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多世界転生物語〜偽りの姫の居場所〜  作者: 星実月 希蝶
5章 エレ編 管理者見習い試験
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番外 聖獣王、ヴィーと過ごす時間


 聖獣。それは、英雄の成れの果て。彼も元は英雄であった。我がずっと見守ってきた英雄。

 だからこそ、今日のこの時間は彼と過ごす。

 彼、ヴィーケヴァルことヴィーと。ちなみにヴィーには、普段通り話せと言ってある。


 久方ぶりだろう。人の姿というものは。本来であれば、休息地以外でこの姿とならない。だが、今日は特別だ。ヴィーと話すのに、この姿となる。


 エレの計らいで、ヴィーは個室を持っている。ベッドはエレが勝手に買っている。だが、それ以外は彼が自分で選んだものだ。

 黒色の家具ばかり。床と壁が白いおかげで、どこに何があるのかが判別できる。


「……聖獣王、星というのは、なぜ滅びるんだ」


 ヴィーは星の住民の生まれ変わり。その頃の記憶が存在しているはずだ。だが、その中には原因を知る手がかりなどなかったのだろう。

 星の生まれ変わり。その彼は、星の存続が安定した瞬間に立ち会っただけだ。その後の危機については知るはずもなかろう。


 星は、魔星の暴走によって一度星の危機を迎えた。そして二度目は、魔星の暴走以上ではない。真の危機は、星の寿命。

 今までずっと争ってきてはいるが、いつかは逆らう事のできない流れというものに乗ってしまうのだろうか。

 そうならぬ事を願う事しかできないのだろうか。


「……星には寿命があるからだ」


「寿命? なぜそんなものが? 世界は寿命などないだろう」


 星は寿命がある。だが、世界にはない。その理由。それは、先代も知らぬ事。我でも知らなかった知識を先代は知っていた。星の危機とその原因。それも先代から学んだ。その先代が知らないのだ。星に知っている者は、ほぼいないのだろう。神聖と魔聖ですら知らないのであれば、誰一人とて知らない。その可能性すらある。


 ヴィーは、エレのぬいぐるみをクッションの上に乗せている。どこでもいつでも契約者を想う。それは、聖獣として素晴らしい行為であろう。


 我もその行為を見習わなければな。なぜか最近は契約者ではない者からの呼び出しにばかり応えているからな。


「……どうする事もできないのか? 」


「それはわからぬ。まだ希望がどこかにあるかもしれない。が、もう手遅れかもしれない。どちらかなど、誰にも知る事はできないだろう」


 少し、隠さずに言いすぎただろうか。

 しゅんっと俯いてしまった。何か、希望を与えるような事があればいいのだが……

 今この状況で、そんなものが存在するんだろうか。確実性のない希望を持たせても、それがなくなった瞬間、縋るものなど消えてしまう。その方が、残酷だろう。


 言葉が出てこない。沈黙の時間が続く。その時間は、気まずく重たい。


 何か、空気が変わるものでもあればいいが……


 少なくとも、この部屋には何もなさそうだ。なら、話題でも。と言いたいところだが、それはどうだろうか。

 ……話題など、思いつきそうにない。


 部屋の中と同じ空気に、フワッとピンク色の光が流れた。それは誰かの想いか偶然か。それはそれほど重要ではない。


「……聖獣王、聖獣としての……彼女の騎士として、魔法や神聖術をもっと学びたい。できないだろうか? 」


 その向上心は、我も高く買っている。

 神聖や魔聖ほど、魔法や神聖術の扱いに長けているわけではない。だが、彼に教える事くらいはできるだろう。

 特に制御面。それについては、かなり得意と言ってもいいだろう。今回はその面で教えればいいだろう。


 我は神聖術を見せる。銀色の光。ただの見せかけだ。だが、見せかけの術にできるのは制御あってこそ。


「ここまで使えるようになれば、制御面は問題ないだろう。まずは、小規模で慣れるのがいいだろう」


 小規模から段々と規模を拡大していく。時間はかかるだろう。だが、ヴィーならすぐに覚えられるはずだ。

 早速、ヴィーは我の真似をしようと試みているようだ。両掌に赤き炎が乗る。暖かく、穏やかな炎。

 だが、まだ術としての効果があるようだ。パチパチと燃える音。袖が焦げている。


 どこがいけないのか。真剣な彼。その掌を観察する。


 使われている神聖力が過剰。それが原因なのだろう。小規模の神聖術が苦手な彼女と同じだろう。


 問題は、それを矯正するのがかなり困難だという事だ。少なくとも、彼女はどれだけ教わろうとできなかった。今は魔法媒体杖に頼っているようだが。それがなければ、彼女も大規模の神聖術しか使えないのだろう。


「……ヴィー、神聖力を一度に使う量が多い。神聖力をもう少し抑えられないか? 」


「抑える……」


「神聖力も魔力も、ほとんど集めなくていい。何も集めないくらいでいいかもしれない」


 制御が得意であっても、教えるのが得意か不得意なのか。それはまた別だろう。だが、一度申し出を受けた以上、ここは何がなんでも彼を成長させる。


 彼は、我の助言をもとに、使う神聖力を減らしている。やはり、才能だけは元からあったようだ。助言だけでそこまでできるとは。

 もう焦げる様子は見られない。これは成功でいいだろう。


「ここから、少しずつ規模を上げていく」


 少しずつ。少しずつ。減らすのもかなり難しいだろう。だが、それ以上にわずかに増やしていく方が困難だ。それを覚えれば、実践でもかなり役に立つだろう。


 赤き炎は少しずつ大きさを増す。熱を増す。

 一度覚えればできてしまう。尊敬の域に値する。


「さすがだ」


「……だが、これができてもあそこの人を溶かす事はできなかった。俺ができていれば、もしかしたら、全員助かっていたかもしれない」


 もしかも。そんな話は、キリがないだろう。だが、それを考えてしまう。その思考回路は理解できる。

 あの神聖術は、炎の神聖だからこそできる事だろう。あれは才能だけでは決して真似はできまい。

 あれだけ扱えるのは、神聖だけ。否、おそらくはもう一人だけ、その才を秘めている人物はいるのだろう。


「……師匠のようには、できないんだろうか」


「できないだろう。しかし、決して卑下する必要もない。ヴィーだからこそ、成せる事がある。それは知っているだろう」


 かの世界を救し英雄。彼だからこそ、それを実感しているはずだ。彼は、しばらく間をおいて頷いた。


「……そうだな。そうしてみよう」


「そうだ。そもそも、なぜ神聖のようになりたいと思う? 我らと神聖は性質が違う。しかも、神聖はその術に特化しているんだ……特化……炎の神聖術以外もある程度使えるように目指していくのはどうだろうか」


 我が知る限り、ヴィーはすでに三属性は扱える。ほとんど使ってはいないが。誰からも教わる事なく。教われば、平均的に扱えるようになる。その可能性はかなり高いだろう。


「そうしてみよう。その、一つだけ聞いてもいいか? 」


「良かろう」


「神聖や魔聖ではなく、それに近い存在はいないのか? 」


「いるにはいる」


 ヴィーは、気づいていないのだろう。そう我に問いたのであれば。その相手は、長く彼のそばにいた。彼がよく知る人物だ。我も、その人物以外には神聖と並ぶ者は見た事がない。おそらく、唯一と言っていいだろう。


 だが、その相手というのはヴィーが自ら気づく方がいいのだろう。それまでは、我も発言を控えた方がいいだろう。


「……ヴィー、神聖に並びたい。それは思考回路すら変えなければいけないだろう。人間でいた頃から。それをできる者は、初めから人間ではなかったのだろうな」


 彼も、元を辿れば人間ではない。だが、その頃から思考はどこか他人任せ。悲観的。視野が狭い。現在は、広くなってきたがまだそれでは足りないのだろう。

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