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全前世でモブだった俺、今世も英雄の後ろで暗躍します  作者: まーサンタ
モブバイト編

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39/51

第三十九歩目 「王都行きの荷物係と、三番目の転生者」


 聖域を出た翌朝。


 ユウは街道沿いの小さな町にいた。


 理由は――


「採用です」


「ありがとうございます」


 バイトが決まったからである。


「……」


 勇者が無言でユウを見る。


「何ですか?」


「いや」


 勇者はため息をついた。


「昨日まで世界の命運を左右する話をしていたよな?」


「しましたね」


「それで今日は?」


「荷物係です」


「切り替えが早すぎる!」


 女冒険者が笑う。


「でも、王都へ戻れるんでしょ?」


「はい」


 ユウは荷馬車を見た。


「しかも、王都まで食事付きです」


「そこ重要?」


「かなり重要です」


 女魔法使いが呆れた顔をする。


「本当にあなたって……」


 聖女は微笑んだ。


「でも、いいと思います」


「何がです?」


「昨日、自分の人生を自分で決めると言ったばかりですから」


 ユウは少し考える。


「……確かに」


 そして。


「では、働いてきます」


「私たちも一緒だから!」


 勇者のツッコミが飛んだ。


⸻


1 王都へ向かう荷馬車


 荷馬車には、五人とリナ。


 そして大量の荷物。


 依頼主は、恰幅のいい商人だった。


「いやあ、助かりますよ!」


「荷物の中身は?」


 ユウが尋ねる。


「日用品です」


「全部?」


「全部です」


 ユウが一つ箱を開ける。


「……これは?」


「鍋です」


「こっちは?」


「布です」


「これは?」


「調味料」


 ユウは頷く。


「積み方を変えましょう」


「え?」


「このままだと途中で崩れます」


「分かるんですか?」


「商人だった前世があります」


「また……」


 女冒険者が呟く。


 ユウは荷物を全て降ろし。


 重さと大きさを確認しながら積み直していく。


 十分後。


「終わりました」


「……」


 商人が荷台を見る。


「すごい」


 荷物がぴったり収まっている。


「これなら揺れても崩れません」


「あなた、本当に荷物係ですか?」


「はい」


「何か他の仕事をしていたことは?」


「色々あります」


 商人が苦笑する。


「聞かないことにします」


⸻


2 妙な乗客


 昼過ぎ。


 途中の村で、一人の青年が荷馬車に乗ってきた。


「王都までお願いします」


 商人が頷く。


「いいですよ」


 青年は荷台の隅に座った。


 黒い髪。


 普通の服。


 特に目立つところはない。


 ユウは一目見て。


「……」


 妙な感覚を覚えた。


 懐かしい。


 だが。


 これまでの前世とは違う。


「どうしました?」


 青年が尋ねる。


「いえ」


 ユウは首を振る。


「初対面ですよね?」


「はい」


「そうですか」


 青年は笑った。


「僕も、そう思います」


 その言葉に。


 ユウは少しだけ引っかかった。


⸻


3 荷物係の仕事


 街道を進む。


 しばらくすると。


 馬車が止まった。


「どうした?」


 勇者が降りる。


 車輪が壊れていた。


「……」


 商人が青ざめる。


「王都まで間に合わない」


 ユウは車輪を見る。


「修理できます」


「え?」


「木材があれば」


 勇者が呆れる。


「また始まった」


 ユウは近くの森へ入り。


 木を一本切る。


「何でそんなに早いの?」


 女魔法使いが聞く。


「木こりだったこともあります」


「……」


 女冒険者が笑う。


「もう驚かないよ」


 ユウは木材を削り。


 壊れた車輪を補修する。


 一時間後。


「これで大丈夫です」


 商人が車輪を動かす。


「本当に直ってる……」


 ユウは手を払う。


「では行きましょう」


 青年がそれを見ていた。


「すごいですね」


「ありがとうございます」


「でも」


 青年は笑う。


「あなた、やっぱり変わってない」


「……」


 ユウの動きが止まる。


「何がです?」


「何でもありません」


 青年は外を見た。


⸻


4 夜の宿場町


 その夜。


 宿場町に泊まることになった。


 商人が宿を取る。


「二部屋しか空いてないそうです」


「五人と一人……」


 勇者が頭を抱える。


 ユウは宿帳を見る。


「大丈夫です」


「何が?」


「僕、宿直のバイトもできます」


「今それ関係ない!」


 宿屋の女主人が笑う。


「働きたいなら、夜の見回りを頼めるよ」


「お願いします」


「本当にやるの!?」


 ユウは宿の裏口から外へ出た。


 その後ろを。


 青年が追ってきた。


「手伝います」


「ありがとうございます」


「一人だと危ないので」


 ユウは青年を見る。


「あなたも冒険者ですか?」


「違います」


「商人?」


「違います」


「旅人?」


「それも違います」


「では?」


 青年は少し考えて。


「……昔の知り合いを探しています」


 ユウの胸がざわついた。


「誰ですか?」


「名前はありません」


「……」


「ただ」


 青年は言った。


「何度も生まれ変わっている人です」


 ユウの足が止まった。


⸻


5 三番目


「あなたは」


 ユウが静かに尋ねる。


「転生者ですか?」


 青年は答えなかった。


 代わりに。


「あなたは何回、生きました?」


「……」


「百回?」


「そんなには」


「五十?」


「数えたことはありません」


「では」


 青年は振り返る。


「覚えているんですね」


 ユウは頷く。


「はい」


「全部?」


「全部」


 青年は目を細めた。


「やっぱり」


 その瞬間。


 青年の周囲に。


 薄い魔力が広がった。


 ユウはすぐに理解した。


「……あなたも」


「はい」


 青年は笑った。


「転生者です」


「何番目?」


「三番目」


 ユウの目が見開かれる。


「……」


「二番目には、もう会いましたか?」


「はい」


「そうですか」


 青年は少し寂しそうに笑った。


「では、僕が最後ですね」


「最後?」


「三番目で終わりです」


 ユウは首を傾げる。


「どういう意味ですか?」


 青年は答えた。


「転生の計画は」


 一拍。


「三人で完成するように作られていたんです」


⸻


6 三人の役割


「三人?」


「はい」


 青年は説明する。


「初代――あなた」


「二代目――あの少年」


「そして三代目――僕」


「それぞれ役割があった」


 ユウは尋ねる。


「俺は?」


「記憶」


「二番目は?」


「力」


「じゃあ、あなたは?」


 青年は。


 胸元を指した。


「感情」


「……」


「あなたは記憶を集めた」


「二番目は力を集めた」


「僕は」


 少し笑う。


「人の心を集める役目です」


 ユウは理解できない。


「どういうことですか?」


「簡単ですよ」


 青年は言った。


「僕は、他人の感情を理解できます」


「……」


「怒りも」


「悲しみも」


「恐怖も」


「喜びも」


 青年はユウを見る。


「そして」


 笑った。


「あなたが今、何を考えているかも」


 ユウの表情が変わる。


「……何を考えてるんですか?」


「僕が敵かどうか」


「……」


「違いますか?」


 ユウは答えなかった。


⸻


7 リナの感情


 青年が宿へ戻ろうとした時。


 リナが一人で外に出てきた。


「ユウさん」


「どうしました?」


「眠れなくて」


 青年を見る。


「……」


 青年もリナを見る。


 そして。


「あなたも、長く待ったんですね」


 リナが驚く。


「どうして?」


「寂しかったでしょう」


「……」


 リナの表情が変わる。


「ずっと」


 青年は静かに言う。


「一人で待っていた」


「……はい」


「帰ってくるかも分からない人を」


 リナの目に涙が浮かぶ。


 ユウが青年を見る。


「やめてください」


「何を?」


「そこまで言わなくていい」


 青年は黙った。


「人の心を勝手に読むのは」


 ユウは言う。


「良いことじゃありません」


 青年は少し笑う。


「そうですね」


 そして。


「だから僕は」


 夜空を見る。


「感情が嫌いなんです」


⸻


8 王都からの追手


 その夜。


 遠くから馬の音が聞こえた。


 宿屋の女主人が窓から外を見る。


「騎士団だ」


 勇者が立ち上がる。


「追手か?」


 ユウが外を見る。


 旗が見える。


「王国軍です」


 女魔法使いが杖を握る。


「どうする?」


 勇者が剣を抜く。


「迎え撃つ」


「待ってください」


 ユウが言う。


「この宿には他の客もいます」


「じゃあ?」


「裏口から逃げましょう」


「でも――」


「荷馬車があります」


 商人が驚く。


「まさか」


「王都へ行く予定でしたよね?」


「はい」


「なら、そのまま行きましょう」


 ユウは荷台を見る。


「王国軍が宿へ来るなら、街道は空く」


 女冒険者が笑う。


「なるほど」


 聖女が頷く。


「行きましょう」


 全員が荷馬車へ乗り込む。


 青年も。


 リナも。


 ユウが御者席へ座る。


「行きます」


「待て!」


 勇者が叫ぶ。


「お前、馬車も操れるのか?」


「御者だった前世があります」


「もう驚かないぞ!」


⸻


9 追跡


 荷馬車が夜道を走る。


 後ろから騎士たちが追ってくる。


「来た!」


 女冒険者が叫ぶ。


 矢が飛ぶ。


 聖女が結界を張る。


「大丈夫です!」


 女魔法使いが魔法を放つ。


 道が煙に包まれる。


 追手が見失う。


「今です!」


 ユウが馬車を脇道へ入れる。


 だが。


 そこには崖。


「……」


 勇者が青ざめる。


「ユウ」


「はい」


「この道、大丈夫か?」


「たぶん」


「たぶん!?」


 ユウは笑う。


「前世でここを通ったことがあります」


「なら安心――」


「崖崩れも起きました」


「全然安心できない!」


 その瞬間。


 ――ゴゴゴゴゴ……。


 崖の上から岩が落ちてくる。


「来た!」


 女魔法使いが叫ぶ。


 ユウは即座に馬車を止めた。


 岩が目の前を塞ぐ。


 完全に道が閉じた。


「……」


 全員が沈黙。


 ユウは降りる。


「掘ります」


「また!?」


 ユウは荷台からスコップを取り出した。


「こんなこともあろうかと」


 勇者が空を見上げる。


「なんで持ってるんだよ……」


⸻


10 三番目の転生者


 ユウが岩をどかしている間。


 青年は一人。


 暗闇を見つめていた。


 そこへ。


 黒い影が現れる。


「三番目」


 影が呼ぶ。


 青年は振り返らない。


「……来たんですね」


「初代を連れて来い」


「嫌です」


「お前の役割を忘れたか」


「覚えています」


 青年は静かに答える。


「でも」


「……」


「僕はもう、あの人たちの感情を知ってしまった」


 影が沈黙する。


「勇者の覚悟も」


「魔法使いの不安も」


「冒険者の友情も」


「聖女の祈りも」


 そして。


「リナの三百年分の寂しさも」


 青年は笑う。


「そんなものを知ってしまったら」


 振り返る。


「世界を壊せなんて言われても」


「もう、できませんよ」


 影が消える。


 青年は。


 ユウを見る。


 懸命に岩を動かしている。


「……」


 青年は小さく呟いた。


「初代」


「あなたは」


「本当に、人を救うつもりがなかったんですね」


 少し笑う。


「だからこそ」


「人を救えたんだ」


⸻


11 王都へ


 夜明け。


 ようやく街道が開ける。


 荷馬車は再び王都へ向かった。


 ユウは御者席で欠伸をする。


「眠いです」


 勇者が後ろから声をかける。


「寝るなよ」


「分かっています」


「王都に着いたらどうする?」


「バイトの給料を受け取ります」


「そこから!?」


 女冒険者が笑う。


「私は好きだよ」


「何が?」


「こういうところ」


 女魔法使いも頷く。


「世界の命運がどうとか言っても」


 聖女が続ける。


「お腹は空きますからね」


 リナが笑う。


 青年も。


 少しだけ笑った。


 その時。


 王都の城壁が見えてきた。


 だが。


 城門の前には。


 大量の兵士が並んでいる。


「……」


 勇者が剣に手をかける。


 ユウも馬車を止めた。


 兵士たちの中央。


 一人の人物が立っている。


 国王ではない。


 騎士団長でもない。


 王宮の人間ですらない。


 白い法衣。


 胸には聖印。


 そして。


 その顔を見た瞬間。


 聖女が凍りついた。


「……そんな」


 ユウが振り返る。


「知っているんですか?」


 聖女は震える声で答えた。


「はい」


 そして。


「三百年前」


 その人物を指す。


「私たちを裏切った人です」


 法衣の男が笑った。


「お久しぶりです」


 そして。


「英雄の皆さん」


 男の視線がユウへ移る。


「そして――」


 その目が細くなる。


「初代転生者。」


 王都の鐘が鳴った。


 ――ゴォォォン。


 今度の鐘は。


 歓迎の鐘ではなかった。


 戦争の再開を告げる鐘だった。

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