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全前世でモブだった俺、今世も英雄の後ろで暗躍します  作者: まーサンタ
第二部 王都編

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第五十一歩目 「全前世、総動員」


「俺も戦闘に参加します」


「「「「えっ!?」」」」


 北方の大地に、四人分の声が響いた。


 最初の英雄だけが、静かにユウを見つめている。


『……お前が、前に出るのか』


「ええ」


 ユウは肩を回した。


「たまには」


 勇者が目を見開く。


「たまにはって……お前、今まで一度もまともに戦ってないだろ!」


「そうでしたっけ?」


「そうだよ!」


 女魔法使いも慌てて叫ぶ。


「ちょっと待ちなさい! 相手は私たちの攻撃がほとんど通らない化け物なのよ!?」


「知ってます」


「なら、なんでそんな平然としてるのよ!」


「戦い方を変えればいいので」


「簡単に言わないで!」


 ユウは笑った。


「大丈夫です」


「何が!?」


「俺、こういうの――」


 腰を落とす。


「結構、得意なので」


 次の瞬間。


 ユウの姿が消えた。


「――っ!?」


 勇者たちが目を見開く。


 黒い英雄の背後。


 そこへユウがいた。


 手には短い木の棒。


「……え?」


 勇者が呆然とする。


「木の棒?」


「ええ」


 ユウはそのまま振り下ろした。


 ――ガンッ!


 黒い身体に直撃。


 しかし。


『…………』


 傷一つつかない。


「やっぱり駄目ですか」


「当たり前でしょ!」


 女魔法使いが叫ぶ。


「何を期待してたのよ!」


「昔、木こりをしていた頃の自分なら、もう少し上手くいったんですが」


「そこ!?」


 黒い英雄の腕が動く。


「ユウ!」


 勇者が叫んだ。


 拳が迫る。


 ユウは一歩だけ後ろへ下がった。


 拳が目の前を通過する。


 ――ズドン!


 背後の岩山が砕け散った。


「…………」


 勇者が固まる。


「今の……避けた?」


「はい」


「どうやって!?」


「狩人だった頃の感覚です」


「前世のスキルを普通に使うな!」


 ツッコミが飛ぶ。


 しかしユウはすでに走り出していた。


「女魔法使いさん!」


「え?」


「右へ三歩!」


「三歩?」


「今です!」


「――っ!」


 女魔法使いが反射的に右へ移動する。


 その直後。


 黒い光線が彼女のいた場所を貫いた。


「……!」


「そこから上!」


 女魔法使いが杖を振り上げる。


「《氷槍》!」


 無数の氷の槍が空中から降り注いだ。


 ――ズガガガガッ!


 黒い英雄の身体に次々と突き刺さる。


 だが。


 やはり傷はない。


「駄目!」


「では、次です!」


「次!?」


 ユウは地面に転がっていた石を拾った。


 それを軽く投げる。


 ――カンッ。


 黒い英雄の足元へ転がった。


「……?」


 勇者が首を傾げる。


 すると。


「勇者さん!」


「おう!」


「今!」


 勇者が走った。


 黒い英雄が足元の石を踏む。


 ――ズルッ。


「……!」


 ほんの一瞬。


 身体が傾いた。


「そこだああああっ!」


 勇者が斬り込む。


 ――ガァン!


 剣が黒い身体へ叩き込まれた。


 今度は――


 ほんのわずかに。


 黒い光が揺らいだ。


「効いた!?」


 勇者が叫ぶ。


「完全には効いてません!」


 ユウが答える。


「でも、反応はありました!」


「それだけでも十分だ!」


 勇者がさらに踏み込む。


 黒い英雄が腕を振る。


 ユウが横から叫ぶ。


「左!」


 勇者が左へ跳ぶ。


「次、しゃがんで!」


「こうか!」


 黒い腕が頭上を通過する。


「そのまま前!」


「おおおおっ!」


 勇者が懐へ入った。


「今度こそ!」


 斬撃。


 ――ガキィン!


 再び黒い光が弾ける。


「まだ浅い!」


 ユウが叫ぶ。


「もっと深く!」


「分かってる!」


 勇者は剣を返した。


 しかし。


 黒い英雄の胸から衝撃波が放たれる。


「――っ!」


「勇者!」


 ユウが走る。


 勇者の背中を掴み、そのまま横へ投げ飛ばした。


 直後。


 ――ドォォォン!


 地面が吹き飛ぶ。


「ユウ!」


「大丈夫です」


 ユウは地面を転がりながら立ち上がった。


「ちょっと服が汚れただけです」


「そういう問題じゃない!」


 女冒険者が叫ぶ。


「あなた、今、勇者を投げ飛ばしたよね!?」


「はい」


「人間ってあんなに飛ぶ!?」


「昔、運搬の仕事をしていたので」


「関係ある!?」


 ユウは答えず、今度は女冒険者を見る。


「女冒険者さん!」


「何!?」


「その剣、貸してください!」


「え?」


 ユウが手を伸ばす。


 女冒険者が反射的に剣を渡した。


 ユウは刃を見た。


「……やっぱり重心が悪いですね」


「今それ言う!?」


「少し借ります」


 ユウは剣を握り直した。


 そして――


 くるり。


 柄を逆に持つ。


「何してるの?」


「前に剣を扱っていた頃の癖です」


「……前世?」


「はい」


 ユウは黒い英雄へ向かって走った。


 その動きは、さっきまでとは明らかに違った。


 低い。


 速い。


 無駄がない。


 黒い腕を紙一重で避ける。


 身体を回転させる。


 足元を狙って斬る。


 ――ギィン!


 硬い。


 ならば逆方向。


 黒い光の流れを見て、そこへ刃を滑らせる。


 ――バチィッ!


「……!」


 黒い英雄が初めて一歩下がった。


「下がった!?」


 女魔法使いが叫ぶ。


「今の攻撃……」


 三番目の転生者が目を細める。


「力任せじゃない。構造を読んだのか」


「昔の自分が、剣を使っていた時の経験です」


 ユウは剣を返す。


「ただ――」


 黒い英雄を見る。


「これだけでは足りない」


『…………』


 最初の英雄の胸の白い光が強く輝く。


 次の瞬間。


 黒い身体から無数の腕が生えた。


「なっ……!」


 勇者が息を呑む。


「腕が増えた!?」


『――支援する者よ』


 最初の英雄の声が響く。


『お前の力を、全て見せろ』


 黒い腕が一斉に伸びた。


「全員、散って!」


 ユウが叫ぶ。


 勇者が右へ。


 女冒険者が左へ。


 女魔法使いが後方へ。


 聖女が少年と少女を守る。


 ユウは中央へ残った。


 無数の攻撃。


 拳。


 刃。


 光。


 衝撃波。


 黒い槍。


 それら全てを、ユウは避け続ける。


 一歩。


 半歩。


 身体を捻る。


 跳ぶ。


 伏せる。


 地面を転がる。


 立ち上がる。


 そして――


「勇者さん、右!」


「おう!」


「女魔法使いさん、今!」


「《雷撃》!」


「女冒険者さん、三秒後!」


「三秒って――」


「今です!」


「早いよ!」


 雷撃が炸裂。


 その隙に女冒険者が突っ込む。


 勇者が反対側から斬る。


 ユウは二人の攻撃が重ならないよう、黒い英雄の動きを誘導する。


「そこ!」


 女魔法使いの魔法。


「そこだ!」


 勇者の剣。


「えいっ!」


 女冒険者の一撃。


 ――ドォン!


 ――バキィン!


 ――ズガァン!


 連続攻撃が黒い英雄へ叩き込まれる。


 黒い光が大きく揺れる。


「いける!」


 勇者が叫んだ。


「いけるぞ!」


「まだです!」


 ユウが叫ぶ。


「――来ます!」


 黒い英雄の胸の白い光が、限界まで輝いた。


「全員、防御!」


 ――瞬間。


 世界が白くなった。


 爆発。


 大地が大きくえぐれる。


 勇者たちは吹き飛ばされた。


「ぐあっ!」


「きゃあっ!」


「くっ……!」


 聖女の結界が軋む。


 ユウも地面を転がった。


 しばらく。


 誰も動かなかった。


 やがて。


 勇者が顔を上げる。


「……倒せたか?」


 土煙の向こう。


 黒い人影が立っていた。


 無傷。


「…………」


 女魔法使いが呆然とする。


「……嘘」


 女冒険者も息を呑む。


「全部、効いてない……?」


 三番目の転生者が首を振った。


「違う」


「え?」


「確かに効いている」


 彼は黒い英雄を見る。


「だが――」


 黒い光が再び集まり始めていた。


「傷が、再生している」


 勇者が剣を握り直す。


 しかし、その腕は震えていた。


「……まだ戦える」


 女魔法使いも杖を構える。


「私も」


 女冒険者が立ち上がる。


「もちろん」


 聖女も少年と少女を守りながら立った。


「まだ終わっていません」


 ユウは彼らを見る。


 そして。


 少しだけ笑った。


「そうですね」


 自分の手を見る。


 狩人の経験。


 剣を振るった記憶。


 魔法を学んだ日々。


 魚を捕った人生。


 穴を掘った日々。


 商売をしていた頃。


 料理を覚えた人生。


 誰かを支えるために働いた、数え切れない時間。


 全部、自分だった。


 全部、自分が積み重ねてきたものだった。


 その全てを使っても。


 ――まだ、届かない。


「……なるほど」


 ユウは黒い英雄を見る。


「これは、かなり大変ですね」


 勇者が苦笑した。


「今さら!?」


「はい」


 ユウは再び前を向いた。


 黒い英雄が歩き出す。


 一歩。


 また一歩。


 大地が震える。


 まだ終わらない。


 全前世の経験を総動員しても。


 勇者たちを支えながら戦っても。


 最初の英雄は、倒れない。


 むしろ――


 その力は、さらに膨れ上がっていた。


 ユウは剣を握り直す。


「……まだ、足りないか」


 その呟きに。


 黒い英雄の胸の白い光が、静かに輝いた。


『――そうだ』


 声が響く。


『まだ、足りない』


 そして。


 第二の戦いが始まった。

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