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全前世でモブだった俺、今世も英雄の後ろで暗躍します  作者: まーサンタ
モブバイト編

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第三十六歩目 「聖域への道と、少女の護衛バイト」


 魔王城を出て三日。


 五人は、古い街道を歩いていた。


 目指すのは――聖域。


 三百年前、戦争の真実を知る者たちが最後に証拠を隠した場所。


 勇者が地図を広げる。


「あと半日くらいだな」


「そうですね」


 ユウが頷く。


「道も悪くありません」


「……」


 女冒険者がユウを見る。


「なんで道の状態まで分かるの?」


「昔、行商人だったので」


「そうだった」


「それと、狩人だった前世で――」


「もういい」


 勇者が手を上げる。


「聞いたら長くなる」


「まだありますけど」


「聞かない」


 女魔法使いが笑う。


「でも便利よね」


「何がです?」


「あなた」


「……」


 ユウは少し困った顔をした。


「便利って言われると、複雑です」


「どうして?」


「前世でも、便利屋みたいな扱いが多かったので」


 四人が黙る。


 ユウは笑った。


「まあ、嫌ではありませんでしたけど」


 その時。


 街道の先から。


 小さな悲鳴が聞こえた。


「助けて!」


 勇者が剣を抜く。


「行くぞ!」


 五人が走る。


⸻


1 襲われた馬車


 街道の脇。


 一台の馬車が倒れていた。


 その周囲を、数匹の魔獣が取り囲んでいる。


「数は六!」


 女冒険者が短剣を構える。


「任せて!」


 女魔法使いが杖を掲げる。


「――風よ!」


 魔獣が吹き飛ぶ。


 勇者が残った魔獣を斬る。


 聖女が負傷した御者を治療する。


 そして。


「もう大丈夫です」


 ユウは倒れた馬車を起こしていた。


「……」


 女冒険者が呆れる。


「戦闘が終わる前に修理してるし」


「壊れていたので」


「そうだけど」


 馬車の中から。


 一人の少女が出てきた。


 十六歳くらい。


 白い髪。


 旅装束。


 胸元には、古い聖印がある。


「ありがとうございます」


 少女は頭を下げる。


 聖女が尋ねる。


「一人で旅をしていたの?」


「はい」


「どこへ?」


 少女は。


 五人を見る。


 そして。


「聖域へ」


 答えた。


「……」


 全員が顔を見合わせた。


⸻


2 聖域を目指す少女


「聖域へ行く理由は?」


 勇者が尋ねる。


 少女は少し迷ってから答えた。


「探している人がいるんです」


「誰?」


「名前は……分かりません」


「分からない?」


「はい」


 少女は胸元の聖印を握る。


「ずっと昔から、夢に出てくる人なんです」


 ユウが顔を上げる。


「どんな人ですか?」


 少女は少し考える。


「普通の男の子です」


「……」


「剣も弱くて、魔法も使えなくて」


「……」


「でも、いつも誰かを助けている」


 女魔法使いがユウを見る。


 女冒険者も。


 勇者も。


 聖女も。


 全員が同じことを考えていた。


「それ……」


 勇者が言いかける。


 ユウが止める。


「まだ分かりません」


 少女はユウを見る。


「あなた」


「はい?」


「その人に似ています」


「……」


「すごく」


 ユウは苦笑する。


「よく言われます」


 女冒険者が小声で言う。


「誰に?」


「最近です」


「最近なのね……」


⸻


3 臨時護衛


 少女は一人で聖域を目指していた。


 勇者は腕を組む。


「危険すぎる」


「でも、私は行かなければなりません」


「理由は?」


「分からないんです」


 少女は答える。


「でも、行かなければならない気がするんです」


 聖女が優しく微笑む。


「なら、一緒に行きましょう」


「いいんですか?」


「もちろん」


 女冒険者が頷く。


「人数は多いほうがいいしね」


 女魔法使いも同意する。


「聖域へ行く目的も同じだし」


 勇者がユウを見る。


「お前は?」


「護衛します」


「即答だな」


「困っている人がいるので」


「……」


 勇者は笑った。


「じゃあ決まりだ」


 少女が頭を下げる。


「ありがとうございます」


 その時。


 ユウが少女の荷物を見る。


「少し重すぎますね」


「そうですか?」


「食料が多すぎます」


「……」


「それに毛布も二枚あります」


「寒いかと思って」


「一枚で十分です」


 ユウは荷物を整理する。


「これで半分くらい軽くなります」


 少女が驚く。


「どうしてそんなに分かるんですか?」


「商人だった前世があるので」


 女冒険者が笑う。


「また出た」


 少女も笑った。


 その笑顔を見て。


 ユウは――


 なぜか胸が痛くなった。


⸻


4 知らないはずの懐かしさ


 夜。


 野営。


 少女は焚き火の向こうに座っていた。


 ユウは食事を作っている。


「料理もできるんですか?」


「前世で料理人だったことがあります」


「……」


 少女が笑う。


「本当に何でもできますね」


「何でもではありません」


「苦手なものは?」


「歌です」


 女魔法使いが即答する。


「確かに」


「まだ歌ってませんけど」


「なんとなく分かる」


 笑いが起きる。


 少女も笑っている。


 ユウは。


 その横顔を見ていた。


「……」


 胸の奥がざわつく。


 この笑い方。


 この声。


 初めて会ったはずなのに。


 ずっと昔から知っている。


「どうしました?」


 少女が尋ねる。


「いえ」


 ユウは首を振る。


「何でもありません」


 少女は少しだけ首を傾げた。


 そして。


「……ユウさん」


「はい?」


「私たち」


「?」


「前にも会ったことがありますか?」


 ユウは答えられなかった。


⸻


5 聖女の記憶


 夜更け。


 少女が眠った後。


 聖女がユウの隣に座る。


「気づきましたか?」


「はい」


「彼女のこと」


「……」


 ユウは焚き火を見る。


「たぶん、俺の前世に関係しています」


 聖女は頷く。


「私もそう思います」


「でも」


 ユウは首を振る。


「思い出せない」


「無理に思い出す必要はありません」


「……」


「思い出すことが、必ずしも正しいとは限りません」


 ユウが聖女を見る。


「どういう意味ですか?」


「あなたは、前世をすべて覚えている」


「はい」


「だからこそ」


 聖女は微笑む。


「今世で初めて出会う人を、今世の人として見ることも大切だと思います」


 ユウはしばらく黙る。


「……そうですね」


 少しだけ。


 気持ちが軽くなった。


⸻


6 最初の襲撃


 翌朝。


 森を抜ける途中。


 突然。


 矢が飛んできた。


 ――ヒュッ!


「伏せろ!」


 勇者が叫ぶ。


 矢が木に刺さる。


「敵!」


 女冒険者が走る。


 森の中から。


 黒装束の男たちが現れた。


「聖域へ行かせるな!」


 ユウが少女を見る。


「狙いは彼女です」


「分かってる!」


 勇者が前へ出る。


 女魔法使いが魔法を放つ。


 聖女が少女を守る。


 女冒険者が敵の背後へ回る。


 そして。


 ユウは――


「ここ!」


 地面を踏み抜いた。


 ――ズドン!


 仕掛けてあった罠が崩れる。


 敵が次々と穴へ落ちる。


「……」


 勇者が振り返る。


「お前、いつ仕掛けた?」


「さっきです」


「いつの間に!?」


「道が少し変だったので」


 女冒険者が笑う。


「さすが狩人!」


 敵を制圧する。


 その中の一人を女冒険者が捕らえる。


「誰に命令された?」


 男は黙っている。


 ユウが近づく。


「王宮ですか?」


 男の表情が変わった。


「……!」


 それだけで十分だった。


⸻


7 少女の正体


 敵を縛り。


 一行は再び歩き始めた。


 少女は俯いている。


「私のせいですよね」


 勇者が答える。


「君のせいじゃない」


「でも……」


 少女は胸元の聖印を握る。


「これを持っているから」


 聖女が見る。


「その聖印……」


「知っていますか?」


「はい」


 聖女の顔が青ざめる。


「三百年前」


 彼女は言った。


「私たちが守っていたものです」


「……!」


 少女が目を見開く。


「これが?」


「はい」


 ユウが聖印を見る。


 古い紋章。


 その裏に。


 小さな文字が刻まれている。


『最初の約束を忘れないために』


 ユウの頭に。


 激しい頭痛が走った。


「――っ!」


「ユウさん!」


 聖女が支える。


 記憶が流れ込む。


 雨。


 炎。


 泣いている少女。


 そして。


 三百年前の自分。


『必ず迎えに来る』


『本当に?』


『約束する』


 少女の声。


『じゃあ、ここで待ってる』


 ――そこで。


 記憶が途切れた。


⸻


8 少女が待っていたもの


 ユウは目を開ける。


 少女が心配そうに見ている。


「大丈夫ですか?」


「はい」


「顔色が……」


「大丈夫です」


 ユウは立ち上がる。


 そして。


 少女を見る。


「あなたは」


「はい」


「三百年前から……ここで待っていたんですか?」


 少女は驚く。


「……」


 そして。


 ゆっくり頷いた。


「はい」


「どうして?」


「約束したからです」


 少女は微笑む。


「いつか、あの人が戻ってくるって」


 ユウの胸が痛む。


「でも……」


「?」


「俺は」


 ユウは自分の胸に手を当てる。


「その約束を忘れていました」


 少女は首を振る。


「大丈夫です」


「……」


「あなたが忘れていても」


 少女は笑った。


「私は覚えていますから」


 その言葉に。


 ユウは何も言えなかった。


⸻


9 聖域


 夕方。


 森を抜ける。


 その先に。


 巨大な白い門があった。


 人間の国にも。


 魔族の国にも属さない。


 古代の聖域。


 門の前には石碑がある。


 そこに刻まれていた。


『人間と魔族が手を取り合った時のみ、門は開く』


 勇者が手を当てる。


 開かない。


 女魔法使い。


 開かない。


 聖女。


 開かない。


 女冒険者。


 開かない。


 最後に。


 魔族の少女が手を当てる。


 そして。


 ユウも手を重ねた。


 ――ゴォォォン。


 巨大な門が開く。


 白い光が五人を包む。


 その瞬間。


 ユウの頭の中に。


 最後の記憶が蘇った。


 三百年前。


 自分が死ぬ直前。


 少女に向かって。


 確かに言っていた。


『俺は、必ず戻る』


 そして。


 その少女こそ――


 今、目の前にいる少女だった。


 ユウは。


 静かに少女を見る。


「……ただいま」


 少女の目から。


 一筋の涙が落ちた。


「……おかえりなさい」


 その瞬間。


 聖域の奥から。


 鐘が鳴る。


 一度。


 二度。


 三度。


 そして。


 石碑に新しい文字が浮かび上がった。


『最後の英雄、帰還』


 勇者が目を見開く。


「最後の英雄?」


 女魔法使いも息を呑む。


 聖女が呟く。


「まさか……」


 ユウは首を振る。


「俺は英雄じゃありません」


 だが。


 石碑はさらに文字を刻む。


『英雄とは――』


 そして。


 全員が見つめる中。


 最後の一文が現れた。


『最初に誰かを助けた者を、そう呼ぶ。』


 ユウは。


 何も言わなかった。


 ただ。


 隣に立つ少女を見た。


 少女は笑っていた。


 そして。


 聖域の最奥から。


 何百年も封じられていた扉が――


 ゆっくりと開き始めた。

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