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全前世でモブだった俺、今世も英雄の後ろで暗躍します  作者: まーサンタ
モブバイト編

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35/53

第三十五歩目 「魔王城の宿直バイトと、三百年前の魔王」


 魔王城の地下。


 暗闇の奥から、一人の男が歩いてくる。


「三百年ぶりだな」


 その声を聞いた瞬間。


 ユウの身体が動かなくなった。


「……」


 勇者が剣を抜く。


「誰だ?」


 男は答えない。


 ただ、ユウだけを見ている。


「お前は……」


 男が呟く。


「また、俺たちの後ろにいるのか」


「……!」


 ユウの胸が締めつけられる。


 その言葉。


 聞いたことがある。


 何度も。


 何度も。


 だが――


「あなたは……誰ですか?」


 ユウが尋ねる。


 男は静かに笑った。


「忘れたか」


 そして。


「俺は、お前が最初に救った魔族だ」


 聖女が息を呑んだ。


「……!」


 女魔法使いも目を見開く。


「まさか……」


 女冒険者が呟く。


「魔王?」


 男は頷いた。


「そうだ」


 勇者が剣を構える。


「魔王が……三百年前から生きている?」


「違う」


 魔王は首を振った。


「俺も死んだ」


「では、なぜ?」


「残ったのは魂だけだ」


 そして。


 魔王はユウを見る。


「お前と同じようにな」


⸻


1 最初の約束


 ユウの脳裏に。


 古い記憶が蘇る。


 三百年前。


 まだ魔王ではなかった少女。


 傷だらけで。


 怯えて。


 少年だったユウの前に現れた。


『助けて』


『こっち』


 あの時の約束。


『また会おう』


 少女は笑った。


 その後。


 少女は魔族の王となった。


 人間と魔族の戦争を終わらせるため。


 そして。


 ユウと共に王都へ向かった。


 だが。


 戦争は終わらなかった。


 王国は二人を利用した。


 魔族の王を「魔王」と呼び。


 人間の英雄を「勇者」と呼んだ。


 両者を戦わせるために。


「……」


 ユウは頭を押さえる。


「俺は……」


「思い出してきたか?」


 魔王が尋ねる。


「少しだけ」


「そうか」


 魔王は微笑んだ。


「なら、話せる」


⸻


2 魔王が死んだ日


「三百年前」


 魔王は語り始めた。


「俺たちは王都へ向かった」


 勇者。


 女魔法使い。


 聖女。


 冒険者。


 そして。


 魔族の王。


「目的は戦争を終わらせることだった」


 女冒険者が呟く。


「でも、私たちは王都へ着く前に……」


「裏切られた」


 魔王が答える。


「王国軍に囲まれた」


 聖女が胸元を押さえる。


「……思い出しました」


 炎。


 血。


 逃げ惑う人々。


 そして。


 ユウが一人で敵を引きつけていた。


「ユウさん」


 聖女の目に涙が浮かぶ。


「あなたは……私たちを逃がすために」


「……」


 ユウは黙っている。


「でも」


 魔王が続けた。


「お前だけではなかった」


 魔王の顔が曇る。


「俺も死んだ」


⸻


3 魔王の最期


 記憶の中。


 魔王は一人。


 崩れた玉座の間にいた。


 王国兵が迫る。


 魔王は傷だらけだった。


『逃げろ!』


 ユウの声。


『嫌だ!』


 魔王が叫ぶ。


『お前まで死んだら、全部無駄になる!』


『……』


『ユウ!』


 魔王は笑った。


『約束しただろ』


『何を?』


『また会おうって』


 そして。


 魔王は剣を抜いた。


『だから――』


 最後まで戦った。


 王国軍を食い止め。


 ユウたちを逃がした。


 そして。


 命を落とした。


「……」


 現在。


 ユウは目を閉じる。


「俺……忘れてました」


「仕方ない」


 魔王は微笑む。


「お前は何度も生きた」


「……」


「俺のことを忘れても、不思議じゃない」


 ユウは首を振る。


「違います」


「?」


「忘れたくて忘れたわけじゃない」


 ユウは魔王を見る。


「たぶん」


 一歩前へ。


「覚えていたら、辛すぎたんだと思います」


 魔王は。


 静かに笑った。


「……そうか」


⸻


4 聖女の記憶


 聖女が一歩前へ出る。


「では」


 彼女は魔王を見る。


「最後の記憶を教えてください」


「最後?」


「私たちが知らないことです」


 魔王は少し考える。


「一つだけある」


「何ですか?」


「ユウが死ぬ直前」


 魔王は言った。


「お前は禁術を使った」


 ユウが頷く。


「それは知っています」


「違う」


「え?」


「お前は、自分の記憶だけを残したんじゃない」


 ユウの表情が変わる。


「……?」


 魔王は続けた。


「俺たち五人の記憶を、全部まとめて保存した。」


「……!」


 女魔法使いが息を呑む。


「だから……」


「転生するたびに」


 魔王が言う。


「お前の中に、俺たちの記憶の断片が流れ込んでいた」


 ユウは思い返す。


 前世で見た夢。


 知らないはずの場所。


 会ったことのない人への懐かしさ。


「だから俺は……」


「英雄たちのそばへ行った」


 魔王が答える。


「無意識に、仲間を探していたんだ」


⸻


5 「偶然」の正体


 女冒険者がユウを見る。


「じゃあ……」


 女魔法使いも。


「あなたが私たちの近くに現れるのは」


 聖女が続ける。


「偶然ではなかった?」


 ユウは黙る。


「……」


 そして。


「分かりません」


「え?」


「本当に分からないんです」


 ユウは困ったように笑う。


「俺は毎回、本気で偶然だと思ってました」


 勇者が腕を組む。


「じゃあ、今回も?」


「はい」


「魔王城への求人を見つけたのも?」


「はい」


「王宮庭園のバイトも?」


「はい」


「地下研究所に潜り込んだのも?」


「……求人はありませんでしたけど」


「そこだけ違うのかよ!」


 女冒険者が吹き出す。


「でも」


 聖女が微笑む。


「きっと、それでいいんです」


「?」


「意識していなくても」


 聖女はユウを見る。


「あなたは、私たちを見つけていたんでしょう?」


 ユウは答えない。


 ただ。


 少しだけ笑った。


⸻


6 「聖」の意味


 女魔法使いが、先ほどの本を開く。


「待って」


「どうした?」


「さっきの最後の文字」


 彼女は指を差す。


『聖』


「これ」


 聖女を見る。


「あなたのことじゃないかもしれない」


「……」


「別の意味がある」


 ユウが考える。


「聖――」


 魔王が口を開く。


「聖域」


「え?」


「三百年前」


 魔王は言った。


「王国と魔族のどちらにも属さない場所があった」


 そこは。


 人間も魔族も立ち入れない。


 戦争の影響を受けない。


 古代の神殿。


「その場所に」


 魔王が続ける。


「すべての証拠を隠した」


 勇者が尋ねる。


「何の証拠だ?」


「戦争を始めた本当の理由」


 女魔法使いが息を呑む。


「それがあれば……」


「王家を追い詰められる」


 魔王は頷く。


「だが」


 その表情が変わる。


「同時に」


 魔王城全体が揺れた。


 ――ゴゴゴゴゴ……。


「聖域を守る者がいる」


 地面が割れる。


 巨大な魔法陣が浮かび上がる。


「三百年前から、一度も倒されていない」


 勇者が剣を抜く。


「何者だ?」


 魔王は答える。


「俺たちが、最後に戦えなかった相手だ」


⸻


7 魔王城防衛機構


 魔法陣から。


 一体の巨大な魔物が現れた。


 黒い甲冑。


 四本の腕。


 背中から伸びる無数の鎖。


「魔王城の守護者だ」


 女冒険者が短剣を構える。


「強そう……」


 女魔法使いが魔力を集める。


「相当ね」


 聖女が結界を張る。


「気をつけてください!」


 勇者が前へ出る。


「俺が引きつける!」


 ――ドン!


 巨大な拳が振り下ろされる。


 勇者が受け止める。


「ぐっ……!」


「勇者!」


 女魔法使いが魔法を放つ。


 ――ドォン!


 だが。


 ほとんど効かない。


「硬すぎる!」


 女冒険者が背後へ回る。


「なら関節!」


 短剣を突き立てる。


 ――ガキン!


「嘘でしょ!」


 聖女が叫ぶ。


「ユウさん!」


「はい」


「何かありませんか?」


「あります」


 ユウは魔物を見る。


 そして。


「この魔物」


 しゃがみ込む。


「地下から魔力を吸っています」


「分かるの?」


「魔法使いだった前世があるので」


「それだけじゃ分からないでしょう!」


 ユウは床を見る。


「でも」


 石を拾う。


「掘削をしていた前世もあります」


「万能すぎる!」


 ユウは床の一部分を指す。


「ここを壊せば、魔力供給が止まります」


 女冒険者が笑う。


「じゃあ掘ろう!」


「はい」


「戦闘中に!?」


 勇者のツッコミ。


 しかし。


 女冒険者とユウが床を破壊する。


 ――バキッ!


 魔力の流れが途切れる。


 守護者の動きが鈍る。


「今!」


 勇者が突っ込む。


 女魔法使いが最大魔法。


 聖女が勇者を強化する。


 女冒険者が背後から斬り込む。


 そして。


 ユウが最後に。


「ここです」


 守護者の足元へ石を投げた。


 ――ドン!


 巨大な身体が崩れ落ちる。


「……」


 全員が沈黙。


 勇者が言う。


「今の、石?」


「はい」


「剣は?」


「使ってません」


「……」


 女冒険者が笑い出す。


「最高!」


⸻


8 魔王からの依頼


 守護者が倒れる。


 魔王が近づく。


「これで聖域へ行ける」


「……」


 ユウが振り返る。


「あなたは?」


「俺はここまでだ」


「え?」


 魔王の身体が。


 少しずつ透け始めていた。


「魂だけでは、ここから先へ行けない」


「待ってください」


 ユウが近づく。


「また会えますか?」


 魔王は笑う。


「もちろん」


「……」


「お前は何度でも転生する」


 そして。


「俺たちも、きっとどこかで会う」


 ユウは首を振る。


「それじゃなくて」


「?」


「今世で」


 ユウは言った。


「もう一度、会いたいです」


 魔王は。


 少し驚いた顔をした。


「……そうか」


 そして。


「なら」


 最後に。


「聖域へ行け」


「はい」


「そこに――」


 魔王の身体が光になる。


「お前が最初の人生で守れなかったものがある。」


「……!」


 光が消える。


 静寂。


 ユウはその場に立ち尽くしていた。


 勇者が肩を叩く。


「行こう」


「……はい」


 五人は魔王城を出る。


 その先にあるのは。


 三百年前から封じられた――


 聖域。


 そして。


 その場所には。


 ユウが最初の人生で失ったものが。


 今も残されている。


⸻


 翌朝。


 魔王城の宿屋。


 女魔族が帳簿を確認していた。


「皆さん」


「はい?」


「昨日の護衛代ですが」


 ユウが振り返る。


「こちらです」


 銀貨三十枚。


「ありがとうございます」


 さらに。


「それと」


「?」


「働きぶりが良かったので」


 女魔族は一枚の紙を渡した。


『魔王城宿屋・臨時従業員募集』


 ユウは真剣に見る。


「……」


 勇者が嫌な予感を覚える。


「おい」


「はい」


「まさか――」


「待遇がいいです」


「やっぱり!」


 女冒険者が腹を抱えて笑う。


「魔王城まで来てバイトする英雄って何なのよ!」


 ユウは真顔で答えた。


「英雄ではありません」


「じゃあ何?」


「宿屋の臨時従業員です」


「そこは否定するんだ!?」


 五人の笑い声が。


 魔王城に響いた。


 そして。


 その頃――


 聖域へ続く古い道の先で。


 一人の少女が。


 五人を待っていた。


 その少女は。


 ユウのことを知っている。


 だが。


 ユウはまだ知らない。


 彼女こそが――


 最初の人生で、最後まで守れなかった存在だということを。

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