第三十一歩目 「英雄の墓参りバイトと、最初の人生の真実」
地下研究所の最奥。
巨大な石扉が、ゆっくりと開いていく。
――ゴゴゴゴゴ……。
その向こうには。
巨大な石棺が一つ。
周囲には無数の古代文字。
そして。
棺の前に立つ一人の男。
「……」
ユウは、その男を見つめていた。
「知ってる……」
胸の奥がざわつく。
声。
姿。
立ち方。
すべてが記憶の奥に残っている。
「最初の人生で……」
男が笑う。
「ようやく思い出したか」
勇者が剣を構える。
「誰だ?」
「三百年前の英雄だ」
男は答えた。
「お前たちが探していた存在だ」
女冒険者が目を見開く。
「初代英雄……?」
「そう」
聖女が震える。
「でも……あなたは死んだはず」
「死んだ」
男は笑う。
「三百年前にな」
女魔法使いが杖を構える。
「じゃあ、これは……」
「残留思念だ」
男が答えた。
「私の記憶だけが、この墓に残っている」
そして。
ユウを見る。
「だが、お前を待っていた」
⸻
1 最初の人生
男が手を伸ばす。
光が広がる。
――そして。
ユウの頭の中に。
三百年前の光景が流れ込んできた。
小さな村。
少年だった自分。
畑。
家。
平凡な毎日。
「……」
勇者たちも黙って見ている。
少年のユウは。
何者でもなかった。
剣も使えない。
魔法も使えない。
ただ。
手先が器用で。
人の手伝いをするのが好きだった。
そんなある日。
村に一人の少女が逃げ込んできた。
魔族の少女。
傷だらけだった。
「助けて……」
少年は迷わず手を差し出した。
「こっち」
それが。
すべての始まりだった。
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2 少年と少女
少年は少女を家の地下に隠した。
食べ物を分けた。
傷を治した。
少女は少しずつ元気になった。
「どうして助けるの?」
「困ってたから」
「怖くないの?」
「怖いよ」
「じゃあ、どうして?」
少年は笑った。
「困ってる人を助けるのに、理由はいらないでしょ」
少女も笑った。
「変な人」
「よく言われる」
二人は友達になった。
だが。
数日後。
村に王国軍がやって来た。
「魔族が逃げ込んだとの情報がある!」
兵士たちが家々を調べる。
少年は少女を逃がした。
「森へ行って」
「あなたは?」
「俺は大丈夫」
「でも……」
「また会おう」
少年は笑った。
「約束」
少女は泣きながら頷いた。
「うん」
⸻
3 最初の英雄
だが。
少年は捕まった。
王国軍は少年を連行した。
そこで出会ったのが――
若き日の初代英雄だった。
「なぜ魔族を逃がした?」
「友達だから」
「……」
「魔族だからって、殺すんですか?」
英雄は答えられなかった。
少年は続ける。
「あなたは英雄なんでしょう?」
「……」
「だったら」
少年は言った。
「誰かを守ってください」
その言葉が。
英雄の心を変えた。
英雄は軍を抜け。
魔族と人間の共存を訴え始めた。
そして。
勇者。
魔法使い。
聖女。
冒険者。
少年。
五人が集まった。
戦争を止めるために。
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4 裏切り
しかし。
王都は。
戦争を止めることを望まなかった。
魔力鉱石。
領土。
権力。
それらを手に入れるため。
戦争を続けたかった。
そして。
王国は英雄を利用した。
「魔王が攻めてきた」
「魔族が村を襲った」
「英雄が魔王を倒せば平和になる」
すべて。
嘘だった。
少年は気づいた。
「この戦争は……」
王国が始めたものだった。
「みんなに伝えないと」
少年は証拠を集めた。
そして。
王都へ向かった。
しかし。
途中で追っ手に襲われた。
少年は。
仲間を逃がした。
「先に行って!」
「ユウ!」
「大丈夫!」
そして。
その夜。
少年は命を落とした。
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5 最初の英雄の告白
記憶が途切れる。
地下墓地。
現在。
ユウは立ち尽くしていた。
「……」
初代英雄が言う。
「私は、お前を救えなかった」
「……」
「だから戦った」
英雄は拳を握る。
「王都と戦い、戦争を終わらせた」
「じゃあ……」
勇者が聞く。
「あなたが戦争を始めたという記録は?」
英雄は首を振った。
「あれは偽造されたものだ」
「……!」
女魔法使いが驚く。
「誰が?」
「王国の上層部だ」
英雄は続ける。
「私を戦争の英雄に仕立て上げ、真実を隠した」
「……」
「そして」
英雄はユウを見る。
「お前だけが知っていた」
「俺が?」
「そうだ」
少年だったユウは。
死ぬ直前。
すべての記憶を残す禁術を使った。
「次の人生でも」
英雄は言う。
「また真実を探せるように」
ユウは息を呑む。
「俺が……自分で?」
「ああ」
「じゃあ」
ユウは震える声で尋ねる。
「俺が何度も転生したのは……」
「お前自身の意思だ」
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6 モブである理由
ユウはしばらく黙っていた。
「……俺は」
ゆっくり口を開く。
「ずっと、自分はモブだと思ってました」
英雄は微笑む。
「そうだな」
「何度生まれ変わっても、名前を残せなかった」
「ああ」
「英雄のそばにいても、英雄にはならなかった」
「それでいい」
「……」
英雄は言った。
「お前は英雄になる必要がなかった」
「なぜ?」
「英雄の後ろにいる者がいなければ、英雄は前に進めない」
ユウは黙る。
「お前が支えた者たちは」
英雄が微笑む。
「お前のおかげで英雄になった」
勇者を見る。
「そして今も」
勇者が笑った。
「……そうだな」
ユウは苦笑する。
「でも、やっぱり俺はモブですよ」
「そうかもしれない」
英雄は笑う。
「だが――」
光が強くなる。
「物語に名前が残らなくても、誰かの人生に残ることはできる。」
ユウの胸に。
その言葉が響いた。
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7 五人の約束
聖女が一歩前へ出る。
「なら」
ユウを見る。
「今度は、私たちがあなたを支えます」
女魔法使いも頷く。
「ずっと後ろにいられたら困るもの」
女冒険者が笑う。
「今度は五人で行こうよ」
勇者が手を差し出す。
「仲間だろ?」
ユウは。
その手を見る。
そして。
握った。
「……はい」
五人の手が重なる。
その瞬間。
石棺の奥から。
一つの光が現れた。
光の中に浮かぶのは――
一枚の古い紙。
ユウが受け取る。
そこには。
『戦争を止めるための最後の証拠』
と書かれていた。
女魔法使いが目を見開く。
「これがあれば……」
「王国の嘘を暴ける」
勇者が頷く。
だが。
ユウは紙の裏を見る。
「……」
そこには。
一つの名前。
「誰?」
聖女が尋ねる。
ユウは答える。
「王国の現在の王家に繋がる名前です」
「……」
勇者の顔が険しくなる。
つまり。
三百年前の陰謀は。
今も終わっていない。
⸻
8 英雄の墓参りバイト
翌朝。
五人は地下墓地を出た。
勇者が言う。
「これで、次の目的地は決まったな」
「王都の王宮ですね」
女魔法使いが頷く。
「でも、警備が厳しいわよ」
女冒険者が笑う。
「なら、裏口から入ればいい」
聖女も微笑む。
「ユウさんなら、また仕事を見つけられるのでは?」
「そうですね」
ユウは掲示板を見る。
「……ありました」
「え?」
『王宮内・庭園管理補助員募集』
「……」
勇者が頭を抱える。
「あるのかよ!」
「あります」
「なんで王宮にまで求人があるんだ!」
「働き手不足みたいです」
「お前、絶対わざと探してるだろ!」
「偶然です」
「もう信用できない!」
女冒険者が笑う。
「じゃあ決まりね」
「決めるな!」
ユウは求人票を手に取った。
「応募してきます」
「お前なぁ……」
勇者はため息をつく。
だが。
その顔は笑っていた。
五人は。
王宮へ向かう。
英雄の墓から持ち帰った真実を胸に。
そして。
ユウは思う。
自分はこれからも。
たぶん。
誰かの後ろにいる。
でも。
それでいい。
後ろにいることは。
逃げることではない。
誰かを支えることだから。
そして。
もし必要なら。
今度は。
自分も前へ出ればいい。
その頃。
王宮の最上階。
一人の国王が。
古い肖像画を見ていた。
そこに描かれているのは。
三百年前の五人。
勇者。
魔法使い。
聖女。
冒険者。
そして――
名もなき少年。
国王は。
その少年の顔を指でなぞる。
「……また戻ってきたか」
その目に。
初めて。
恐怖が浮かんでいた。
「今度こそ――」
国王は呟く。
「あの少年を、英雄にしてはならない。」




