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全前世でモブだった俺、今世も英雄の後ろで暗躍します  作者: まーサンタ
モブバイト編

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第三十三歩目 「王宮秘密記録庫と、モブが残した証拠」

第三十三歩目 「王宮秘密記録庫と、モブが残した証拠」


 王宮地下。


 秘密記録庫。


 扉が開いた瞬間、冷たい空気が流れ出した。


「……すごい」


 女魔法使いが呟く。


 そこには、数え切れないほどの書類や古文書が並んでいた。


 棚。


 棚。


 さらに棚。


「三百年分……?」


 女冒険者が目を丸くする。


「王宮って、こんなに秘密を隠してたんだ」


 勇者が苦笑する。


「知りたくなかったな……」


 聖女は静かに奥を見る。


「でも、これなら真実を証明できます」


 ユウは棚を見回した。


「……」


「どうしたの?」


 女魔法使いが尋ねる。


「整理されすぎています」


「え?」


「この記録庫、誰かが今も管理しています」


「……」


 全員が黙った。


 つまり。


 ここは過去の遺物ではない。


 今も使われている場所だ。


⸻


1 王宮の秘密


 ユウは棚から一冊の記録を取り出した。


「三百年前」


 ページを開く。


「王家と魔族の間で、秘密の和平交渉が行われています」


 勇者が覗き込む。


「じゃあ、やっぱり……」


「魔族が一方的に攻めてきたわけじゃない」


 女魔法使いが別の書類を探す。


「こっちにもあるわ」


 王国軍の命令書。


 そこには。


『和平交渉を破棄せよ』


『魔族領への侵攻を開始』


『民衆には魔族の侵略と発表する』


 と記されていた。


「……」


 勇者が拳を握る。


「全部、王国が始めたのか」


「正確には」


 ユウが答える。


「王家の一部です」


「一部?」


「王国民全員が悪かったわけではありません」


 ユウは記録を見る。


「戦争を止めようとした人たちもいます」


 聖女が頷く。


「だからこそ、歴史が歪められた」


⸻


2 名もなき少年の記録


 女冒険者が一冊の古い本を取り出す。


「これ」


「何?」


「題名がない」


 表紙には何も書かれていない。


 開いてみる。


 最初のページ。


『記録対象――少年』


 その下に。


『出自不明』


『戦闘能力――低』


『魔力――ほぼ皆無』


『知能――平均』


『特殊能力――なし』


 女冒険者が読む。


「……」


「完全にモブじゃん」


 ユウが苦笑する。


「そうですね」


「笑うところ?」


「事実なので」


 さらにページをめくる。


『しかし、対象には奇妙な特徴がある』


『英雄たちが、対象を信頼している』


『対象が存在することで、英雄たちの能力が向上する』


「能力が向上?」


 勇者が驚く。


「俺たちが?」


「記録にはそう書かれています」


 女魔法使いが眉を寄せる。


「具体的には?」


 ユウが読む。


「勇者――判断力向上」


「……」


「聖女――精神安定」


「……」


「魔法使い――魔力制御向上」


「……」


「冒険者――危機察知能力向上」


 女冒険者が目を丸くする。


「え、私も?」


「そして最後に」


 ユウがページをめくる。


『少年本人の能力は、一切向上しない』


 沈黙。


「……」


 勇者が肩を震わせる。


「そこだけ変わらないのかよ」


「俺らしいですね」


「笑えねえよ!」


⸻


3 転生の始まり


 記録の最後。


 そこには。


 少年が死んだ日のことが書かれていた。


『対象、死亡』


『しかし――』


 次のページ。


『死亡直前、禁術を使用した形跡あり』


『魂に記憶を刻んだ可能性』


 女魔法使いが呟く。


「これが……」


「俺が前世を覚えている理由です」


 ユウは静かに答える。


 さらに読み進める。


『対象が再び転生した場合、英雄たちの魂を追跡する可能性あり』


『同一人物との接触率――極めて高い』


『対象は英雄のそばに現れる』


 勇者が振り返る。


「……」


「どうしました?」


「今まで」


 勇者は考える。


「お前が俺たちのところに現れたのって……」


「偶然です」


「……」


 女魔法使いが笑う。


「まだ言うのね」


「本当に偶然だと思ってます」


 女冒険者が呆れる。


「じゃあ、なんで毎回バイトしてるの?」


「求人があるからです」


「そこじゃない!」


⸻


4 王の計画


 記録庫の奥。


 ひときわ新しい書類があった。


「……今代の記録」


 ユウが開く。


『転生者ユウ・タナカ』


 そこには。


 今世での行動が細かく記されていた。


「王宮は……俺を監視していた?」


 勇者が険しい顔になる。


「いつから?」


「生まれた時からです」


「……!」


 聖女が震える。


「そんな……」


 ユウはさらに読み進める。


『対象は平民として育成』


『能力を自覚させない』


『英雄との接触を防止』


『必要に応じて処分』


 女冒険者が怒る。


「生まれた時から殺すつもりだったの?」


「でも」


 女魔法使いが指差す。


「全部失敗してる」


 確かに。


 ユウは英雄たちと出会った。


 そして。


 今も生きている。


「……」


 ユウは苦笑する。


「王宮の人たち、仕事が大変ですね」


「そこを心配するな!」


 勇者のツッコミが響く。


⸻


5 王の登場


 その時。


 ――パチ、パチ、パチ。


 拍手が聞こえた。


「素晴らしい」


 全員が振り返る。


 記録庫の入口。


 国王が立っていた。


 その後ろには大量の兵士。


「陛下……」


 聖女が呟く。


 国王はゆっくり歩いてくる。


「よくここまで来たな」


 勇者が剣を構える。


「全部知っていたんだな」


「ああ」


「三百年前のことも」


「もちろん」


「俺たちの転生も」


「当然だ」


 国王はユウを見る。


「そして、お前がここへ来ることもな」


 ユウは黙っている。


「なら」


 勇者が問う。


「なぜ止めなかった?」


 国王は笑う。


「止める必要がなかったからだ」


「何?」


「ここに来れば、お前たちは必ず真実を見る」


 国王が指を鳴らす。


 記録庫の扉が閉まる。


「そして」


 床に魔法陣が浮かび上がった。


「真実を知った者は――」


 兵士たちが剣を抜く。


「生かして帰せない」


⸻


6 モブの反撃


「囲まれたな」


 勇者が呟く。


「何人いる?」


 女冒険者が周囲を見る。


「五十以上」


「多いな」


 女魔法使いが杖を握る。


「どうする?」


 聖女がユウを見る。


 ユウは。


 周囲を見回していた。


 そして。


「……大丈夫です」


「何が?」


「出口があります」


「どこ?」


 ユウは棚を見る。


「右から三番目」


「え?」


「その棚の裏」


 女冒険者が走る。


「本当だ!」


 棚を動かす。


 そこには。


 狭い通路。


「なんで分かるの?」


「前世で王宮の地下工事をしていたので」


「そんな前世まであるの!?」


「あります」


 勇者が叫ぶ。


「全員、行くぞ!」


 五人が走る。


 兵士たちが追う。


 女魔法使いが魔法で足止め。


 聖女が結界を張る。


 女冒険者が先導する。


 勇者が最後尾を守る。


 そして。


 ユウが通路の奥で立ち止まった。


「ここです」


「何?」


「出口」


 壁に触れる。


 ――ゴゴゴゴ。


 隠し扉が開く。


 その先は。


 王宮庭園。


 最初にユウが働いていた場所だった。


「……」


 勇者が外へ出る。


「助かった」


「よかったですね」


 ユウは振り返る。


 しかし。


 国王は追ってこなかった。


「……」


 女魔法使いが気づく。


「おかしいわ」


「何が?」


「私たちを逃がした?」


 ユウは考える。


「……たぶん」


 聖女が呟く。


「目的が、別にあるのかもしれません」


⸻


7 最後の記録


 王宮から脱出した五人。


 夜の街を走り。


 安全な場所まで逃げる。


 そこで。


 ユウは秘密記録庫から持ち出した一枚の紙を見る。


「これ……」


 紙の裏に。


 小さな文字があった。


『もし王家がこの記録を隠したなら』


『次に探すべき場所は――』


 その下に。


 一つの地名。


 女冒険者が目を見開く。


「……魔王城」


「え?」


 勇者が驚く。


「三百年前の魔王城は、もう廃墟のはずだ」


「そうです」


 ユウは頷く。


「でも、記録にはこうあります」


『すべての始まりは、魔王城にある』


 四人が黙る。


 そして。


 ユウは小さく笑った。


「行きましょう」


「魔王城へ?」


「はい」


 女冒険者が笑う。


「いよいよ冒険らしくなってきた!」


 女魔法使いも頷く。


「そうね」


 聖女は静かに空を見上げる。


「三百年前の答えが、そこにあるのかもしれません」


 勇者が剣を背負う。


「決まりだな」


 五人は歩き始める。


 だが。


 ユウだけは知らなかった。


 魔王城へ向かう道の途中に――


 自分が次に働くことになる店があることを。


 そして。


 その店の求人票には。


『魔王城跡地への護衛兼、荷物運搬係』


 と書かれていた。


 ユウは翌朝。


 それを見つける。


「……」


「どうした?」


 勇者が聞く。


 ユウは求人票を見せる。


「バイトがありました」


「……」


 全員、沈黙。


 女冒険者が吹き出した。


「もう絶対、偶然じゃないでしょ!」


「偶然です」


「その顔で言う!?」


 ユウは真顔だった。


「条件もいいです」


「そこじゃない!」


 こうして。


 五人の魔王城への旅は――


 ユウのバイト付きで始まることになった。

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