に送ってくれる。連絡先交換した覚え無いのに。
「リプセグ様、魔力拒絶症に関する情報をくださりませんか? 」
クームがリプセグに質問している。でも教える必要ないって書かれてる。流石にクーム以上の知識なんてなかったのかな。
ユグベーズ手記の方には色々と書いてある。うんうん……そうなんだ。えっとね、そう、それ……
うん理解。あのね、ユグベーズ手記の内容だと、悪い魔力がなくなれば大丈夫と思われるんだって。簡単に言えば。でも、それは不可能というお話。となると……
「クーム、魔力を浄化するって可能だと思う? 」
「現在存在するものでは不可能ですね」
即答。悩む時間すらない。エレの調合部屋にあるものをとかを……できる、のかな……一つだけ思いついた。でも、色々とむずかしい面がある。
エレはフォルを見つけた。フォルは穏やかな笑顔を見せている。




