第三十二歩目 「王宮庭師バイトと、英雄を嫌う王様」
王都。
王宮正門。
そこには、厳重な警備が敷かれていた。
「……」
勇者が門を見上げる。
「どうやって入る?」
女魔法使いがユウを見る。
「もう決まってるんじゃない?」
「はい」
ユウは一枚の紙を取り出した。
「庭園管理補助員です」
「……」
勇者が天を仰ぐ。
「本当に見つけてきたのか……」
「募集が出てました」
「王宮だぞ?」
「庭は広いですから」
「そういう問題じゃない」
女冒険者が笑う。
「でも、これなら堂々と入れるよね」
「確かに」
聖女も頷く。
「ユウさんにしかできない方法ですね」
「ありがとうございます」
「褒めてないと思うぞ」
⸻
1 王宮庭師
「採用!」
王宮庭園の責任者は、ユウの履歴書を見て即答した。
「本当に?」
勇者が小声で驚く。
「植物の知識は?」
「あります」
「土壌管理は?」
「できます」
「害虫対策は?」
「前世で農民だった時に」
「剪定は?」
「できます」
「薬草栽培は?」
「薬師だった時に」
庭園責任者が目を輝かせる。
「即戦力だ!」
勇者が頭を抱える。
「こいつ、前世の使い道がおかしい……」
ユウは庭園へ入る。
広大な庭。
色とりどりの花。
王族専用の温室。
薬草園。
そして。
庭の奥には、大きな古木が一本だけ立っていた。
「……」
ユウは足を止める。
「どうした?」
女冒険者が尋ねる。
「この木」
「何かあるの?」
「根が変です」
ユウはしゃがみ込む。
土に触れる。
「……空洞があります」
「また?」
女魔法使いが呆れる。
「どうしてあなたは、どこへ行っても地下を見つけるの?」
「昔からです」
ユウは小さなシャベルを取り出した。
「掘ります」
「庭師の仕事なの、それ?」
「たぶん」
⸻
2 王宮の地下
土を掘る。
石。
根。
さらに掘る。
すると。
――カン。
「何かあります」
金属音。
ユウが慎重に土を払う。
そこには。
古い鉄の箱が埋まっていた。
「……」
勇者が周囲を見る。
「これ、王宮に埋まってたんだよな?」
「はい」
「だったら、開けるなよ」
「なぜ?」
「絶対ろくなものじゃない」
女冒険者が笑う。
「でも開けるんでしょ?」
「はい」
「即答!」
ユウが鍵を調べる。
「古いですね」
「開けられる?」
「たぶん」
カチッ。
蓋が開く。
中には。
古い手紙。
王家の印章。
そして一冊の記録帳。
「……」
女魔法使いが記録帳を開く。
「三百年前の王宮記録」
ページをめくる。
そこには。
戦争の裏側。
魔族との交渉。
初代英雄への命令。
そして――
名もなき少年について。
『少年は危険である』
『英雄たちを結びつける存在』
『彼が真実を知れば、計画が崩壊する』
聖女が息を呑む。
「計画……」
さらにページをめくる。
『少年を殺害する』
ユウの手が止まった。
「……」
勇者が拳を握る。
「三百年前から……」
ユウは黙って記録を見ていた。
すると。
最後のページに。
一行だけ書かれていた。
『ただし、少年は死後も転生する可能性あり』
『転生した場合――』
『記憶を持つ前に処分すること。』
女冒険者が呟く。
「つまり……」
ユウは静かに答える。
「俺は三百年前から、ずっと狙われていた」
⸻
3 王の命令
その頃。
王宮最上階。
国王の執務室。
「報告は?」
「地下研究所は壊滅」
研究責任者が跪いている。
「ですが、対象は逃亡しました」
「五人で?」
「はい」
「……」
国王は窓の外を見る。
王宮庭園。
そこに――
ユウがいる。
「そうか」
国王は静かに笑った。
「ならば、ここへ来ると思っていた」
「陛下?」
「三百年前と同じだ」
国王は言う。
「英雄たちは必ず、真実を求めて王宮へ来る」
「では、捕らえますか?」
「いや」
国王は首を振る。
「まだだ」
「……?」
「奴には、王宮の中を歩かせろ」
「なぜです?」
「自分が何者なのか」
国王は笑う。
「最後まで思い出させてやる」
⸻
4 聖女と王
昼。
王宮の礼拝堂。
聖女が一人で祈っていた。
「……」
そこへ。
「聖女」
国王が現れた。
「陛下」
聖女が立ち上がる。
「久しぶりだな」
「はい」
「王都を逃げたそうだな」
「逃げたのではありません」
聖女は答える。
「真実を探しています」
「真実?」
「三百年前の戦争について」
国王の表情が変わる。
「何を知った?」
「まだすべてではありません」
「そうか」
国王は聖女に近づく。
「ならば、一つ教えてやろう」
「……?」
「お前は三百年前にも、私の祖先に逆らった」
聖女が目を見開く。
「そして」
国王は微笑む。
「最後まで、あの少年を庇った」
聖女の記憶が揺れる。
炎。
少年。
血。
そして。
『逃げて!』
聖女の目に涙が浮かぶ。
「……あなたたちは」
国王が言う。
「何度生まれ変わっても、同じことをする」
「だったら」
聖女は国王を見る。
「私たちは、何度でも止めます」
「……」
国王は笑った。
「そうか」
そして。
「では、次は誰が死ぬのかな?」
聖女の顔が強張る。
⸻
5 庭園の少年
庭園。
ユウは古木の下で、薬草を植えていた。
土に触れる。
根を整える。
水を撒く。
いつもの仕事。
「……」
だが。
胸の奥に違和感がある。
「ユウ」
勇者が近づいてきた。
「国王に会った」
「聖女もです」
ユウが振り返る。
「何か言われました?」
「三百年前のことを知っている」
「……」
「どうやら、俺たちがここへ来ることも分かっていたらしい」
「そうですか」
ユウは土をならす。
「怖くないのか?」
「怖いですよ」
「そうは見えない」
「庭師の仕事中なので」
「それ関係あるか?」
ユウは笑った。
「土を触ってると落ち着くんです」
その時。
古木の枝が揺れた。
風はない。
「……?」
ユウが見上げる。
一本の葉が落ちる。
地面に触れた瞬間。
光った。
「何だ?」
ユウが拾う。
葉の裏に。
小さな文字が浮かんでいた。
『王宮地下、北側第七通路』
『そこに最後の記録あり』
「……」
女魔法使いが近づく。
「誰が書いたの?」
「分かりません」
ユウは葉を裏返す。
その文字を見て。
突然。
記憶が蘇った。
最初の人生。
少年だった自分。
そして。
古木の前で。
一人の男が言っている。
『もし俺がいなくなったら』
『この木の下を掘れ』
『真実はそこにある』
「……!」
ユウは息を呑んだ。
「思い出した」
「何を?」
「最初の人生で」
ユウは古木を見る。
「俺は、この場所に何かを隠した」
⸻
6 王宮地下への入口
夜。
五人は庭園に集まった。
「北側第七通路」
女冒険者が地図を広げる。
「ここだね」
「行ける?」
「もちろん」
勇者が剣を抜く。
「じゃあ行こう」
ユウは古木の根元に立つ。
「ここです」
掘削を始める。
数分後。
石の階段が現れた。
「……」
女魔法使いが呟く。
「王宮の地下に、こんな場所が」
「三百年前の地下道ですね」
聖女が言う。
「私、知ってる」
全員が振り返る。
「この先に」
聖女は震える声で言った。
「私たちが最後に集まった場所があります」
「……」
ユウが見る。
「じゃあ、行きましょう」
五人は階段を下りる。
一段。
また一段。
やがて。
巨大な扉が現れた。
その扉には。
五人の手形が刻まれている。
「……」
勇者が手を当てる。
女魔法使い。
聖女。
女冒険者。
最後に。
ユウ。
――ゴゴゴゴゴ。
扉が開く。
その奥には。
一つの部屋。
中央に置かれた机。
机の上には。
一枚の紙。
そして。
その紙には。
ユウ自身の筆跡で――
『もし、これを読んでいるなら』
『俺はまた、生まれ変わったらしい』
と書かれていた。
ユウは。
ただ。
呆然と立っていた。
「……俺が書いた?」
勇者が隣に立つ。
「みたいだな」
ユウは紙を手に取る。
その続きには。
『次の人生の俺へ』
『一つだけ、覚えておけ』
そして。
最後の一文。
『お前が英雄を支えるのは、英雄になれないからじゃない。』
『お前自身が、英雄たちを生み出した最初の人間だからだ。』
ユウは息を止めた。
そして。
部屋の奥から。
カチリ。
何かが動く音がした。
壁が開く。
その先にあったのは――
三百年前の。
王宮の秘密記録庫。
そこには。
今代の国王まで続く。
すべての陰謀の記録が――
眠っていた。




