↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全前世でモブだった俺、今世も英雄の後ろで暗躍します  作者: まーサンタ
第二部 王都編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/51

第五十歩目 「最初の英雄と、苦戦する勇者たち」


 ――轟音。


 王都から遠く離れた北方の大地が、地面から揺れた。


 巨大な塔が、ゆっくりと地上へせり上がっていく。


 石造りだったはずの塔は、いつしか黒い光に包まれていた。


 その頂上。


 そこに、一人の人影が立っている。


 いや。


 人影と呼ぶには、あまりにも異質だった。


 輪郭は人間に近い。


 頭があり、腕があり、脚がある。


 けれど、その身体は黒い光そのものだった。


 顔には目も鼻もない。


 ただ――胸元に、一つだけ白い光が灯っている。


「…………」


 勇者が剣を構えた。


 女魔法使いが杖を握り直す。


 女冒険者が腰を落とした。


 聖女が静かに祈りを始める。


 そして、パン屋見習いの少年は少女の前に立った。


「……あれが」


 三番目の転生者が呟く。


「最初の英雄」


 その言葉に反応したのか。


 黒い人影が、ゆっくりと顔を上げた。


 声が響いた。


『――英雄』


 低い声だった。


 地面そのものから響いてくるような声。


『英雄とは、何だ』


 勇者が一歩前へ出る。


「俺たちは英雄だ」


『……そうか』


 黒い人影の胸の白い光が、強く輝いた。


『ならば――証明しろ』


「何を?」


『その力が、誰のためにあるのかを』


 次の瞬間。


 空気が爆発した。


「――来るぞ!」


 勇者が叫んだ。


 黒い腕が振り下ろされる。


 ただ、それだけだった。


 なのに。


 地面が砕けた。


 轟音とともに土煙が吹き上がり、巨大な亀裂が走る。


「うわっ!」


 女冒険者が横へ飛んだ。


 その直後、彼女が立っていた場所を黒い衝撃波が薙ぎ払った。


「速い!」


 女魔法使いが杖を振る。


「《炎槍》!」


 十数本の炎の槍が、一斉に飛んだ。


 赤い光が夜空を裂く。


 ――ドドドドドッ!


 全てが黒い身体へ突き刺さった。


「当たった!」


 女冒険者が叫ぶ。


 しかし。


 黒い人影は動かなかった。


『……その程度か』


「嘘でしょ……」


 炎が消える。


 傷は――ない。


 勇者が踏み込んだ。


「なら、直接だ!」


 剣が光を帯びる。


「――せやああああっ!」


 全力の斬撃。


 黒い人影の肩へ、剣が振り下ろされた。


 ――ガァン!


 金属を叩いたような音が響く。


 勇者の身体が弾き飛ばされた。


「勇者!」


 聖女が叫ぶ。


「大丈夫だ!」


 勇者は地面を転がりながらも立ち上がった。


 剣を見る。


 刃が――欠けていた。


「……マジかよ」


 女魔法使いの表情が険しくなる。


「今の一撃で剣が……?」


「防御魔法を使ってる感じじゃない」


 三番目の転生者が分析する。


「身体そのものが、異常に硬い」


『違う』


 最初の英雄が言った。


『硬いのではない』


 黒い腕が上がる。


『お前たちの攻撃が――届いていない』


「……何?」


 黒い光が広がった。


「全員、下がれ!」


 勇者の声と同時に、地面から無数の黒い槍が突き出した。


 ――ズガガガガガッ!


「きゃあっ!」


 女冒険者が跳ぶ。


 女魔法使いが杖を地面へ突き立てる。


「《障壁》!」


 透明な壁が展開される。


 黒い槍が次々とぶつかる。


 ――ドンッ!


 ――ドンッ!


 ――ドンッ!


「くっ……!」


 障壁が大きく歪む。


「まだ……!」


 女魔法使いが魔力を注ぎ込む。


 しかし。


 ――ピシッ。


 亀裂が入った。


「嘘……!」


 ――バリンッ!


 障壁が砕け散った。


 衝撃で全員が吹き飛ばされる。


 勇者が地面を転がる。


 女冒険者が岩壁へ叩きつけられる。


 聖女が膝をつく。


「みんな!」


 パン屋見習いが叫ぶ。


「動くな!」


 勇者が叫び返した。


「お前は少女を守れ!」


「でも!」


「俺たちが時間を稼ぐ!」


 少年は歯を食いしばった。


「……分かった!」


 その瞬間。


 黒い光が少年へ向いた。


『選定者』


 少年が震える。


『お前は、誰を選ぶ』


「……選ばない」


『なに?』


「俺は……」


 少年は少女の手を握った。


「この子を守る」


『英雄を選ばずに?』


「英雄とか関係ない!」


 少年は叫んだ。


「この子は、この子だ!」


 一瞬。


 黒い人影が止まった。


『…………』


 その沈黙を、勇者が利用した。


「今だ!」


 勇者が走る。


 女冒険者も続く。


「行くよ!」


 女魔法使いが詠唱を開始する。


 聖女も祈りを強めた。


「《身体強化》!」


 勇者の身体が光る。


 速度が跳ね上がった。


「――おおおおおっ!」


 正面から斬り込む。


 黒い人影が腕を上げた。


 ――ガキィン!


 剣と腕がぶつかる。


 勇者の足が止まる。


「ぐっ……!」


 押し切れない。


「勇者!」


 女冒険者が横から斬り込む。


 黒い腕が伸びる。


「させるか!」


 女冒険者は身をひねり、紙一重で避ける。


 そのまま懐へ潜り込んだ。


「これなら!」


 短剣が黒い身体へ突き刺さる。


 ――カンッ。


「……え?」


 刃が折れた。


「ちょっと待って!?」


 女冒険者が叫ぶ。


「私の武器なんだけど!?」


 当然ながら、最初の英雄は返事をしない。


 代わりに黒い拳が迫る。


「うわっ!」


 女冒険者が転がって逃げる。


 そこへ――


「《雷撃》!」


 女魔法使いの魔法が直撃した。


 ――バリバリバリッ!


 青白い雷が黒い身体を包み込む。


「今度こそ!」


 しかし。


 雷が黒い身体に吸い込まれていく。


「……吸収した?」


 三番目の転生者が呟く。


 女魔法使いが青ざめた。


「冗談じゃないわよ……」


 黒い光が、さらに膨れ上がる。


『魔法も』


 黒い人影が腕を広げた。


『剣も』


 地面が震える。


『力も』


 勇者たちの周囲に、巨大な黒い魔法陣が展開された。


『全て、過去の英雄たちが使ったものだ』


「……!」


 勇者が息を呑む。


『お前たちが何を選ぼうと』


 黒い光が収束する。


『私は、それを知っている』


「全員、逃げろ!」


 ――ドォォォォンッ!


 大地が吹き飛んだ。


 夜空まで届くほどの爆発。


 勇者たちは、それぞれ別方向へ吹き飛ばされた。


 少女を守っていた少年の前には、聖女が立っていた。


「《聖壁》!」


 光の壁が二人を包む。


 だが。


 ――ミシッ。


「……っ!」


 聖女の顔から余裕が消える。


 壁が押し込まれていく。


「聖女!」


「大丈夫……です……!」


 しかし声は震えていた。


 勇者も立ち上がれない。


 女冒険者は片膝をついたまま動けない。


 女魔法使いは杖を支えにして、荒い息を吐いている。


 三番目の転生者ですら、表情を失っていた。


「……勝てない」


 誰かが呟いた。


 その言葉が、静かな大地に落ちる。


 勇者は拳を握った。


「まだだ」


 立ち上がろうとする。


 膝が震える。


「まだ……終わってない」


 その背後。


 少し離れた場所に――


 ユウが立っていた。


 ずっと。


 本当にずっと。


 そこにいた。


 戦場を見ていた。


 勇者たちの動きを。


 最初の英雄の攻撃を。


 魔法の軌道を。


 地面の亀裂を。


 風向きを。


 黒い光の流れを。


 そして――


「…………」


 ユウは静かに目を細めた。


 何かを思い出したようだった。


 昔の自分。


 何度目かの人生。


 この場所に似た場所。


 そして。


 同じように戦う英雄たち。


 その後ろに立っていた自分。


「……そうか」


 ユウは小さく呟いた。


「この戦いも――」


 手を握る。


「俺は、後ろにいたんだな」


 黒い人影が、ユウを見る。


『……お前は』


 その声だけが、妙に静かだった。


『まだ、後ろにいるのか』


 ユウは答えなかった。


 勇者が立ち上がる。


「ユウ!」


「はい」


「……逃げろ!」


「え?」


「こいつは俺たちが止める!」


 女魔法使いも叫ぶ。


「あなたまで戦ったら、守る人がいなくなる!」


 女冒険者が続く。


「そうだよ! ユウは後ろにいて!」


 聖女も頷いた。


「あなたは……支える人です」


「…………」


 ユウは仲間たちを見た。


 いつもなら。


 ここで頷く。


 武器を直す。


 薬を渡す。


 料理を作る。


 逃走経路を確保する。


 そして、最後まで後ろにいる。


 それが自分の役割だった。


 ――けれど。


 ユウは思った。


 役割だから、後ろにいるのではない。


 自分で選んだから、そこにいる。


 なら。


 自分で選び直してもいい。


 ユウはゆっくりと前へ歩き出した。


「……ユウ?」


 勇者が戸惑う。


 ユウはいつもの穏やかな顔で笑った。


「一つ、訂正します」


「何を?」


「俺は別に――」


 ユウは腰の道具袋を外した。


 地面へ置く。


 次に、上着を脱ぐ。


 袖をまくる。


 勇者たちの顔が固まった。


「……まさか」


 女魔法使いが呟く。


 ユウは前方の黒い人影を見る。


 その目から、いつもの「ただのアルバイト青年」の雰囲気が消えていた。


「俺も戦闘に参加します」


「「「「えっ!?」」」」


 ――北方の夜に。


 勇者たちの、間の抜けた声が響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。