↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全前世でモブだった俺、今世も英雄の後ろで暗躍します  作者: まーサンタ
第二部 王都編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
48/53

第四十八歩目 「目覚めたものと、一本につながる記憶」


 ――ドォンッ!


 地下施設が揺れた。


「走れ!」


 勇者の声が響く。


 全員が地下道を駆け抜けていく。


 頭上から石が落ちる。


 壁には亀裂が走り、古い魔法装置が次々と停止していた。


「ちょっと待って!」


 女魔法使いが叫ぶ。


「この地下道、崩れるわよ!」


「見れば分かる!」


 勇者が叫び返す。


「じゃあもっと早く!」


「無茶言うな!」


 女冒険者が少女を支えながら走る。


「この子、軽すぎない!?」


「三百年寝てたからじゃない?」


「寝てた年数で体重は変わらないでしょ!」


 そんなやり取りの後ろ。


 ユウは一人、壁を見ながら走っていた。


「……」


 何かを探している。


「ユウ!」


 勇者が振り返る。


「何してる!」


「出口を探してます」


「出口なら前!」


「それは普通の出口です」


「他にあるのか!?」


「あります」


「なんで知ってる!?」


 ユウは少し考えた。


「……昔、使ったことがあるから」


「昔っていつだよ!」


「分かりません」


「分からないのかよ!」


 ユウは足を止めた。


 目の前に。


 崩れた壁があった。


「ここです」


「壁じゃん!」


 女冒険者が叫ぶ。


「出口です」


「どう見ても壁!」


 ユウは壁を撫でた。


 指先で。


 小さく叩く。


 コン。


 コン。


 コン。


 そして。


「やっぱり」


 ユウがしゃがみ込む。


「中が空洞です」


「……」


 女魔法使いが目を細める。


「どうやって分かったの?」


「音です」


「そんな簡単に?」


「昔、地下道を掘っていたので」


「また前世!?」


 勇者が頭を抱える。


「お前、何回前世の話をするんだよ!」


「何回って……」


 ユウは少し困った顔をした。


「全部、自分の記憶なので」


 その言葉に。


 三番目の転生者が、わずかに目を細めた。


 ユウはそれに気づかない。


 懐から小さな道具を取り出す。


 金属製の棒。


 それを壁の隙間に差し込んだ。


「少し離れてください」


「何する気?」


「開けます」


「どうやって?」


「普通に」


 グッ。


 ユウが力を込めた。


 ギギギギ――。


 壁が横へ動いた。


「…………」


 全員が沈黙する。


 そこには。


 人一人が通れる程度の細い通路があった。


「……本当にあった」


 女冒険者が呟く。


「だから言ったでしょう」


「いや、そういう問題じゃない」


 勇者が突っ込む。


「なんで壁の中に隠し通路があるんだよ!」


「昔の俺が作ったからです」


「…………」


「またそれか!」


 女魔法使いのツッコミが地下道に響いた。


 全員が隠し通路へ入る。


 最後にユウが入った瞬間。


 背後で。


 ズズズズズ……。


 地下道が崩れた。


「危なっ!」


 女冒険者が叫ぶ。


「助かった……」


 勇者が息を吐く。


 しかし。


 三番目の転生者だけは黙っていた。


 隠し通路の壁を見つめている。


「……この道」


「知ってる?」


 ユウが聞く。


「いや」


 少し間を置いて。


「知らない」


 そう答えた。


 だが。


 その表情は明らかにおかしい。


 ユウは追及しなかった。


 代わりに。


 前を歩く少女を見る。


 少女は何も言わず。


 ただ。


 パン屋見習いの手を握っていた。


「……仲良いですね」


 ユウが言う。


「昔から知っているから」


 少女が答えた。


「本当に?」


 少年が聞く。


「うん」


「俺は覚えてない」


「覚えていなくてもいい」


「……なんで?」


「あなたは、あなただから」


 少年は少し困った顔をした。


「なんか難しいな」


「そういうものです」


 ユウが口を挟む。


「分からないことは、分からないままでいいんですよ」


「ユウが言うと説得力ないな」


 勇者が呟く。


「本人が一番いろいろ分かってないからな」


「ひどい」


 少しだけ。


 笑いが起きた。


 その直後だった。


「……!」


 少女が立ち止まった。


「どうした?」


 聖女が聞く。


「来る」


「また何か?」


「違う」


 少女は後ろを振り返る。


「追ってきている」


 女魔法使いが魔力を探る。


「……複数いる」


「英雄管理局?」


「たぶん」


 勇者が剣を抜いた。


「なら、迎え撃つ」


「待って」


 ユウが止める。


「この道は戦う場所じゃないです」


「じゃあどうする?」


「逃げます」


「……」


 勇者が目を丸くした。


「珍しいな」


「何が?」


「お前、いつも戦う前に何とかするだろ」


「今回は逃げる方が早いので」


 ユウは壁を見た。


「それに、この道は――」


 指を差す。


「あと三百メートルで地上です」


「なんで分かる!?」


「地面の傾斜です」


「お前、地下でも地図なしで歩けるのか!?」


「昔、暗闇で何日か暮らしていたので」


「だからどんな前世だよ!」


 ユウは走りながら、ふと笑った。


 ――昔。


 確かに。


 そんな人生があった。


 暗い地下で。


 土を掘り。


 水脈を探し。


 仲間のために道を作った。


 その前は。


 魔法を学んでいた。


 その前は。


 剣を握っていた。


 その前は。


 海に出ていた。


 森を歩いたこともある。


 商売をしていたこともある。


 どの人生も。


 ユウにとっては別人の記憶ではない。


 全部。


 自分自身の記憶だった。


 何度生まれ変わっても。


 名前も。


 姿も。


 立場も。


 暮らしも変わった。


 けれど。


 そのたびに。


 誰かを助けるために、自分にできることを探していた。


 それだけは変わらなかった。


 ――そして。


 ユウは、ふと気づいた。


「……あれ?」


 足が止まりかける。


「どうした?」


 勇者が振り返る。


「いや……」


 ユウは眉を寄せた。


 自分の記憶は。


 全部ある。


 奴隷だった人生も。


 大賢者の弟子だった人生も。


 剣聖の家にいた人生も。


 漁師だった人生も。


 狩人だった人生も。


 商人だった人生も。


 そのほかにも。


 数え切れないほどの人生がある。


 全部覚えている。


 なのに。


 ――この施設だけ。


 妙におかしい。


「……俺」


 ユウは小さく呟いた。


「ここに来たことがある」


 女魔法使いが振り返る。


「また前世?」


「そう」


「いつの?」


「分からない」


 ユウは首を振る。


「でも……おかしい」


「何が?」


「俺の記憶に、空白がある」


 全員が黙った。


 三番目の転生者が顔を上げる。


「……やっぱりか」


「知ってるんですか?」


「ああ」


 三番目の転生者は苦しそうに答えた。


「お前は記憶を失っているんじゃない」


「……」


「そこだけ切り取られている」


 ユウは目を見開いた。


「そんなことが?」


「英雄管理局には、記憶を操作する技術があった」


 女魔法使いが険しい顔をする。


「じゃあユウの記憶も?」


「全部じゃない」


 三番目の転生者は首を振る。


「全部消したら、本人の人格そのものが壊れる」


「なら、何を?」


「管理局に関係する記憶だけだ」


 ユウは黙った。


 すると。


 頭の奥で。


 何かが繋がった。


 地下室。


 少女。


 パンの匂い。


 白い炎。


 古い机。


 そして。


 自分。


 全部が。


 一本の線になる。


「……そうか」


 ユウが呟く。


「俺はここにいた」


「何をしていたの?」


 聖女が尋ねる。


「英雄を作る仕事じゃない」


 ユウはゆっくり答えた。


「英雄を……支える仕事だ」


 さらに。


 記憶が蘇る。


 自分が掘った地下道。


 自分が修理した魔法装置。


 自分が運んだ食料。


 自分が調合した薬。


 自分が作った武器。


 自分が記した地図。


 そして。


 何度も。


 英雄たちの後ろを歩いていた。


 ユウは苦笑した。


「……結局」


 その声は少しだけ寂しかった。


「昔から、俺は俺だったんだな」


 勇者が笑う。


「何を今さら」


「え?」


「お前は昔から、今みたいな奴だったんだろ」


「……」


「だったら、それでいいじゃないか」


 ユウは勇者を見る。


 少しだけ。


 笑った。


「そうですね」


 その瞬間。


 少年の手のひらで。


 白い炎が灯った。


「ユウ」


「はい?」


「この子が……」


 少女の身体から。


 淡い光が溢れていた。


 少女の胸元の紋章と。


 少年の白い炎が重なっていく。


 ――ゴォッ!


 白い炎が一気に膨れ上がった。


 だが。


 熱くない。


 むしろ。


 周囲の崩れかけた壁が、光に触れた瞬間だけ安定していく。


「……修復?」


 女魔法使いが呟く。


「違う」


 三番目の転生者が答えた。


「これは――」


 少年が驚く。


「俺、何もしてない」


「それでいい」


 少女が言った。


「選定者の力は、戦うためだけじゃない」


「じゃあ何のため?」


「可能性を選ぶため」


「可能性?」


 少女が頷く。


「壊れる未来」


「助かる未来」


「失う未来」


「残る未来」


「その中から――」


 少女は少年を見る。


「一つを選ぶ」


 ユウは、その言葉を聞いて。


 また一つ。


 古い記憶を思い出した。


 ――地下室。


 まだ幼い少女。


 少年。


 そして。


 若い頃の自分。


『未来は一つじゃない』


 誰かが言った。


『なら、俺は選ばなくていい』


 昔の自分が答えた。


『どうして?』


『だって――』


 自分は笑っていた。


『誰かが選んだ未来を、ちゃんと支える人も必要だから』


 記憶が途切れる。


 しかし。


 今度は。


 何も欠けていなかった。


 ユウは全部を理解した。


 これは。


 今まで何度も繰り返してきた自分の生き方だった。


 英雄になることではない。


 英雄を選ぶことでもない。


 英雄を作ることでもない。


 ただ。


 誰かが選んだ道を。


 最後まで支える。


「……俺は」


 ユウが静かに笑った。


「昔から、モブだったんですね」


「そこでそれ言う!?」


 女魔法使いが叫ぶ。


「いや、いいじゃないですか」


「よくない!」


 勇者も苦笑する。


「お前、もっと自分を評価しろよ」


「でも」


 ユウは前を見る。


「モブの方が、動きやすいので」


「開き直った!」


 女冒険者が笑った。


「でもユウらしい」


 聖女も微笑む。


「そうですね」


 三番目の転生者だけが。


 何も言わなかった。


 ただ。


 ユウを見る目が変わっていた。


 そして。


「出口です」


 ユウが言った。


 目の前に。


 光が見える。


 全員が走る。


 地上へ飛び出した。


 そこは。


 北の町の外れにある森だった。


 夜空が広がっている。


「……出た」


 女冒険者がその場に座り込む。


「助かった……」


 勇者も息を整える。


「全員いるか?」


 女魔法使い。


 聖女。


 三番目の転生者。


 パン屋見習い。


 少女。


 そして。


 ユウ。


「全員います」


 ユウが答えた。


 しかし。


 その瞬間。


 ――ゴゴゴゴゴ……。


 背後の地下施設が大きく揺れた。


 北の町の中心。


 巨大な塔が。


 地面からゆっくりと姿を現した。


「……あれは?」


 勇者が見上げる。


 少女が答えた。


「地下施設の中心部」


「まだ残ってたのか」


「違う」


 少女は首を振る。


「あれは――」


 塔の頂上。


 黒い光が集まっていく。


「目覚めたものの、器」


「……器?」


 ユウが呟いた。


 その瞬間。


 塔の上から。


 一つの声が響いた。


『――見つけた』


 ユウの背筋が凍った。


 その声を。


 今度は。


 はっきりと覚えていた。


 忘れていたわけではない。


 封じられていただけだった。


 遠い昔。


 何度も生まれ変わる前の――


 その人生ではなく。


 何度もの人生を繋ぐ、その途中で出会った誰か。


『やっと見つけた』


 ユウは空を見上げた。


「……俺を?」


 黒い光が。


 ゆっくりと人の形を作っていく。


 その顔はまだ見えない。


 しかし。


 ユウには分かった。


 あれは。


 最初から敵だったわけではない。


 むしろ。


 かつての自分が。


 何度も支えた存在だった。


 そして。


 三番目の転生者が震える声で呟いた。


「……あれは」


「知ってるのか?」


 勇者が聞く。


「ああ」


 三番目の転生者は答えた。


「英雄管理局が、最後まで完成させられなかった――」


 一拍。


「最初の英雄だ」


 黒い影が。


 ゆっくりと笑った。


 ユウは。


 もう一つだけ思い出していた。


 かつて。


 その英雄に言った言葉を。


『英雄になれなくてもいい』


『誰かに選ばれなくてもいい』


『自分で選んだ道なら――』


 そして。


 最後に。


 自分はこう言った。


『その道の後ろは、俺が守る』


 ユウは。


 夜空を見上げる。


「……そういう約束だったか」


 黒い影が。


 こちらへ手を伸ばした。


 長い長い前世の記憶が。


 今。


 一本の物語として。


 繋がり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。