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全前世でモブだった俺、今世も英雄の後ろで暗躍します  作者: まーサンタ
モブバイト編

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第七歩目 「鍛冶屋のバイトと、勇者の新しい剣」



 王都に戻ったユウ・タナカは、さっそく次の仕事を探していた。


「鍛冶屋の手伝い……」


 求人票を眺める。


「経験者歓迎」


 ユウは少し考えた。


 前世で鍛冶職人をしていた。


 経験者どころか、かなりの経験者だ。


「ここにしよう」


 迷う理由はなかった。


 翌朝。


 ユウは王都の外れにある鍛冶屋を訪れた。


「働きたい?」


 鍛冶職人が眉を上げる。


「はい」


「十五歳か」


「はい」


「鍛冶の経験は?」


「少しあります」


「少し?」


「昔、やってました」


「また昔か……」


 鍛冶職人は苦笑した。


「まあいい。薪割りと掃除から頼む」


「分かりました」


 ユウは仕事を始めた。


 薪を割る。


 炉を掃除する。


 金属を運ぶ。


 道具を整理する。


 そして――


「それ、温度が高すぎます」


「え?」


 鍛冶職人が顔を上げる。


「今の温度で叩くと、割れます」


「分かるのか?」


「見れば」


 ユウは炉を見る。


 火の色。


 金属の色。


 煙。


 音。


 鍛冶職人だった前世の記憶が、鮮明に蘇る。


「このくらいです」


 火を調整する。


「……」


 鍛冶職人が黙った。


「やってみろ」


「はい」


 ユウは槌を握る。


 金属を炉から取り出す。


 そして――


 カンッ!


 甲高い音が響いた。


 カンッ!


 カンッ!


 打つ場所。


 力。


 角度。


 タイミング。


 全てが正確だった。


「……」


 鍛冶職人は目を見開いた。


「お前、本当に十五歳か?」


「十五歳です」


「鍛冶を始めて何年だ?」


「……覚えてません」


「覚えてない?」


「昔なので」


「便利な言葉だな、お前の『昔』は!」


 昼過ぎ。


 鍛冶屋に一人の客がやって来た。


「剣を見てもらいたい」


 勇者だった。


「…………」


 ユウは手を止めた。


 勇者も止まった。


「…………」


「…………」


 勇者が口を開く。


「……やっぱりいる」


「こんにちは」


「こんにちはじゃない」


 勇者の後ろから女魔法使いも顔を出した。


「あ」


「どうも」


「あなた、ここでも働いてるの?」


「はい」


「王都に戻ったと思ったら鍛冶屋?」


「バイトです」


「でしょうね!」


 女魔法使いが頭を抱えた。


「なんで私たちの行く先に毎回いるのよ……」


「偶然ですよ」


「その偶然、もう何回目?」


「……数えてないです」


 勇者が笑う。


「まあいい。それより、剣を見てくれないか?」


「俺でいいんですか?」


「君がいい」


 勇者は剣を差し出した。


 ユウは受け取る。


 鞘から抜く。


「……」


 一目で分かった。


「これ、かなり傷んでます」


「やっぱりか」


「このまま使い続けると、あと一週間くらいで限界です」


「そんなに?」


「魔王軍の強い魔物と戦うなら、もっと早いです」


 勇者は黙った。


「新しい剣を作ることはできますか?」


 鍛冶職人が尋ねる。


「素材があれば」


「何が必要?」


 ユウは考えた。


「魔鋼」


「魔鋼だと?」


「はい」


 鍛冶職人が首を振る。


「王都でも高級品だ。簡単には手に入らん」


「ありますよ」


 ユウが言った。


「え?」


「倉庫の奥に」


 鍛冶職人が驚く。


「なぜ知ってる?」


「昨日、掃除したので」


「そんなところまで見てたのか……」


 倉庫から魔鋼を運び出す。


 ユウは素材を見る。


「これなら作れます」


「君が?」


「手伝います」


「……」


 鍛冶職人は少し迷った。


 だが、ユウの目を見る。


「分かった」


 炉に火を入れる。


 金属を熱する。


 鍛冶職人が大槌を振る。


 ユウが細かく形を整える。


 何度も熱し、何度も叩く。


 少しずつ剣の形が生まれていく。


 勇者たちは、黙って見ていた。


 そして最後。


 ユウが刃を冷却する。


 ――ジュウウウッ!


 白い蒸気が上がる。


 完成した剣を鞘に収める。


「どうぞ」


 勇者が受け取る。


「……軽い」


「前の剣より少し軽くしました」


「なぜ?」


「あなたの戦い方なら、そのほうが合うと思ったので」


 勇者が剣を抜く。


 一振り。


 二振り。


 風を切る音が響く。


「……すごい」


 女魔法使いが呟いた。


「今まで使っていた剣より、ずっと手に馴染む」


 勇者はユウを見る。


「ありがとう」


「仕事ですから」


「またそれか」


 勇者は笑った。


「君に会うたび、何かが良くなるな」


「そうですか?」


「そうだ」


 その時。


 鍛冶職人が剣を見ながら呟いた。


「……これは、いい剣だ」


「そうですね」


 ユウも頷く。


 だが、その直後。


 鍛冶職人がユウを見た。


「お前、俺の弟子にならないか?」


「え?」


「本気で鍛冶を教えてやる」


「ありがとうございます。でも――」


 ユウは求人票を見る。


「短期バイトなので」


「そこは譲らないのか!」


 女魔法使いが吹き出した。


「本当にブレないわね」


 数日後。


 勇者たちは王都を出発することになった。


 魔王軍の本拠地へ向かうためだ。


「じゃあな」


 勇者が言う。


「はい」


「また会えるかな」


「分かりませんね」


「……君なら会える気がする」


「そうですか?」


「うん」


 勇者たちは馬車に乗り込む。


 そして王都を出ていった。


 ユウは手を振る。


「お気をつけて」


 馬車が小さくなる。


 鍛冶職人が隣に立った。


「お前、本当にあの勇者と知り合いなのか?」


「バイト先で何度か会っただけです」


「……それを世間では知り合いと言うんだ」


「そうなんですか?」


 ユウは首を傾げた。


 その夜。


 鍛冶屋の片隅で、ユウは次の求人票を眺めていた。


「……薬師の手伝い」


 少し考える。


「これも経験あるな」


 紙を剥がす。


「明日からここにしよう」


 こうして――


 勇者が新しい剣を手に入れた裏側で。


 一人の少年は、また次のアルバイトへ向かう。


 そして魔王軍はまだ知らない。


 勇者が手にするその剣が、後に魔王軍幹部の結界を一撃で断ち切ることを。


 もちろん、その剣を作った少年の名前が歴史に残ることもない。


 歴史書には、こう記される。


『勇者は王都にて、名工が鍛えた聖剣を手に入れた』


 ――それだけ。


 ユウ・タナカの名前は、どこにもなかった。

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