↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全前世でモブだった俺、今世も英雄の後ろで暗躍します  作者: まーサンタ
モブバイト編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/53

第三十歩目 「転生者研究所潜入バイトと、英雄たちの再会」


 地下遺構に、静かな緊張が張り詰めていた。


 黒いローブの男。


 転生者研究の責任者。


 その背後には、十人ほどの兵士が並んでいる。


 勇者が剣を構える。


「ユウは渡さない」


「そうです」


 女魔法使いが杖を構える。


「私も同じ意見」


 聖女が聖印を握る。


「私も」


 女冒険者が短剣を抜く。


「もちろん」


 そして。


 ユウは――


「……」


 少しだけ困った顔をした。


「どうした?」


 勇者が聞く。


「いえ」


「何だ?」


「この研究所……」


 ユウは男の背後を見る。


「求人募集、出てませんか?」


「……」


 全員が固まった。


「今それ言う!?」


 勇者のツッコミが地下遺構に響いた。


⸻


1 戦う前に働く


「どういう意味だ?」


 研究責任者が怪訝そうに尋ねる。


「転生者研究所って、人手不足じゃないですか?」


「……」


「研究助手とか、記録係とか」


「……」


「掃除でもいいです」


「ユウ!」


 女魔法使いが叫ぶ。


「今は交渉するところじゃない!」


「でも、内部に入れれば情報を集められます」


「だからって!」


 ユウは真顔だった。


「外から見るより、中で働いたほうが早いです」


 研究責任者はしばらく黙っていた。


 そして。


「……面白い」


「?」


「お前は本当に、何でも仕事にするんだな」


「ありがとうございます」


「褒めていない」


「そうですか」


 研究責任者は笑う。


「だが、残念だ」


 指を鳴らす。


「我々は人手不足ではない」


 兵士たちが一斉に動いた。


「――捕らえろ!」


「交渉決裂ですね」


「最初から決裂してるわ!」


 勇者が飛び出した。


⸻


2 五人の連携


 剣がぶつかる。


 魔法が飛ぶ。


 女冒険者が敵の懐へ潜り込む。


 聖女の光が仲間を包む。


「左!」


 女冒険者が叫ぶ。


 勇者が振り向かずに剣を振る。


 ――ガキン!


「助かった!」


「どういたしまして!」


 女魔法使いが杖を掲げる。


「右、三人!」


「任せて!」


 勇者が突っ込む。


 聖女が回復する。


 そして。


「ユウ!」


 女魔法使いが叫ぶ。


「後ろ!」


 ユウが振り返る。


 兵士が迫っていた。


「――!」


 だが。


 ユウは一歩横へ動いただけだった。


 兵士の剣が空を切る。


 その瞬間。


 ユウは相手の腕を掴み、足を払う。


 ――ドサッ。


「……」


 勇者が目を丸くする。


「今の何?」


「狩人の前世で覚えました」


「人を狩るな!」


「狩人は人を狩りません」


「そういう意味じゃない!」


 ユウはさらに一人を倒す。


 次の兵士が襲ってくる。


 ユウは腰の工具袋から小さな金具を取り出した。


「これを」


 床へ投げる。


 兵士が踏む。


「うわっ!」


 転倒。


「……」


 女冒険者が呆れる。


「戦い方が地味!」


「モブなので」


「モブの戦い方じゃない!」


⸻


3 研究所


 戦闘の隙を突いて。


 五人は地下研究所の奥へ逃げ込んだ。


「ここは?」


 聖女が周囲を見る。


 無数の本。


 古い魔道具。


 壁一面に記録。


「転生者の研究資料ね」


 女魔法使いが本を手に取る。


「三百年前……」


 女冒険者も棚を見る。


「こっちにもある」


 勇者が奥へ進む。


「ユウ」


「はい」


「ここ、お前のことばかり書いてある」


「……」


 ユウが近づく。


 記録には。


『第一転生』


『第二転生』


『第三転生』


『第四転生』


『第五転生』


 そして。


『第六転生――未確認』


「……」


 ユウはページをめくる。


 前世の職業。


 能力。


 死亡年齢。


 生活環境。


 そのほとんどが正確に記録されている。


「どうして……」


 ユウが呟く。


「俺の前世を、ここまで……」


 女魔法使いが言う。


「誰かが記録していたのよ」


「誰が?」


 その時。


 奥から声がした。


「私だ」


 全員が振り返る。


⸻


4 研究者の正体


 研究責任者が立っていた。


 しかし。


 先ほどまでとは違う表情だった。


「三百年前から、研究は続いている」


「あなたが?」


「違う」


 男は首を振る。


「私の祖先が始めた」


「なぜ?」


「英雄を作るためだ」


 男は一冊の本を開く。


「三百年前の戦争で、英雄たちは勝った」


「……」


「だが、英雄の一人だけが歴史に名前を残さなかった」


 男がユウを見る。


「それがお前だ」


 ユウは黙っている。


「お前は英雄たちを助けた」


「……」


「だが、最後には死んだ」


 男はページをめくる。


「そして転生した」


「……」


「次の人生でも、英雄のそばにいた」


 また一枚。


「その次も」


 さらに一枚。


「その次も」


 男は笑う。


「偶然だと思っていたか?」


 ユウは答えない。


「違う」


 男が言う。


「お前は毎回、同じ魂を追っていた」


「……!」


 聖女が息を呑む。


「同じ魂……」


「勇者」


 男は勇者を見る。


「魔法使い」


 女魔法使いを見る。


「聖女」


 聖女を見る。


「冒険者」


 女冒険者を見る。


「彼らは何度も生まれ変わり、何度も出会っている」


 そして。


「その中心にいるのが――」


 ユウ。


⸻


5 ユウの前世の秘密


「でも」


 ユウが口を開く。


「それなら、どうして俺だけ全部覚えているんですか?」


 男が答える。


「最初の人生で、禁術を使ったからだ」


「禁術?」


「魂の記憶を保存する魔法」


 女魔法使いが驚く。


「そんな魔法……聞いたことがない」


「当然だ」


 男は笑う。


「失われた魔法だからな」


 ユウは頭を押さえる。


 ぼんやりと。


 最初の人生の記憶。


 森。


 炎。


 少年。


 そして――


 一冊の本。


「……俺は」


 ユウが呟く。


「自分で記憶を残した?」


「そうだ」


「なぜ?」


「それは――」


 男が答える前に。


 研究所全体が揺れた。


「何!?」


 女冒険者が身構える。


 壁が崩れる。


 天井から大量の石が落ちる。


「逃げろ!」


 勇者が叫ぶ。


 しかし。


 研究責任者は動かない。


「もう遅い」


「何が?」


 男は天井を見上げる。


「彼らが来た」


「彼ら?」


 ――ドン。


 巨大な音。


 地下研究所の扉が吹き飛ぶ。


 そこから。


 黒い鎧を着た集団が現れた。


 王国兵ではない。


 魔族でもない。


「何者だ?」


 勇者が構える。


 先頭に立つ人物が言う。


「転生者研究所は、本日をもって接収する」


 その胸には――


 見覚えのある紋章。


 三百年前。


 戦争を始めた者が使っていた紋章だった。


⸻


6 英雄の再会


 聖女が突然、胸を押さえる。


「……痛い」


「聖女?」


 ユウが振り向く。


 彼女の目に。


 三百年前の記憶が映る。


「この人たち……」


「知ってるのか?」


「はい」


 聖女が震える。


「三百年前」


 一人の男を指差す。


「この人は――」


「私たちを裏切った人です」


 勇者の顔が変わる。


「……!」


 女冒険者も記憶を探る。


「待って」


 そして。


「ああ……思い出した」


 女魔法使いも。


「私も」


 三人の記憶が繋がっていく。


 王都へ向かった五人。


 途中で仲間を裏切った者。


 そして。


 戦争を始めた初代英雄。


 その背後にいた存在。


「……」


 ユウは静かに前へ出る。


「あなたたちが」


「そうだ」


 敵の男が答える。


「三百年前から続く我々の計画を邪魔したのは、お前たちだ」


「計画?」


「英雄を作り出す」


 男は笑う。


「そして、世界を支配する」


 勇者が剣を握り直す。


「くだらない」


「何?」


「英雄は作るものじゃない」


 勇者は前へ出る。


「誰かを守ろうとした結果、英雄になるんだ」


 聖女が隣に立つ。


「私もそう思います」


 女魔法使い。


「同感」


 女冒険者。


「私も!」


 そして。


 ユウ。


「……」


 四人を見る。


 かつて。


 自分は彼らの後ろにいた。


 だが。


 今は。


「俺も」


 一歩前へ。


「一緒に戦います」


 勇者が笑う。


「それを待ってた」


⸻


 五人が並ぶ。


 その瞬間。


 地下研究所の壁に刻まれていた五人の肖像が光り始めた。


 勇者。


 女魔法使い。


 聖女。


 女冒険者。


 そして――


 名もなき少年。


 ユウ。


 光が強くなる。


 そして。


 少年の足元にだけ。


 今まで存在しなかった文字が浮かび上がった。


『第六の英雄』


「……」


 ユウは目を見開く。


「俺が……英雄?」


 勇者が笑う。


「今さら気づいたのか?」


 女魔法使いも笑う。


「あなた、ずっと英雄の後ろにいたものね」


 聖女が優しく微笑む。


「でも、今度は――」


 女冒険者が拳を握る。


「五人で前に行こう!」


 ユウは笑った。


「……はい」


 その瞬間。


 研究所の最奥から。


 巨大な扉が開いた。


 その先には――


 三百年前の戦争で失われた。


 初代英雄の墓。


 そして。


 墓の中から。


 一人の男の声が響いた。


「ようやく……帰ってきたか」


 ユウの背筋に。


 強烈な既視感が走る。


「……この声」


 知っている。


 何度も。


 何度も夢に出てきた。


 最初の人生。


 自分に何かを託した――


 あの男の声だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。