番外 ルーツエング、イールグと仕事の時間
魔星実験に関する報告書。水没都市に関する報告書。夢見遊園地に関する報告書……エンシュア組織に関する報告書。
溜まった報告書の整理をしなければならない。白い机に積み重なる報告書の山を見るだけで頭痛がする。
溜め息よりも、手を動かさなければ、一向に終わらない。
報告書の確認の後は、その他書類の記入不足確認。他にも、考えたくないほど仕事がある。
「また仕事か」
「ルー」
「手伝う」
ルーが部屋を訪れる。報告書を置きにきたようだ。ついでに、俺の仕事の手伝いまでしてくれる。これが日常。どんな事があっても、それは変わらないらしい。
山になっている報告書を持つと、ソファに腰をかけている。互いに黙って、報告書の確認を行う。
一番上にあったのは、魔星実験。記述者はシェフィ。普段の報告を怠る上に、報告書も大体が雑。今回もそうだ。必要な事は書いてあるだけましなんだろうか。
半分以上白紙である事に、ツッコンではいけないんだろうか。
エンシュア組織関連である事と、連中の行動にしてはおかしな点がいくつかあげられている。その一つが、知識。
この辺は後でオル兄様に言っておけばいいだろう。
他の報告書もどんどん確認していかなければ。のんびりと仕事していれば、溜まっていく一方だ。
フォルの報告書の方が今回はまともなようだ。十枚ほど確認した中ならば、アディの報告書が一番まともだ。本来なら書く必要などない。ただ善意で書いてくれた報告書。それが一番まともだという事態は、少々問題がありそうだ。
ギュシェルの教育は問題ないはず。事実、現在見ていた報告書は、ギュシェルは関係ない。管理者の方も、もう少し教育環境を整えたいものだが……
今は難しいんだろう。
「主様」
「今日は休みじゃなかったか? 」
「報告書の確認という仕事をしているが? 」
それはそうだ。声をかけている今も、ルーは報告書から目を離してはいない。
「エレの報告書があったが夢か? 」
書いて欲しい。そう頼んではいた。だが、まだ確認はしていない。エレがこんなにも早く報告書を提出している。それだけで、感極まりそうなのは俺だけなんだろうか。
普段は、絶対やだ。逃げるの。とばかり言っていた、あのエレが、自分から報告書を書いて提出するなど……
……提出。エレがこの部屋を訪れたはずはない。最下層のこの部屋は基本鍵をかけていない。俺がいなければ勝手に置いておくように。そう言ってある。エレ以外には。そして、置いておく時には、来たとわかる何かを残しておくように。そこまで頼んである。エレ以外には。
エレは、俺がいない時は部屋に入らない。
「……」
「主様、ギュレーヴォ様が置いていっているようだ。筆は、エレのようだが」
「それだけでも、成長しているだろう」
報告書をしっかりと書いている。それだけでも、普段なら考えられない事。それで今回はいいにしよう。
……なぜギュー兄様が俺のところに報告書を? あの人はオル兄様に直接提出しているはずだ。
「……ルー、ギュー兄様の報告書も? 」
「ある。エレの方もギュレーヴォ様の方も、複製だが。主様も知っておいた方がいいとでも思ったのではないか? 」
それならそれでいい。オル兄様に提出されているなら。手間が省ける。
フォルからの報告書、ではない。手紙。星の生命。その件に関わりがある事なのだろうか。開いてみると、丁寧な文字が書かれている。
【エルグにぃ様、管理者の統率なんだけど、エレに継がせられないかな。僕がいなくなるにしてもならないにしても、僕思うんだ。ギュゼルのみんなとまた一緒にいるなら、僕はまたギュゼルの統率としていないといけないでしょ? だからさ、僕以外の人に管理者任せちゃえって思うんだ。それで、エレをご指名したい。
だめかな? あの子なら、僕の代わりを引き受けられる能力があると思うんだ。
とんでもなく優秀な補佐がいればなんだけど。
って事で、僕の愛しのにぃ様。かわいい弟の頼みを聞いて、とんでもなく優秀で、統率の仕事一人でこなせる補佐を紹介してくれないかな? 】
……全く関係のない事だ。
フォルの言い分は最もだろう。俺も、ギュシェルを設立するために、当主の座をオル兄様に返した。両立するのは、困難だったからだ。だというのに、フォルにはそれをやれ。などと言うつもりはない。
エレにその能力があれば、継ぐのに反対はしない。だが、補佐を紹介となると、そう易々と了承しかねる。
……書いている時のフォルの笑顔が目に浮かぶな。
「こっちも人手不足なんだ」
「何があった? 」
ルーにフォルの手紙を見せる。
「神聖か魔聖の中でどうにかしろ。とでも言えばいいのでは? 」
それはそうだ。現状の人員を割く必要などどこにも存在しない。
管理者の次期統率についても、そちらで優秀な人をと言いたいところだが……エレ以外を選ぶ気などないんだろうな。
なぜフォルがエレを選ぶのかは、正直理解に苦しむ。
「ルー、エレが管理者の統率。どう思う? 」
「象徴的なものにでもすれば、なんとかなりそうだな」
「それなら他の人を選べばいいだろう。エレである必要はない」
エレを危険に晒すだけの行為にしか思えない。ただ象徴にするために、それはフォルにとってリスクが似合わないはずだ。
「以前、フォルがエレは他には持っていないものを持っていると言っていた。それに関係あるのではないか? ……エレは、自分と似ている。とも言っていたな」
「エレとフォルが……想像もつかないな」
フォルとシェフィは似ていると思う。だが、エレとフォルが似ている。そうは見えない。むしろ、正反対だろう。一体どこを見て似ていると判断したのか。そのあたりまでしっかりと説明してもらわなければ、なんとも言えない。
そういえば、今度管理者見習いの試験をやるらしい。それを見れば、エレがフォルと似ている。そう評した理由が理解できるかもしれない。
「……主様、報告書の確認を終えた。エンシュア組織の不可解な点がいくつかあげられている。どれも、ヴィングジェアにはできるはずがない。その知識をどこで得たか不明。そういった内容だ」
「エンシュア組織を別の何者かが裏で操っている。もしくは協力している可能性、か」
以前からその可能性について。それはあげられていた。だが、どれも根拠に欠ける。今回もそうだろう。誰かがいる。その証明ができない。
誰にも認識できていないかのように。そんなはずは、ないのだが。
「神聖と魔聖なら、何か知っているのかもしれないな。そういえば、ギュレーヴォ様の報告書にこれが挟まっていた」
一枚の写真。知らない場所。暗い。草が生えている。それに、巨木。
覚えなどない。だが、異様に懐かしさを覚えている。
ここに帰りたい。なぜ、そんな感情が溢れ出るのかは、自分の事だというのに知り得ない。
「……これは、どこの写真なんだ」
「それは書いていなかった。主様にこれを見て欲しい。だそうだ」
見て欲しい。意味がないはずがない。その言葉とこの感情は、何か関係があるんだろう。
「……他の仕事はしなくていいのか? 」
「する。こっちも手伝ってくれるのか? 」
「今夜は暇だからな」
休みだというのに。休みだからかもしれない。今度、暇になってきた頃合いに長期休みでも与えたいが、できるだろうか。少なくとも、フォルがいなくなってしまえば、今まで以上の仕事が出る。そうなれば、休む暇などどこにもなくなってしいそうだ。
そうでなくとも、個人的感情としても、フォルにはずっといてもらいたいが。




